62.満開
「いいよいいよ!もうちょっと笑顔ちょうだい!」
相川雅紀はせわしなく動き回りながらスタジオの一画でカメラのシャッターを切っていく。被写体であるグラビアアイドルは、少し戸惑いながら笑顔を作った。
「うん!素晴らしい!連絡先交換しない?」
雅紀は唐突に動きを止めると、グラビアアイドルを口説き始めるが、その瞬間雅紀の背後から脳天へ黄色いプラスチック製のメガホンが振り下ろされた。
「あいた!」
「このバカちんがー!」
雅紀は怒鳴られた方向へ振り向く。現場監督の中年男性が怒りながら雅紀に説教を始めた。
「売れっ子カメラマンだかなんだか知らんが、今の時代コンプラがうるさいんだよ!グラドル口説いたなんて向こうの事務所に知れたら、うちみたいなスタジオはおしまいだ!」
「コンプラも天ぷらも知りませんが、別に口説いちゃいませんよ。僕は撮影した女性全員と連絡先交換してるだけです。あ、人妻と可愛くない子は別ですけど」
雅紀の無茶苦茶な言動に、グラビアアイドルは下品に笑い出す。監督は雅紀の態度にさらに怒り出した。
「そういう問題じゃない!」
「怒らないでくださいよ、本当は可愛くない子とも連絡先交換してますから」
「黙れ!今日からお前は出禁だ!今日の分の報酬は出してやるけど、二度とここには呼ばん!」
「そんな、ここの女の子レベル高いのに!」
「だからだよ!ほら、無駄口叩いてないで働け!」
監督に怒鳴られると、雅紀は肩をすくめてカメラを構え直した。
「ごめんね、お嬢さん」
雅紀はそう言って笑いかける。グラビアアイドルはすぐにポーズを取った。
「ところで今夜空いてる?」
「こらぁああ!!」
撮影を終えた雅紀は画像のデータを監督へ明け渡し、追い出されるようにしてスタジオを出た。
「ちっくしょー、俺がイイ男だからって嫉妬しやがってぇ。覚えてろぉ?」
雅紀は恨み言を吐きながらスマホを取り出す。街の電柱に寄りかかりながら、普段使っているSNSを眺めた。
「はぇー、自信ない方が高評価伸びるってのも、不思議なもんだな」
雅紀は自分がアップロードした画像に付いている高評価の数を見て呟く。2日前にアップした風景の画像は、既に2万の高評価を越えていた。
「んー、でもなぁ…自信持てないまま高評価されてちゃマズい気がするんだよなぁ…」
雅紀はそう呟きながら腕を組む。そのまま他人の投稿を見ていると、旅行に行って来たらしい投稿を見かけた。
「旅行かぁ…しばらく休みだし、試しに行ってみるか」
雅紀はそう思い立つと、SNSに投稿を始めた。
「『旅行行きます!景色の良い行き先募集!』っと」
雅紀は投稿を終えてスマホをしまうと、特に何も考えないまま自分の家へ歩き始めた。
家にたどり着いた雅紀は、さっそくスーツケースを取り出し、旅行の準備を始める。予備の着替えやタオルをスーツケースにねじ込むと、ふと気になってSNSを見始めた。
「うわ、結構来てるなおい」
雅紀は投稿して間もなく、60件以上の行き先の提案が並んでいることに驚きながらひとつずつ確認を始めた。
「うーん、だいたい仕事で行ったことある場所ばっかりだなぁ…」
愚痴をこぼしながら行き先を見ていく。そんな中、ひとつだけ、満開の桜並木の画像だけのコメントを見つけた。
「うん?どこだろここ?てか、今は秋だぞ?なーんで春の画像を貼るんですかねぇ」
雅紀はそう言ってその画像を無視しようとする。だが、雅紀は逆に考えた。
「待てよ?こんだけ桜が咲いてるってことは、今の時期なら紅葉か?ありかもな。ちょっと調べて行ってみるか」
雅紀はそう言うと、画像をダウンロードし、撮影された時期と映っている桜の種類と風景から場所の推理を始めた。
「2月…桜の時期にしちゃちょっと早いから、カワヅザクラか。それで川沿いか…ふーん…」
雅紀は机の上に開いていたパソコンで、全国の河川の地図と日本地図、そしてカワヅザクラの分布を重ね合わせ、おおよその画像の位置の見当をつけた。
「ふむふむ、画角的に考えると?ほぉー、ここかぁ。灯京の心町。まぁ確かに都心からは外れてるから、こういうところ、残ってるのかなぁ」
雅紀は独り言を言いながら天井を眺める。そしてしばらく唸ると、雅紀は決意を固めた。
「いよし、ここにするかぁ!決めたきーめた。さっそく近所のホテル予約しよっと」
雅紀は色々と決めると、パソコンと向き合い、ホテルの予約を始めた。
翌日
雅紀は電車を乗り継ぎ、目的地にやってきた。改札を抜けると、秋晴れの爽やかな日差しの下、都会にしては田舎な街並みが広がっていた。
「都会な田舎だなぁ。湘堂思い出すよ」
雅紀は街並みを見ると、スマホでその街並みを撮り、SNSに「心町に参上」と画像とともに投稿する。そうしてからスマホの画面をSNSから地図へと切り替えた。
「地図によると川はあっちか…行ってみるか」
雅紀はスマホをポケットにしまうと、感覚に任せるままに歩き出していた。
15分ほど歩き、雅紀は目的地の川に辿りついた。
川の両側の遊歩道には、確かに多くの木が植えられていたが、時期が悪く、まだ木々は紅葉に染まりきっていなかった。
「およよ、場所は合ってるけど、紅葉の時期は読み外したか」
雅紀はそう言いながらスマホに保存した桜の画像と、目の前の景色を見比べる。枝の枝垂れ具合と川や柵の位置、全てを総合して、やはり雅紀が今いる場所で間違いはなさそうだった。
「うーん、どーしよっかなぁ。紅葉が無いんじゃ何撮るべきか…」
雅紀はそう思いながら周囲を見回す。しかし、やはり写真映えの良さそうな場所はなく、雅紀は頭を掻きながら右手の一眼レフカメラを下ろした。
そんな雅紀の後ろから、若い男が近づいてきて、声をかけた。
「『いい写真、撮れましたか?』」
雅紀は不意に尋ねられ、少し驚きながらそちらに振り向く。雅紀が見ても、やはり目の前の男は知らない人間だった。
「いや、『ほどほど』って」
雅紀が答えると、急に風が吹く。一瞬だけの強い風だった。
「…感じですかね」
雅紀は遮られた言葉の続きを言う。それを聞いた若い男は、微笑みながら答えた。
「あぁ。でしたらこれをどうぞ」
男はそう言うと、懐から黒いケースを取り出し、雅紀の方に差し出す。雅紀は戸惑いながら男の顔と黒いケースを見比べた。
「なんすかこれ?」
雅紀が問いかけると、若い男は改めてケースを差し出した。
「さ、早く、『ボロボロ』なんでしょ?」
「え?いや、『ほどほど』です」
「へ?」
「え?」
雅紀と若い男の間に、気まずい空気が流れる。同時に、若い男の表情が段々と鋭くなっていくのを、雅紀は見逃さなかった。
「あー、ごめんなさい、いや僕、ちょっと用事思い出しちゃったなー、ははは」
雅紀は男の方を見ながら、言い訳を並べつつ後ろに下がっていく。
しかし、すぐに雅紀の背中は存在しないはずの壁にぶつかり、雅紀は後ろに下がれなかった。
「ん?」
雅紀が振り向くと、明らかに大柄で危険そうな男が雅紀のすぐ後ろに立っていた。
「ど、どうもー」
雅紀は気さくに挨拶するが、大男は雅紀にスタンガンを押し当てる。
雅紀はものの数秒で気絶すると、その場に倒れ込む。周囲にはこの3人以外、誰もいなかった。
「ふぅ。『いい写真、撮れましたか』?」
若い男は大男に尋ねる。大男は倒れた雅紀を見下ろしながら答えた。
「あぁ、『ボロボロ』のがな」
数十分後
雅紀は意識を取り戻すと、自分が椅子に縛りつけられていることに気づいた。愛用のカメラやスマホも、雅紀の目に見えるところにはなく、薄暗い倉庫の中に1人捕えられているのだと、雅紀は察した。
(ったく面倒事に巻き込まれたなぁ。別にこの程度、あいつらを殺っちまえばいいっちゃいいんだが、後が面倒だ。とりあえず普通の人間のフリしてここを抜け出すか)
雅紀は考えを巡らせながら自分を縛りつけている縄を抜けようと身をよじる。だが、拘束はなかなか固く、雅紀は抜け出せそうになかった。
「おーい!俺をここから出せ!ついでにカメラも返せ!ありゃ特注品なんだ、ぶっ壊れたら弁償なんかじゃ済まさねぇぞ!おらぁ!さっさとしやがれ!」
雅紀の声が、辺りに反響する。
しばらくの沈黙の後、何やら愚痴をこぼすような声が雅紀の方に近づいてくる。すぐに倉庫の荷物の陰から雅紀を気絶させた大男と若い男が口論しながらやってきた。
「どうすんだよ、あんなのとっ捕まえて!面倒事が増えたじゃねぇか!」
「お前が合言葉を聞き間違えるからだろ、このドアホ!『ボロボロ』と『ほどほど』を聞き間違える奴があるか!」
雅紀を誘拐した2人は、雅紀の前までやってきても口論を続けていた。
「だいたいあんな合言葉を設定したのはお前だろ!人のせいにしてんじゃねぇ!」
「あのー?」
「知るか!あんなところで写真撮ってた奴が悪い!」
「もしもーし!!」
雅紀のことをそっちのけで口論する2人に、雅紀が声を張る。2人は口論をやめ、雅紀の方に振り向いた。
「別に喧嘩してくれて結構なんですけどね、カメラを返して俺のことも帰しちゃくれませんかね?」
雅紀が言うと、大男の方が懐から拳銃を取り出し、雅紀に突きつける。
「うそん」
「悪いがそうはいかない。取引が済むまではここで大人しくしておいてもらおう」
「取引ぃ?」
「あぁそうだ。俺たちの今後を決める重要な取引だ」
雅紀は大男と話しているうちに、大男の背後に誰かが動いているのを目にした。おそらく目の前の2人の仲間ではない。そう確信した雅紀は、大男の注意を逸らすために話を続けた。
「そうかよ。何取引するんだぃ?」
「そう簡単に言えるか」
大男がそう答えようとした瞬間、その背後から鋭い一撃が浴びせられる。動揺した若い男の方にも、すぐに強烈な蹴りが浴びせられ、一瞬のうちに2人は気絶した。
「ふーっ、上手く行ったー」
2人を気絶させたその人間は、ひと息つきながら呟く。
雅紀はその人間を知っていた。
「あれ、桜ちゃん?」
雅紀に名前を呼ばれると、目の前の人間は意外そうに雅紀の方を向いた。
「え、雅紀さん?なんでこんなところに」
「いやぁ、かくかくしかじかでして。ほどいてくれる?」
桜と短く言葉を交わし、雅紀は桜に頼む。桜はすぐに雅紀の後ろに回り込むと、雅紀の縄をほどき始めた。
「ありがとう桜ちゃん。旅行でここにきて、写真撮ってたらこんな目に遭って、もう散々だよぉ」
「ついてなかったですね~。はい、ほどけましたよ」
桜に言われると、雅紀は自由になった両手を軽く振るう。ほとんど同時に、桜が気絶させた2人の意識が戻ったようだった。
「動くな」
桜はそれに気付くと、すぐさま隠し持っていた拳銃を敵2人に向ける。敵2人は色々と察して両手をあげてひざまずいた。
「そっちの大男が上本郷、もう片方が若草ね?」
「ちくしょう、JIOか…!」
若草が悔しそうに呟く。桜はそのまま話し続けた。
「えぇ。あなたたちが新しい国防軍の基地に関する情報を盗み、支鮮華のスパイに売ろうとしたことはわかってるの。大人しく捕まってもらうわ」
桜の毅然とした態度に、雅紀は眉を上げる。桜は構わず2人に手錠をかけ始めた。
「クソ、テメェがコイツを連れてきたからこうなったんだぞ!」
若草は悪態を吐く。上本郷も言い返した。
「知るか!あんな時期のあそこには何もない!なのに写真を撮りにきてるそいつが悪いんだ!」
「いやぁ、春は桜満開じゃん、あそこ。だから秋は紅葉だと思ってきたわけよ」
上本郷の言葉に、雅紀が言う。桜は疑問に思って尋ねた。
「そういえばどうして旅行先にここを?」
「あぁ、SNSで旅行先を募集したら、春の心町の画像がコメント欄に来てて。今の時期なら紅葉だと思って来たんですよ」
雅紀の言葉を聞いた若草と上本郷は、その瞬間強い違和感ととある予感を覚えた。
「もしかして、お前、相川雅紀?」
上本郷は尋ねる。雅紀は頷いた。
「おん。そうだけど」
雅紀が平然と言い返すと、若草と上本郷はお互いに顔を見合わせ、声を上げた。
「マジかよ!俺たち、あんたの写真のファンなんだよ!顔出ししてなかったからわかんなかったけど、あんたそんなジャガイモみたいな顔してんだな!」
「お、悪口か?」
「俺たちの共通の趣味だから、お前のコメント欄を使って取引現場を指定したんだ。それがこうなるとはな…」
若草と上本郷は驚きを隠せない様子で呟く。しかし、すぐに桜は2人を手錠で繋ぐと、倉庫の柱にまとめて拘束した。
「桜です、2名確保。応援をお願いします」
桜は襟に隠した通信機に言う。その間に、雅紀は自分の椅子の後ろに置かれていたカメラケースを回収した。
「雅紀さん」
桜が雅紀に声をかける。雅紀は自分のカメラを取り出しながら桜の方へと振り向いた。
「どうやらこの後すぐにこの2人の取引相手が来るようなんです。ここから逃げてもらえますか?」
桜の提案に、雅紀も答えようとするが、それとほとんど同時に倉庫の入口が開く音がした。
「そうもいかなくなったね。僕はコイツらを見張っておく、桜ちゃんは敵を」
「はい」
雅紀と桜は声をひそめて作戦を決めると、桜は音のした方へと走り出し、雅紀は若草と上本郷の前に座り込み、見張りを始めた。
桜は開いている倉庫の入口が見える位置までやって来た。倉庫の備品の陰に隠れながら、入り口の様子を窺うと、コートにサングラス姿の人間が立っていることに気づいた。
その人間は何も言わず、雅紀たちがいる方向へと歩き出す。
ほとんど同時に、桜はその人間の背後へと回り込んだ。
「若草!上本郷!」
サングラスの人間が2人の名前を呼んだ瞬間、桜はその人間を締め上げた。
「!」
「支鮮華のシェーンね、大人しくしなさい!」
桜はそう言うと、勢いそのままシェーンを後ろ手にし、手錠をかけて拘束する。抵抗したシェーンが倒れると、その倒れた先には若草と上本郷がいた。
「お前ら…この無能どもが!」
「はいはい、そう言わないの」
雅紀はそう言うと、シェーンのサングラスを外す。シェーンは女性だった。
「あら可愛い」
雅紀は一方的にそう言うと、シェーンの顔を撮る。桜も、シェーンを取り押さえつつ、雅紀の方へ手を伸ばした。
「雅紀さん」
「はい、桜ちゃんに免じてタダにしておくよ。これで画像認証してね」
雅紀はそう言ってカメラのSDカードを桜に手渡す。桜はそれを受け取ると、ポケットにそれをしまった。
「桜、いる?」
入口の方から新しい声が聞こえてくる。桜が振り向くと、玲子と泰平が2人でやって来ていた。
「こっちだよー!」
桜の声に従って玲子と泰平が駆けてくる。雅紀は意外そうに泰平に声をかけた。
「おぉ、泰さんじゃねぇか。何やってんのよ?」
「仕事だ」
泰平は短く答えながら、玲子と協力してシェーンたち3人を取り押さえ、立たせる。
「このまま護送するけど、いいよね」
「うん、念入りにね」
玲子が尋ねると、桜が答える。すぐに泰平も桜に尋ねた。
「桜も乗って帰るか?」
「あー…」
桜は一瞬、雅紀の方を見て言葉に詰まる。様子を察した玲子が話を進めた。
「後で来るのね。外で待ってる。行こう、泰平」
「?わかった」
泰平はどことなく腑に落ちていない様子で、シェーンたち3人を押していく。玲子もそれを手伝って、倉庫から出ていった。
倉庫の中で2人きりになった雅紀と桜は、どことなく気まずい空気感を漂わせていた。
「あの、雅紀さん」
桜はそんな空気を破るように、話し始めた。
「はい」
「今回の件は、口外しないようにお願いします」
「わかった」
桜に頼まれ、雅紀も素直に頷く。
再び気まずい沈黙が流れると、その場に居づらくなった桜は話を切り出した。
「あー、じゃあ、私」
「ちょっと待って、桜ちゃん」
その場を去ろうとする桜の背中に、雅紀の声が聞こえてくる。桜はゆっくりと振り向いた。
「今日のことは俺はよくわからないし、聞く気もない。けど、ひとつはっきり伝えておきたいことがあってさ」
雅紀は桜の表情を見る。前に会った時とは違う、自分の仕事に誇りと自信を持っている表情だった。
「…また咲き誇れたね、桜ちゃん」
雅紀は微笑みながら言う。桜も雅紀の言葉を聞いて、満面の笑みを浮かべた。
「…はい!」
「この満開の桜、一枚撮っても、いい?」
雅紀が尋ねると、桜は一瞬仕事の表情に戻った。
「ネットに上げるんですか?」
「まさか。記憶に残すためだよ」
雅紀はそう言いながらカメラを構える。桜も安心すると、小さくポーズを取った。
「じゃあ、可愛くお願いしますね」
「仰せのままに」
雅紀はそう答えると、シャッターを切る。
「綺麗に撮れました?」
「うん。最高だよ」
雅紀と桜は短く言葉と笑顔を交わす。
「それじゃあ、またどこかで」
「また、桜が綺麗な季節に」
桜は雅紀に手を振りながら去っていく。
雅紀は、そんな桜を、手を振って見送った。
倉庫で1人残った雅紀は、カメラに残った桜の画像を見て、1人上を向いた。
「もっと色々話せば…」
ふと口から漏れそうになった言葉を、途中でグッと飲み込み、別の言葉に言い換えた。
「…いや、彼女は、今、自信を取り戻してるんだ。俺が何か言うのは違うんだよ」
そう言いながら、雅紀は倉庫を出る。
少し歩いた先の橋から見下ろせたのは、自分達が先ほどまでいた川近くの遊歩道と、まだ紅葉になり切っていない桜並木だった。
雅紀は橋の手すりに肘を置き、カメラをなんでもないその風景に向けた。
カメラのシャッターを切る。何の気なしに撮ったその写真は、どことなく輝いて見えた。
「…この写真、ネットに上げても全然伸びないだろうな」
雅紀はそう呟きながら、たった今自分が撮った写真を眺める。そして気がつくと、そのひとつ前に撮った、桜の写真をふと見ていた。
「…いや、でも、俺1人がちゃんと胸を張れれば、それでいい。他人に評価されることばかり気にしてたから、今まで逆に自信を持てなかったんだ」
雅紀はそう思うと、カメラの電源を切る。そうして空を眺めると、見事な秋晴れの青空が広がっていた。
「他人の評価じゃなく、自分がどう思うかを重視する。桜ちゃんも、きっとそうやって、立ち直ったんだ。だったら俺も、そうしよう。自分のやってることに誇りを持って、一枚一枚、他人の評価だけじゃなく、自分の心の声も聞いて、写してみるよ」
雅紀はそう思うと、新しい被写体を探して歩き出す。彼の目の前には、秋晴れを受けた無数の被写体が待っていた。
「秋に咲いた満開の桜に、感謝、だな」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました
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