第二章 闇の城館と快楽の主
目を覚ましたとき、まず感じたのは、腐敗した血肉のような生臭い匂いだった。
冷たい石造りの床に裸のまま横たわり、天井を仰ぐと、そこには蔦に覆われた古びた梁が走っていた。
周囲は薄暗く、赤黒い燭台の灯りだけがぼんやりと揺れている。
俺は重い身体を起こし、辺りを見回した。
と、そのとき。
「目覚めたか」
重厚な扉の向こうから、艶やかな声が響く。
ゆっくりと現れたのは、一目で常人ではないと分かる人物だった。
漆黒のローブ、胸元が大きく開き、雪のように白い肌を晒している。
レオナルト。
この城の主だと名乗った。
その顔は恐ろしいほどに美しく、男とも女ともつかない中性的な容貌。
長い睫毛に縁取られた紅の瞳は、妖艶な光を湛えている。
「ここはヴェルドゥスの城館。お前の“新たな生”の始まりの場所だ」
レオナルトの背後には二人の人物が控えていた。
ひとりは長い銀髪を背中まで流した、ノンバイナリーを自称する拷問技師、エリーゼ。
もうひとりは金髪碧眼の麗しい聖騎士だった過去を持つルカ。
彼女はもともと男だったが、この世界で“女”として生きることを選んだという。
レオナルトは微笑み、俺の頬に指を這わせた。
「お前の肉体も魂も、余のものだ。抗うことは赦されぬ」
逃げようとしたその瞬間、背後から抱きすくめられる。
エリーゼの冷たい指が俺の首筋をなぞり、耳元で囁いた。
「安心なさい。あなたには、甘美な苦痛と悦楽を教えてあげるわ」
俺は、この世界がどういう場所なのか、その瞬間に理解した。
ここは血と肉と、欲望にまみれた世界だ。
逃げ道などない。
だが不思議と、恐怖の奥に微かな興奮が芽生えていた。