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#14 カラオケにて

俺は山田。遊ぶのが好きな、別にどこにでもいる高校生だ。 俺のクラスには、江野畑っていう変な奴がいる。 あいつ、やたらとプライドが高いというか、なんかいつも偉そうだ。しかも、ほぼ常にSNSのことを考えてるみたいで、若干依存気味になってるように見える。俺はそんなに気にしてないけど、周りからはちょっと煙たがられてるっぽい。 そんな奴と今日はカラオケに行くことになった。また変なことを言い出さなければいいが...

放課後、約束通りに江野畑とカラオケに行くことになった。

「いい?今日は私が歌ってるのを撮影に行くから、あんたが歌う必要はないからね」

は???まさか開口一番で変なことを言うとは思わなかった...カラオケ代を割り勘しておいて、歌うなというのはまたずいぶんなことを言うな。俺も金出してんだぞ

「嫌だよ。せっかく金払うんだから、俺も歌うよ」

ここははっきりとそう宣言しておく。江野畑は若干不機嫌な顔をして、目を細めながら、

「なんであんたが歌うわけ?男が歌ってるのとか、誰も見たくないと思うんだけど」

そう言い放つ。こいつは何言ってるんだ?しかも上から目線で...これってもしかして、俺が歌う時も撮影する前提なのか?普通はそうじゃないだろ。

「俺が歌うときは、別に撮影しなくていいから。っていうか絶対にしないで」

江野畑はなぜか不思議そうな顔をした後、何かを理解したようだ。

「あんた、別に歌ってるところを誰かに見られたいってわけじゃないの?」

何を言いだすんだこいつは。普通は誰かに見られたくてカラオケ行くわけじゃないだろ

「当たり前だろ。カラオケに行くのは、たまには歌いたいと思ったからだ。お前と一緒にするな」

なんかすごいあきれ顔を向けてくる江野畑。むかつくな…かわいいからいいけど。そういうとこだよな~。なんかこいつな~、素直じゃないけど構ってほしいんだろうなぁ~

「はぁ~~、あんた意味わかんないこと言うね。そんなに歌いたいなら、一人で行けばいいじゃん。別に、撮影してほしいわけでもないんならなおさら」

まあ、そう言われればそうなんだけど。そういうとらえ方をするか~。だけど、それよりも重要なことがあるだろ

「友達とカラオケ行く方が楽しいから付いてきてるにきまってるじゃん」

江野畑の顔がだんだん下に向いていく。何なんだろうこの人は

「あっそ。まあ、あんたが歌ってるときは撮らないであげる」

その後、カラオケ屋につくまで江野畑はずっと下を向いていた。なんかもじもじしていて少し気になったが、面倒だからそっとしておいた。


部屋につくなり、江野畑は電話でフライドポテトを頼み始めた。よほど腹が減っていたらしい。

「あ!あんたの分はないからね!勝手に取らないでよ!」

ほんと自分勝手だなこいつ...自分のことをずいぶん高く見積もってやがる。さすがに言い返すか

「別にそれでもいいけど、それするんなら俺はまともに撮影しないからな?」

江野畑は少し考えて、めちゃくちゃ悔しそうな顔をしながら、

「仕方ないから、少しだけならあげる...絶対可愛く撮ってよね!」

仕方ないなぁ。そこまで言うなら撮ってやるか。こいつにとっては撮られることが目的みたいだし。

「わかった。一本だけとかはなしな?」

あ、江野畑が顔をそらした。少しって本当に少しにするつもりだったなこいつ

「なしな?」

もう一度念押しする。江野畑はめちゃくちゃ渋い顔をしながら、小さい声で

「10本で勘弁して...」

と言い出した。まあ、それなら何とか

「それで手を打とう」


会話が終わると、江野畑が歌いだし俺が撮影を始めた。

「She’s killer Queen~ Gunpowder,gelatine~」

最近アニメで聞いた曲を歌っているらしいが、なかなか上手いな~

「見て見て!82点!すごくない?」

カメラに向かってそう話しかけている江野畑。これが友達に送るのだったらわかるが…

歌い終わった後は、俺のスマホで撮影した動画を見返している。

「あぁ~、あんた撮るの下手!ちょっとあんた歌いなさい!それ撮って見本を見せてあげるから!」

え~~、撮られるの好きじゃないんだけど...でも、女の子が動画撮るなら可愛く映してほしいのはわかるからなぁ...少しだけならいいかと思いつつ、返事をする。

「わかったよ。だけど、一回だけだし、絶対にネットに出すなよ」

江野畑はあきれながら、

「はいはい、いいから早く歌いなさい」

そう返事をする。の割にはしっかりカメラ向けてくるな。撮影に対しては本気みたいだ。

とりあえず、曲を適当に選んで歌いだす。

「what will the future hold

 how will I be rewarded

 have I the right to riches

 in a world where there are no prizes 」

好きな映画のBGMで、未来に何があるのか?というだいぶ悲観的な歌詞だがそれがいい。俺は全然そんなこと考えないけど、感傷に浸ってる感じがいい。

歌い終わると、江野畑が動画を見せてきた。

「ね?よく撮れてるでしょ?こうやって撮るのよ!わかった?」

おぉ~、俺が撮った動画とは大違いだな。全体的に俺のかっこよさがよく映されている。

「江野畑って動画撮るの本当に上手いんだな!すごいな!」

これはちょっと友達に見せたいレベルでいい動画だ。

「...でしょ?私はすごいんだから!ほら、次はあんたが撮って」

調子に乗るの早いな。これぐらい上手く撮れる気はしないが、頑張ってみるか。

「わかった。頑張ってみる。それと、その動画はどうするんだ?ネットに挙げないんだろ?できれば俺も欲しいんだけど」

また江野畑が渋い顔してる。別に男の動画なんて見たくないって言ってたのに、なぜそこで渋い顔をする。

「なんかやだ!あんたの言うとおりにするのも...なんかほかにも理由がある気がするし、あげない!」

う~~ん、ネットに挙げる気はないみたいだし、そこまで欲しいってわけでもないから別にいいか。

「お前がそこまで言うならいいよ。そこまで欲しくないし」

...また江野畑が顔を下げ始めた。なんだこいつ。癖か?変わった癖だな~

「欲しくない...?自分が映ってるのに?……消したくはないけど、別にあげたいわけじゃ…」

なんか小さい声で言ってるよ~。...もしかして、男の動画に興味がないとか言ってた割に、意外に興味あったのか?まあ、俺ってかっこいいからな~!ちょっとそっとしておいて、その間にもう何曲か歌っておこう。こいつにかまってたらずっと歌えないし


何曲か歌って、気づいた時にはもう手遅れだった。なんてことだ...こんなことが許されていいのか!

注文したフライドポテトが全部なくなっている!くれるって約束したのに!俺が歌ってる間に全部食べやがったな!

「おい、江野畑!これはどういうことだ!フライドポテトくれるって約束したよなぁ!」

江野畑は大きな声にびっくりしながら反論する。

「だって、あんた最初以外撮ってくれなかったじゃん!私、最初以外歌ってないんですけど!」

なんやて!?...言われてみればその通りだ。最初以外、江野畑が歌った曲はない。なんかずっと独り言言ってたり、スマホいじってただけだ。彼女の言い分にも一理ある。

「確かにそうだけどさ~。流石に一本ぐらいは...あ、まだ残ってるじゃん!」

江野畑の皿の上に残っていた一本を急いで食べる。

「あ...それ長すぎて半分食べたところで残しといたやつ!本当にあんたは!」

江野畑、キレた!マジで怒ってる目だけど、ここはちょっとからかってやろう

「んなこと言われてもよぉ、もう食べちまったしなぁ...!」

勝った!圧倒的に勝った!第三部、完!

あ、今度は目線をそらし始めた。こいつ、なんかそういう癖あるな。考え事か?

「おいおい、そう邪険にするなって。悪かったよ。割り勘でいい?」

江野畑が思い切り声をあげながら抗議してくる。

「最初から割り勘で変わってないじゃん!何も譲歩してないでしょそれ!」

ばれたか。しょうがねぇなぁ。

「300円多めに出すから、それで許して」

江野畑はしょうがねぇなぁと言いたげな顔で、

「仕方ないから、今回はそれで許してあげる」

”どう?私って寛大でしょ?”的な顔が鼻につくが、これ以上お金を出すのも嫌だったので許してやろう。

「はいはい、それでいいね」

その後、2回ぐらい割り勘の計算を改ざんしようとしたが、どちらも見破られた。


帰り道、少しだけ江野畑と会話をした。

「今日は楽しかったか?」

短くそう聞く。

「それなりに」

江野畑は今日の動画を見返しながらそう答えた。

「また今度行く?」

江野畑はスマホをしまいながら、無言で小さく首を縦に振った。


ちなみに、江野畑を映した動画は消さなかった。

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