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The Magic Order 0  作者: 晴本吉陽
3.その後
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57.君に伝える物語

 重村数馬は、仕事を終え、珍しく午前中に帰ってきた。

「ただいまー…」

 玄関で声をかけても、家にいるはずの彼の妻の返事は聞こえてこなかった。

「陽子?」

 数馬は少し不安になりながら居間まで早歩きで進む。

 そして数馬が居間までやってくると、そこのソファーでうたた寝をしている陽子の姿を目撃した。

「おっと…」

 数馬は穏やかな表情で眠る陽子の姿を見ると、足音を立てないようにして陽子の隣に座り、陽子の横に転がっていた薄手のブランケットを陽子にかけた。

「ん…」

 それに気がついたのか、陽子は薄く目を開ける。そのまま陽子は横を見ると、数馬が優しく微笑んでいるのが目に入った。

「あ…おかえりなさい…ごめんなさい、居眠りしちゃってて…」

「ううん、大丈夫。それより、体冷やさないようにしないとダメだよ」

 寝起きの陽子に、数馬が優しく言うと、陽子は嬉しそうに微笑む。数馬は何の気なしに、陽子の前髪を軽く指で払った。

「体調悪かったの?」

「ううん、全然。でも、あんまり天気がいいから眠くなっちゃって…」

「珍しいね、しっかり者の陽子が」

 陽子の言葉に、数馬も笑顔を見せながら言う。そのまま陽子は大きく口を開けてあくびをしていた。

「ねぇ、数馬」

「ん?」

「私たち、結婚してしばらく経つじゃない?でもさ、数馬の昔話ってあんまり聞いたことがなかったなって」

 陽子が言うと、数馬も納得したように声を上げた。

「あんまり自慢できる話もないからなぁ」

「聞かせてほしいな」

 陽子はまっすぐに数馬の顔を見上げながら言う。数馬もそんな陽子の表情に照れ臭くなり、思わず笑っていた。

「あぁ、おう、そうか。じゃあ…どこから話す?」

「数馬って、元々この街の人じゃないんでしょ?だったら、この街に来るまで何があったのか、教えてほしい」

「となると、結構エグい話もいくつか混じってくるよ?大丈夫?」

 数馬は陽子に尋ね返す。陽子は力強く頷いた。

「大丈夫。それが数馬の人生なら、私は受け止めるから」

「いやぁそんな真面目な話でもないんだかな」

 陽子の真剣な表情に、数馬は困惑したように笑う。そうしながら自分の中で過去のことをまとめつつ、話を始めた。

「この街に来るまでってなると…あれは小学6年の頃か…」



 小学生の頃の俺は、ちょっとヤンチャなくらいで普通の小学生だったよ。親父殿から空手の手ほどきを受けつつ、それを使って他校の悪ガキを懲らしめたりもしてたくらいだね。

 で、当時から佐ノ介とか、泰平とか、あと竜雄とも仲がよかった。

 意外かもしれないけど、当時は魅神とも仲が良かったんだよね、実は。

 だからこのメンバーで放課後はよく遊んでたんだよ。

 

 で、そんなある時の冬、俺たちの故郷、湘堂しょうどう市で、市全体を狙った無差別テロが起きたんだ。

 あの時は酷かったぜ。無抵抗な女子供、どんな人間だろうと、敵に見つかれば一切の容赦無く殺されていった。俺たちだって本当なら死んでてもおかしくなかった。でも必死に銃を取って、戦い、生き延びた。


 命からがら、俺たちのクラスメートたちは全員学校に逃げ込んだ。

 学校に立て篭もる前提だったから使える資材を探して校舎を探索したんだが、実はこの学校も敵の拠点でな。先生だった人たちもテロリストの味方だったんだよ。

 そして、その中で、俺たちは武田徳道という人物が今回の一件に関わっている可能性が高い証拠を見つけた。

 それとほとんど同時に、学校の避難場所に指定されていた体育館がテロ部隊の襲撃を受けた。

 これで大勢の人間が亡くなり、魅神の両親も殺された。もしかしたら、このこともあいつが世界を変えようとしたことの一因なのかもな。

 そのテロ部隊も何とか倒したところ、この街全体を爆撃するというテロリストたちのアナウンスが入った。俺たちは学校から抜け出し、駅まで逃げ、そこから電車を奪って灯島まで行ったんだ。事件の黒幕かもしれない、武田徳道に会うために。


「それで、その、武田さんっていうのには会えたの?」


 会えたよ。だが、一筋縄じゃない人間だった。

 武田さんは真実を教える代わりに、俺たちに今回の事件の黒幕の殺害を命令してきた。もし成功すれば、身寄りを失った俺たちに生活環境を与えて保護すると。


「それじゃあ、戦いから逃げてきたのに、また戦うことに…?」


 そう。俺たちは真実を知りたかった。だから傷だらけになりながら、今回の事件の黒幕、ヤタガラスの本拠地に向かい、ヤツを倒した。

 俺も直接ヤツと殴り合ったけど、今にして思うと加減されてたような気もするな。


「もしかして、1対1で戦って倒したの?」


 そうだね。一応ヤツを倒したのは俺だよ。でも、ヤツは殺される直前さ、俺に対して

「お前は平和に生きられない」

 って言ってきてさ。負け惜しみだと思ったけど、ずっと俺の心にはその言葉が残ってたんだよね。少なくとも、あの時はしばらくうなされてた。


「ヤタガラスを倒せたってことは、武田さんからこの事件の真相を聞けたの?」


 うん。あの事件の真相は、支鮮華の工作員のテロってことになってるけど、実際は違う。ヤタガラスは日本人で、この国の国防に関わっていた、GSSTっていうチームの隊長、いうなら軍人だったってわけ。

 ある時、領域侵犯されてGSSTが出動しようとしたとき、こんな組織があるから侵犯されるんだ、みたいなことを言った政治家がいたらしく、それにキレたヤタガラスは、国防のあり方を変えるためにあのテロを起こしたんだ。

 湘堂市は、人口もまぁまぁ多くて支鮮華の工作員や、反日勢力の政党の支持者も多かったからな。そいつらを殺して反対派を減らし、子供すら無惨に殺すっていうことで国防の重要性をアピールしたかったんだろうな。


「そんなことがあったんだ…全然知らなかった…でもさ、そんな工作員や反日政党の支持者じゃない人だっていたんでしょ?そんな人たちも巻き込まれたの?」


 あぁ。そんな犠牲者もたくさんいたよ。俺たちが次に戦った、火野マチオって男も、そんな人だった。


「どういうこと?」


 火野は当時自衛官で、湘堂に暮らしてた。でも、テロによって妻子を殺された。

 彼は他の何人かと一緒に湘堂を脱出した。その時に、毎朝新聞っていう新聞社から取材を受けて、助けを求めたんだ。


「懐かしいね。結構大きな新聞社だったのに、いつの間にか倒産してたよね」


 でも、毎朝新聞がやったのはひどい偏向報道だった。湘堂の人間たちが死んだのは自業自得で、火野は自衛官の癖に家族を捨てて逃げたと。そんな火野の妻子は死んで当然だってね。


「そんな…」


 火野やその仲間たちは怒り、毎朝新聞の金山支社を爆破した。しかし怒りは収まらず、彼らは灯京の本社も爆破しようと動き始めたんだ。

 俺たちは武田さんの指示を受けて、火野たちの殺害に動き始めた。最終的に本社は爆破されたが、火野たちの殺害には成功した。


「火野さん…なんか報われないよ…」


 俺も正直そう思ったよ。だけど、任務だからって割り切った。俺は、自分の感情や思想のために人を殺すのはナシだと思ってるからさ。でも、魅神はこのことを結構引きずっていたみたいだな。


 魅神が引きずっていた、で思い出したよ、もうひとつの事件。今までの2人と比べたら、何の思想もなく、本当に自分の欲望のためにテロを起こした奴を。


「誰なの?」


 船広ってやつだよ。さっきのヤタガラスの部下だった人間で、湘堂を生き延びた後、いろんなところの企業から略奪を働いて生き延びてきたらしい。

 やつは武田さんの弱みを握っていたらしく、俺たちのチームの女子を誘拐し、それと武田さんの弱みをダシにして武田さんから金を巻き上げようとしていた。ちなみに、マリや玲子もこの時誘拐されてる。


「あの2人が?そんなことってあるんだ…」


 武田さんは当然脅しに屈することはなく、俺たちに船広の殺害を指示してきた。罠ばっかりだったけど、まぁなんとかやりましたよ。


「よくそんなあっさり話せるね」


 いやぁ、逆逆。俺の勝ち方って結構全部カッコ悪いからさ。詳細に話すと嫌われちゃうって話。


「これだけ聞いてると、魅神と数馬が不仲になる理由がわからないんだけどさ。この後、何か起きたの?」


 いい質問だね。答えるよ。

 あの事件は、俺たちが中学入学してからだな。

 俺たちは、とある男の救助を命令されて、出動した。男の名前は、波多野俊平。


「波多野俊平?あの波多野さん?」


 そう。今の俺の上司の上司。当時はそんなことも知らず、助けに行ったんだけどさ。

 この時、若干魅神と揉めたんだよ。魅神はこの直前、船広の事件での活躍と、指揮の上手さを併せて評価されて、俺たちのチーム全体のリーダーを任された。でも、俺が魅神の指示に対して噛み付いたら、お互いに熱くなっちまってさ。

 その任務は上手く行ったんだけど、その後がまずかったんだよなぁ。


「何があったの?」


 湘堂を脱出するときに、竜雄の家族が行方不明になってたんだ。正確に言うと、死んでたんだが…。

 その死体を見つけた仲間が、洗柿ってやつならその死について何か知ってるんじゃないかって言ったわけ。

 洗柿は弱いものイジメが好きなやつで、一度見下した相手はとことん見下すクズ野郎でさ、簡単に言うと竜雄はナメられてたわけよ。

 それで俺と佐ノ介がついて、3人で洗柿に問い詰めたわけだよ。

 そしたら洗柿の野郎…竜雄の家族を盾にしてやがった。挙句の果てに、竜雄の家族よりも自分が生きた方が良い、どうせ竜雄の家族なんて死んでた、なんて言いながら、竜雄を友達だとか言い切りやがった。


「うっわ…」


 俺たち、カッとなって暴れちまってよ。そしたらやつは魅神のところに逃げやがった。

 魅神は俺への印象も良くなかったことも相まって、洗柿の味方になった。俺たちは派手に殴り合ったよ。それが大人たちの目についてさ。

 魅神の指揮能力を惜しんだ大人たちは、みんな魅神についた。俺たちが暴れた理由は一応汲んでくれたけど、同じチームの仲間たちは皆、俺と佐ノ介が突然暴れ出したって認識になった。


「それで、まさか魅神たちにはお咎めなし?」


 そうだね。俺と佐ノ介は、今回の件のことは口止めされた。誤解を解く機会も与えられないまま、俺たちはほとんど全員に除け者にされるような形になったのさ。

 別に除け者にされるのは慣れてたよ。でもさ、一晩寝て、ふと思ったんだよね。「あそこまで暴れる必要なかったんじゃねぇか」って。ひょっとして、俺は竜雄を言い訳にして自分が暴れたいだけだったのかもしれないって。

 そんなんだから嫌われるんだろうなぁって思って、次の日外に出かけたんですよ。そしたらね、そんな俺をね?「いい人だね」なんて言ってくれた人がいたんですよ〜。


「…え、もしかして、私!?」


 うんうん。


「あの時の数馬、そんなことになってたの!?知らなかった…」


 俺ってチョロい男でさ、女の子にそんな風に言われたのも初めてだし、しかも陽子って声綺麗じゃん?だからなんか、妙に意識しちゃったね。


「…やだ、なんか恥ずかしいんだけど」


 陽子のもっと恥ずかしい思い出と言えばさ。


「ちょっと待って!!言わなくていい!!」


 「黒い翼の」…


「だああ!もう!嫌い!」


 悪かったって。まぁでも、その日の夜にもう一回会ったじゃん?あの時、「色んな自分もその人自身」って陽子の言葉に、すごくグッときてさ。そのおかげで、俺は自分自身への否定はやめた。もしかしたら、この時から陽子のこと好きだったかもしれないな。


「なんでそういうこと恥ずかしげもなく言えるわけ?もう…」


 いやいやそちらこそ、あの呪文詠唱をよく恥ずかしげもなく…


「あ!れ!は!人がいないと思ったからできたの!家もホントにすぐ近くだったし!ほんの一瞬!月がすっごい綺麗だったから、あのアニメのモノマネやってみたくて…そしたら10年以上擦られるんだから、もう最悪!」


 いいじゃん。おかげで今俺たちは一緒にいられるんだから。一緒に海も見たよね。あの時の絵、すっごい気に入ってる。


「魅神の事件の時さ、数馬の部屋に入って、そこに飾られてて、びっくりしたんだ。あんな絵をずっと飾ってくれてて…」


 いい絵だったよ。しかもしばらくは陽子を思い出す唯一の道具だったし。


「…そうか、そのあとだったね」


 あぁ。クライエントの事件だな。

 俺たちを魔法のある世界に引きずりこんだって言ってた男。

 実際に俺たちは湘堂を脱出するときに変なものを見たんだ。周りの色がおかしな色に染まって、視界が歪んだ。

 その正体は、このクライエントって男が俺たちを魔法のあるこの世界に引きずりこんだ時の影響だったってわけだな。

 俺たち湘堂を脱出した人間たちはずっとクライエントの監視下にあり、死なないように工作されていたらしい。本当かどうかはわからないけどな。


「マジックオーダー、とか言ってたよね?」


 あぁ。あいつらの目的はそれだったらしいな。俺たちが魔法の力を駆使し、さらに龍人になることで不老不死になり、世界の秩序を保っていたとか。そして、そうなった俺たちが名乗ったのが「マジックオーダー」という組織らしい。

 クライエントたちの世界は滅亡に瀕していて、マジックオーダーを早いうちから作って自分たちの世界を守ろうとしたんだったっけな。


「そんな感じだったね。でも、あんな強引なやり方されたら、全然信用できないよね…」


 そうだな。俺たちを突如誘拐してきたあいつらを、俺たちは敵として認識した。実際に陽子は敵の1人に殴られてたしな。

 まぁ俺はそのおかげかわからないが、結果としてこの「終わりの波動」とかいう便利なんだか不便なんだかわからない能力を手に入れたわけだ。


「…」


 なんだ陽子?


「思い出してたの。数馬が初めてこの能力を使って、人を殺した時のこと」


 あれか。陽子を殴った男を殺した時か。


「うん。数馬は私を助けてくれた。なのに…私、怖くて…あなたのことを人殺しって…あの時は本当にごめんなさい…」


 いいよ。別に。まぁでも、お互いその日から10年以上話せてなかったよね。


「数馬に嫌われたって思うと話しかけにくくて…怖くて…ずっと謝りたかったけど、そのまま中学卒業して以来、バラバラで連絡も取れなかったから…」


 そうだったな。俺も陽子に嫌われたと思って距離を置いちゃったな。

 どーでもいいんだけどさ、その間に彼氏とか作らなかったの?


「作るわけないじゃん。私の人生で付き合ったの数馬だけだよ?私モテないし、それに…」


 それに?


「数馬より素敵な人いなかったし…」


 あらやだ。


「はぁ!?言わせておいてその反応?私がどんだけ緊張したと思ってんの!?」


 悪かったって。陽子は今日も可愛いよ。


「おだてたって信じません!怒っちゃいます!あ、わかった、数馬はむしろ色んな女と付き合ってたんでしょ?だからああいう恥ずかしいことたくさん言えるんじゃない?」


 おいおい馬鹿言っちゃいけませんぜ。実のこと言うと陽子以外の女には惚れたことがねぇんだ。惚れられたこともねぇがな。


「そうなの?」


 おう。高校大学は野郎ばっかし、軍には女はまずいねぇし。少し前に陽子を助けた時に、久々に後輩の女の子と組んでたぐらいだよ。


「もしかして…」


 魅神の襲撃事件で亡くなった子の1人だよ。彼女の他に3人男がいて、まとめて俺が面倒を見てた。

 島の行軍訓練っていうのがあってさ、そこでみんなと一緒になったんだよね。それで俺のこと信頼してくれて。で、その訓練の帰りに、襲われてる陽子を助けたんだよ。


「あの時は本当にありがとう…本当に、数馬がいなかったら、私生きていないよ…」


 気にしなくていいよ。あれが陽子だって知らなくて突っ込んでったし。むしろ陽子がマリを呼んでくれなかったら俺が危なかった。


「あの人たち、なんだったの?」


 魅神の部下、だな。後から聞いた話も合わせて考えると、飛鳥たちが魅神の調査をしていると察して、魅神たちが飛鳥を排除しようとしたらしい。


「飛鳥たちはどうして魅神を調査してたの?」


 魅神は同窓会で武田さんを殺した。ついでに俺たちの元仲間も何人か誘拐した。そのことについて調べていたらしい。

 この時魅神を見つけて殺してれば…70人以上が死ななくて良かったんだが…


「この後、魅神が首相襲撃事件を起こすのよね」


 あぁ。後輩たちはみんな死んだ。警備に参加していた軍人で生き残ったのは俺だけだ。

 俺はその日、波多野さんから魅神の殺害を命じられた。信頼できる何人かを引き連れて、翌日俺は出発した。あとは知っての通り。色々あったが俺たちは魅神の殺害に成功し、和久たちは魅神の協力者の糸瑞を殺害した。


「魅神は何がしたかったのかな」


 全員が龍人になり、誰も死なない、平等で平和な世界。魅神の思想はこれだった。そしてそれを邪魔する人間は誰であろうと悪である。魅神はそう思って人を大勢殺した。

 湘堂の事件があったから、あいつは力によって世界を変えられるって思ってしまったんだろうな。


「どういうこと?」


 湘堂の事件の本当の黒幕は軍人だったって言ったろ?黒幕の願いは日本の国防が強くなること。

 そして実際にあの事件を受けてから国防は強まった。自衛隊は国防軍になって権限が増え、政治でも日本の国益を損ねた政治家や官僚はスパイ防止法によって排除されていった。たった10年程度でこんな急激に変わるんだ。魅神もきっとこれを見てやれると思ったんだろうな。



「ざっとこんなもんかな、俺の人生」

 数馬がそう言うと、陽子は深く感じ入ったように頷いた。

「…やっぱりあなた、いい人だよ」

 陽子が不意に言うと、数馬は自虐的に鼻で笑った。

「いやいや、俺は人殺しだよ。突き詰めれば、倒してきた連中と変わらないよ」

「そんなことないよ」

 陽子はそう言うと、数馬の膝の上にまたがり、正面から数馬の顔を見つめた。

「一度はあなたのことを人殺し呼ばわりした私だけど、だからこそわかる。数馬と数馬の敵は絶対に違う存在。数馬が人を殺すのは、必要だから。そうしないと、誰かを守れないから。一度だって自分の感情や思想で人を殺したことなんてないでしょ?」

 陽子は優しく微笑みながら数馬に尋ねる。数馬は照れくさそうに目を逸らしながら頷いた。

「でしょ?そして私みたいな戦えない人間を守ってくれてる。命懸けで。だから私はあなたに報いるって決めたの」

 陽子はそう言うと、自分の下腹部を軽くさすったあと、数馬の目を見て言葉を発した。

「あなたの血を、魂を、そして優しくて強い、その想いを、私は未来に繋ぐ。それが、私のできる恩返し」

 陽子が真剣な表情でそう言うと、数馬は微笑み返しながら陽子の頬に左手を置いた。

「だったらその未来は俺が守ろう、命懸けでな」

 2人はニヤリと笑い合うと、唇を寄せ合った。

 


最後まで読んでいただき、ありがとうございました

次回もお楽しみいただけると幸いです

今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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