九話 無力の代償
「こうなったのは全てあなたのせいですよ!」
ああ、そうだ。全て俺のせいでいい。だからもう……しゃべるな。
俺は無心で駆け出し、テドスの腕を切り落とし、その胸へと剣を突き刺した。
返り血が飛ぶが、一切気にしなかった。
そして、同時に起き上がったローブの男たちを相手にするため、テドスを蹴り飛ばし、三人まとめて切り倒した。
「あなたは……それでいいんですよ……はっ、欲望のままに生きてください。私たちはあなたの未来ですよ……失いしものよ」
「もう黙れ」
「あなたが....こちら側にいる未来を見れなくて残念ですよ.....虚無と破壊の女神よ……闇へ誘いたまえ」
俺はもうこの男の言葉を聞きたくはなかった。
そして無言で剣を振りかぶりテドスの頭部を切り落とした。
気持ち悪い。これが――人を殺す感覚か。
今になって、その感覚が体に、心に押し寄せてくる。
これまで背負った業は積み重なり、俺の心に重くのしかかってくる。
「ダ、ダレン……」
母のか細い声が聞こえてきた。
「母様! 今、直しますから!」
そして俺は、かつて神官が唱えていた呪文を思い出し、必死に唱えた。やったことはなかったが、今やるしかなかった。
「慈愛の女神よ! 豊潤の糧を与えたまえ!」
しかし、母にその祝福が下りることはなかった。
俺にその資格はなかったのかもしれない。
母の腹からは血が流れ続け、床にびっしりと広がっていく。
「くっそ! なんでだ! なんでなんだ!」
俺は何度も呪文を唱え続けた。
しかし結果は虚しく、祝福の淡い光は現れず、ただ闇夜に照らされるだけだった。
俺が作り出してしまった惨状は、より夜を暗くしていた。
「ダレン……もう、いいのよ」
「でも!」
「いいから……聞きな.....!さい....」
母の怒鳴った声を聴いたのはこれが初めてだった。
その言葉の勢いに俺は押され、黙り込んだ。
母はそんな俺を宥め、頬にそっと手を添えてきた。
その手には、いつものぬくもりはなかった。
「あなたは私たちにとって自慢の息子よ。あなたなら……これからも強く生きていけるわ」
「でも、わ、俺は! やっと信頼できる人に出会えた! やっと自分を認められるような気がした! 未来を少しでも見れるようになった! なのに! なんで!」
俺はこの世界で恵まれていた。親に、師に、友達に。
やり直せないと思っていた人生を、もう一度歩めるような気がしていた。
「俺はいつになればここから這い上がれる? どこまで行けば俺はたどり着けるようになるんだ!」
俺はただ今の現状を嘆くことしかできなかった。
不甲斐ない自分に、大切な人を失っていく悲しみに、打ちのめされていた。
「ダレン……もう怖がらないで、怯まないで……失敗したっていいじゃない……あなたなら、立ち上がれる。私の自慢の息子だもの」
「あああ、ああ母様、お、俺は……」
その時、背後から足音がした。
「おい! ダレン! マリア! これは一体どういうじょう、きょうだぁ……?」
父は全身血まみれでやってきた。その姿からして、怪我はあまりしておらず、返り血のようだった。
しかし父の視線の先には、倒れた母とそこにいる俺の姿が映っているだろう。
この状況から、父に顔向けはできなかった。
そして父はおそるおそる近づいてきた。
「マ、マリア……」
「とう、いえ、貴方。私……これまでみたい……ごめんなさい。ずっとそばに、いれなくて」
「いや、違うんだ。そうじゃない。お前がいなければ俺は……」
「ダレンみたいな……ことを言うのね。あなたはもう父親......よ。昔とは......違って見つけられたでしょ.....?大事なものを......」
「それがお前なんだ!マリア!頼む!」
「貴方ならだいじょう.....ぶよ......愛してるわ貴方.....ダ,、レン......」
母はそっと目を閉じ、添えられた手は力を失っていった。
「つよ、く……いき、て……」
そして母の手は俺の手から零れ落ち、そのぬくもりは完全になくなってしまった。
「あ、ああああああああ!」
いつ以来だろう。こんなに大声で泣いたのは。
大切なものなんてなかった俺に、こんな気持ちになるくらい大事なものだった。
それから闇夜の中で、俺の叫び声だけが響き渡っていた。
「ダレン……そろそろ立て。やるべきことは、まだある.....」
「父様は……なんでそんな普通でいられるんだ! 母様が死んだんだぞ!」
俺は言ってはいけないことだとわかっていた。
だが俺の心は無残にも、その言葉を口にしてしまった。
「だからこそだ! マリアは俺に、お前を託したんだ! その思いを無駄にするわけにはいかない!」
父の叫び声に、俺はようやく父の顔を見た。
その顔は今にも泣きそうだった。しかし自分に鞭を打ち、それを堪えているのだろう。
そうだ。俺だけが辛いんじゃない。この人だって、俺以上に辛いはずだ。
「す……みません、父様……」
泣きそうになりながらも、父は無理に作った笑顔でこちらを見て、頭に手を添えた。
「すまんな……声を荒げた。アルディア街も襲撃を受けたらしい。救援に向かうぞ。それ以外は……いったんそのあとだ」
「はい……」
俺は何も整理できないまま、体を動かすしかなかった。
何かをしていないと、この気持ちがあふれて、自分を保てなくなる気がするから。
何かしてないと落ち着かないことってありますよね。
そんな時は小説案を練るか、寝るか、筋トレ。
ただ三択のみ




