第一章 過労死と異世界の目覚め
俺の名前は水城蓮。
気が付けば、蛍光灯の灯りがチカチカと明滅する薄暗いオフィスの片隅で、意識が途切れかけていた。
壁の時計は午前3時を指している。終電なんてとっくにない。
重く霞んだ視界の先で、パソコンの画面に映るのは、作りかけのプレゼン資料。
クライアントからの無茶な修正依頼に上司の怒号。
誰も彼も俺を追い詰め、逃げ場も休息も与えなかった。
胃が焼けるように痛む。
手足は氷のように冷え、呼吸は浅く、意識は朦朧とする。
「ああ……俺、もう……」
その瞬間だった。
——カツン。
乾いた靴音が、誰もいないはずのオフィスに響いた。
「お疲れ様」
低く甘やかな声が、耳元で囁かれる。
振り向くと、そこに立っていたのは、漆黒の外套を纏った人物。
性別すら判然としないほど整った容貌。
髪は銀糸のように輝き、紅玉のような瞳が俺を覗き込む。
「水城蓮。今の世界は、お前には窮屈だっただろう?」
その声に、不思議と逆らえず、俺はただ頷いていた。
「ならば、新たな世界へ行け。お前の“望み”が、すべて叶う場所だ」
俺は言葉も出せず、ただ意識が暗闇に沈んでいくのを感じた。
血のように濃い闇が、俺を包み込む。
——その先で目覚めたとき、俺はもう、“人間だった頃の自分”を失っていた。