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第三章 拷問と悦楽の饗宴

冷たい石の床に縛り付けられた俺の身体は、既に何度も熱い液体と冷たい刃の感触を味わわされていた。


レオナルトの命令で、エリーゼによる「儀式」が始まったのは、目覚めた日の夜だった。


「怖がらなくていいのよ、蓮。これはこの世界に生きる者としての“洗礼”。

あなたの魂をもっと……歪めて、濃密にして、甘美にする儀式」


エリーゼはそう囁くと、鋭く磨かれた銀の刃を俺の鎖骨の上に滑らせた。

皮膚が裂け、血が滲む。だが不思議と痛みは緩やかで、むしろその熱に身体の奥がざわつく。


「ほら、気持ち良いでしょう?」


艶然と微笑むエリーゼの手が、血を伝った俺の胸元に触れ、ゆっくりと肌を撫でる。

その指先から伝わる冷たさが、逆に火照った身体に快感を運んだ。


「お前は……何を……」


呻く俺に、レオナルトが薄紅の葡萄酒を片手に近づいてくる。


「これは快楽と苦痛、愛と憎悪、血と肉が渾然一体となった宴。

生者の倫理など、この世界には存在せぬ。

すべては欲望の赴くまま、互いを貪り、壊し、悦び合うのだ」


レオナルトの指が、俺の唇をなぞり、そのまま強引に葡萄酒を口移しに流し込んだ。

濃密な甘さと、どこか鉄錆のような香りが鼻腔を刺激する。


途端、全身が火照り、視界が霞む。


「薬……か……?」


「ええ、悦楽の妙薬。これがあれば、どんな痛みも甘美な愉悦に変わる」


エリーゼは鞭を手に取り、ゆっくりと俺の背に振り下ろした。


ビシャッ。


焼けるような衝撃と共に、血が噴き出す。

だが、薬と陶酔のせいか、痛みの先に快楽の波が押し寄せるのを感じた。


「もっと……もっと、あなたを壊してあげる」


エリーゼは執拗に鞭を振るい、レオナルトはその様子を眺めながら、艶然と微笑む。


やがてルカが現れ、俺の前に膝をついた。

蒼い瞳に哀しげな色を宿しながらも、彼女は震える指で俺の頬を撫でる。


「蓮……ごめんなさい。私も……これが、この世界で生きるための方法なの」


そう囁くと、ルカは俺の唇を優しく塞ぎ、熱く柔らかな舌を絡めた。

その口づけは、救いでもあり、さらなる堕落への誘いでもあった。


「君もすぐ、分かるようになる。この世界の悦びを……」


熱と苦痛と甘美の波が、俺の意識を次第に曖昧にしていく。


背中に走る鞭の痛み、血が滴る感触、口内で絡む舌、薬の陶酔。

それらすべてが混じり合い、俺の精神を溶かしていく。


そして、ついには俺の口から、微かな喘ぎ声が漏れた。


「……っ、あぁ……」


それを聞いたレオナルトは、満足げに微笑む。


「良い声だ、蓮。

お前はもう、完全にこちら側の者になりかけている」


エリーゼが俺の耳元に舌を這わせ、囁く。


「ねぇ、もっと堕ちて、もっと快楽に溺れて、二度と元の世界など思い出せないようにしてあげる」


ルカの蒼い瞳も、どこか狂気の色を孕んでいた。


「私も、そうして生きてきたの」


薄れゆく意識のなか、俺は自分の中の“人間らしさ”が剥ぎ取られていくのを感じた。

代わりに、血と肉の悦びに支配される、新たな本能が芽生えていく。


そして、俺は悟った。


——もう、戻れない。


そう、俺はここで、生まれ変わるのだ。

肉の悦びと血の香りに溺れながら、この歪んだ世界の一部として。


紅き闇の住人として。

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