表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗涙の嘘  作者: 夢月 遊
2/4

第二話

 けたたましいサイレンが辺りに鳴り響いている。

 一体何時間寝ていたのだろうか。

 いや、そんな事は今どうでもいいのかもしれない。


「何だ?」


 慌てて外に出ると、やはり周りも反応は同じなようだ。


「シルフィ?」


 ハッとして振り返るが、家の中にシルフィの姿は無かった。

 どこかに出かけているのだろう。


「とりあえず、広場まで見に行ってみるか」


 家の鍵をかけ、早足で繁華街の方へと行ってみる。


「……嫌な予感がする」


 先程から鼻を突く焦げた臭い。微かに聞こえてくる悲鳴じみた声。


「シルフィ……!」


 俺は気がつけば駆け出していた。

 いや、まさか。あのシルフィだ。大事があっても自分で切り抜けるはずだ……


「……何だよ。これ」


 繁華街……いや、「繁華街だったであろう」場所に出た俺は言葉を失った。

 潰された露店に、そこらに転がる死体。そして、血と焦げの臭い。


「どこ行ったんだよ……!」


 魔物か?災害か?

 そんな事を考えていると、シルフィの話が頭を過ぎった。


『リーリスが傭兵を集め始めたらしいよ』


 『戦争』と言う単語が何度も頭に浮かぶ。


「シルフィ!」


 広場に出ると、見慣れた白いワンピースと、その前に立ちはだかる一人の男……レヴィアの姿が見えた。


「イオラス!来ないで!」


 いつものシルフィからは想像も出来ないような表情と声で、そう訴えかけてきた。


「え……」


 次の瞬間、シルフィの目の前で血飛沫が上がる。

 シルフィからではない。レヴィアのものだ。


「レヴィア!」


 シルフィの静止を無視し、俺はレヴィアに駆け寄った。


「イオラス……シルフィちゃんを連れて逃げろ……」


 レヴィアは肩から脇腹にかけてバッサリと斬られている。

 不可視魔法の類の攻撃だ。


「おいおい、まだ居たのかよ」


 ガシャガシャと音を立てながら、後ろから一つの影が歩み寄ってくる。


「……お前か」


 姿は見ていないが、血が沸騰しそうな怒りが込み上げてくる。


「そのガキを渡してもらおうか。ガキだが、奴隷にはなるだろ」


 気配で分かる。剣を振り上げられている。


「イオラス……早……く……」

「止めて!」


 レヴィアとシルフィが悲痛な声で叫ぶ。


「すまん。シルフィ」


 そう言って、俺は後ろに手を一閃させた。


「……は?」


 直後、男の剣は二つに折れ、カランと片割れが地面に転がった。


「……イオラス。もう隠せないよ」


 シルフィの表情が鋭いものへと変わる。


「分かってる。けど、もう限界だ」


 俺はゆらりと立ち上がり、後ろの男の喉を掴む。


「死ね」


 そのまま手に力を込めると、手の中で金属が砕ける音がした。


「がっ……はっ……」


 折れた剣で俺の手を切りつけてくるが、そんなもの意にも介さない。

 さらに力を強めると、今度は「ボキッ」と、固いものが折れる感覚がした。それと同時に、男の体からダランと力が抜け、持っていた剣も地面に転がる。


「何が……」


 レヴィアは何が起こったのか理解出来ていないようだ。


「……ひとまず、ここから離れるぞ」


 いつ増援が来るか分かったものじゃない。

 俺はレヴィアを背中に抱え、路地裏へと滑り込む。


「かなり深いな。シルフィ、何とかなるか?」

「任せて」


 シルフィがレヴィアの肩に触れると、みるみるうちに傷が塞がっていく。

 

「痛く……ない……」


 痛みで呻き声を上げていたレヴィアだったが、傷が治った瞬間、ケロリとした顔で起き上がった。


「お前ら、何者だ……?」


 その反応になるのも無理はない。

 しかし、今は悠長に話している時ではないだろう。


「……お前には後で話す。ひとまず、安全な場所まで逃げるぞ」


 安全な場所があるのかは分からないが、ここに居てもいずれは見つかるだろう。


「あ、そう言えばお前、腕の傷……は……」


 レヴィアが俺の腕を掴み、袖を捲り上げる。


「傷が……無い……?」

「後で説明するから、さっさと歩け」


 俺は手を振りほどき、レヴィアを放り捨てた。


「いってえな!分かったよ!」


 さて、俺の家は当然ながら選択肢に無い。間違いなく潰されるからだ。

 幸いにも、ここは国内でも一番端にある街だ。一旦国外に逃げるのが安全なルートだと思うが、奴らが関所を押さえていないとは思えない。


「シルフィ。関所を強行突破するぞ」

「分かった。私が蹴散らせば良いんだね」


 シルフィを暴れさせ、レヴィアを担いだ俺が走り抜ける。

 この戦力外オタクを引き連れるならこれが一番だろう。


「待て。話が見えねえんだが」


 何やら喚くレヴィアを無視し、俺達は路地裏を渡り歩いていく。

 裏路地までは敵の手は回っていないようだ。


「……着いたな」


 関所手前まで来たところで、俺達は準備を始めた。


「新しく開発した術、試すのには持ってこいだね」

 

 シルフィの方はやる気満々らしい。

 かく言う俺も、久々に全力を出せる事に意気揚々としている。


「だからテメェら説明不足なんだよ!緊急事態なのは分かるが……」


 俺はレヴィアを担ぎあげ、ダッシュの体勢になる。


「俺たちの嘘のために、死んでくれ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ