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The Magic Order 0  作者: 晴本吉陽
2.信念
51/65

50.悪党と狂人

12:30 北回道 龍観町 龍観基地

 

 山の中に偽装された龍観基地は、外から一見して誰もここが基地だとはわからない。そんな基地の最上階から、暁広は街を眺めつつ、スマホを片手に連絡を取っていた。

「心音か。こちらはほとんど全滅した」

「そんな…」

「重村たちはこの基地で迎え撃ち、殲滅する。心音、お前も抜かるなよ」

「えぇ。私たちは私たちでうまくやる。だから、そちらもうまくやってね」

 心音に言われると、暁広もうなずく。暁広は通話を切ると、窓の外で作戦会議を行う数馬たち6人の姿を苦々しい表情で見ていた。

「俺の親友たちを奪った悪党ども…許しはしない…!覚悟しろ…」

 暁広は奥歯を噛み締める。募る殺意を全て胸に秘め、暁広はこの基地で数馬たち6人を迎え撃つ準備を始めた。


 一方の数馬たち6人は、龍観基地の外、50m離れたところにいた。

「にしても佐ノ介、基地はこの山の中にあるってどういうことなんだ?」

 龍観基地の外の山道を歩きながら、雅紀が尋ねる。

「山を断面で見ると、外側は普通の山で内側は基地になっているんだ。先に基地を作り、それを偽装のために埋めたと」

「よくそんなものを極秘で通せたな」

 佐ノ介の解説に対し、隼人が思わず呟く。その間にも、6人はそれぞれ手持ちの武器を整備していた。

「それで、どういう作戦で突入するんだ?」

 竜雄が尋ねると狼介が答えた。

「3手に分かれよう。俺が電気を落とすから、その後東と西から突入してくれ。俺も電気を落としたら下から突入する」

「人数は大丈夫か?首相を襲撃した時かなりの数いただろう?中に隠れている可能性はないか?」

「そのための分担だ。最悪でも全滅は避けられる」

 佐ノ介の疑問にも、狼介は冷静に答える。それを聞き、佐ノ介も頷いた。

「それで、分担は」

「とりあえず、狼介が一番離れて動くんだから、すぐに治療できる俺が一緒にいた方がいいんじゃないか?」

 隼人の質問に、竜雄が提案する。反対するものは誰もいなかった。

「隼人、俺2丁あるから一緒に来てくれ」

 数馬が隼人を誘う。隼人は静かに、おう、と答えた。

「それじゃよろしく頼むぜ、カメラマンさん」

「しょーがねぇな、よろしく」

 佐ノ介が雅紀を誘うと、分担が完成した。

「それじゃあ動くか。狼介と竜雄は下に降りてくれ。佐ノ介と隼人は向こうに。俺たちはここから近い入り口から突入するよ」

 数馬が言うと、男たちはそれぞれ自分達の持ち場に歩き始めた。



 基地の内部で監視カメラのモニターを見ていた暁広は、3手に分かれた数馬たちの姿を目撃していた。

「待ち伏せを警戒して3方向から攻めてくるか…しかも1つは電気系統を落としに来ている…軍人らしい動きだな。だがその手口は読めている」

 暁広はそう呟いてほくそ笑むと、ショットガン(M870)を片手に歩き出した。



 暁広が動き出していることなどつゆも知らず、狼介と竜雄の2人は山を一度降り、山肌に隠されていた龍観基地の1階の入り口を見つけて突入していた。

 竜雄に背中を預けながら、狼介はスマホに入っていた龍観基地の地図を見つつ、薄暗い通路を駆け抜けて変電室の前までやってくる。

 狼介は変電室の扉を警戒しながら開くと、中の様子を確認する。中には誰もいなかった。

「よし、やるぞ」

 狼介がそう言うと、竜雄は扉の横に張り付いて隠れる。それを見てから狼介は空薬莢をポケットから取り出すと、自分も壁に張り付いてから中の変電設備に向けて電撃を放った。

 放たれた高電圧は変電設備をショートさせ、小さな爆発が起こる。同時に元々薄暗かった基地の内部は、さらに暗くなり、赤色の非常灯だけが辺りを照らすような状況になった。

「よし、いいぞ」


 竜雄からの連絡を受けた数馬と隼人は、お互いに一瞬のアイコンタクトで作戦を確認すると、ほとんど暗闇になった基地の内部へと突入した。

 数馬も隼人もお互いに背中を預けて周囲を見回す。2人がいる細い薄暗い通路には敵らしきものもいないように見えた。

「進もう」

「待った」

 先に進もうとする隼人に対し、数馬がそれを制止して足元を指差す。隼人がそれに従って足元を見ると、細いピアノ線と、そのピアノ線の先には手榴弾のピンがくくりつけられていた。少しでも引っ張れば、手榴弾が爆発する仕組みである。

「ブービートラップか…」

「幸長さんから教わったなぁ。片付けよう」

 数馬はそう言うと、ピアノ線の前にしゃがみこむ。そして右手に終わりの波動を纏わせると、指先でピアノ線をなぞる。ピアノ線は終わりの波動が当たると朽ち果て、床へと落ちた。

「このまま任せていいか、数馬」

「おう、引き受けた」

 隼人と会話を交わしつつ、数馬はピアノ線を終わりの波動で切っていく。そんな数馬の背中を、隼人は数馬から渡された拳銃(M686)を構えつつ警戒していた。


 同じ頃、佐ノ介と雅紀は数馬たちが突入した方とは反対側から突入していた。やはりこちら側の通路も薄暗い上細長く、視界は良くない。

「佐ノちゃんよ、なんかあるかい?」

「今のところ何も見えないな。突き当たりに変なものがあったらわからんが」

 雅紀は佐ノ介の視力をあてにして尋ねる。佐ノ介は拳銃を構えながら答えた。

 佐ノ介の言葉を聞いた雅紀は、銃を構えつつ前に進む。佐ノ介は雅紀の少し後ろから進んでいった。

 右へと曲がる突き当たりに差し掛かると、佐ノ介は壁に張り付いてわずかに顔だけ出して通路を確認しようとする。

 その瞬間、通路の先から銃弾の雨が放たれ始めた。佐ノ介も咄嗟に顔を引くが、銃撃は止まらず鳴り響いていた。

「あっぶねぇなぁ」

「待ち伏せか?」

「違う、人間の姿は見えなかった。おそらく自動銃撃システムだろうな」

「だとしたらセンサーで人間を感知してるんだろうな。暗闇で検知できたってことは赤外線か熱か…」

「どっちみちお前の能力で細工できるな、頼む」

 佐ノ介と雅紀は短く作戦会議をすると、雅紀は早速右手に電動カッターを発現させる。そうして佐ノ介の頭より少し上のところを、カッターで切り付けると、そこから光を放った。

 雅紀の作った光により、佐ノ介たちを足止めしていた自動銃撃用の監視カメラたちは、佐ノ介の頭上の壁を狙い始める。しゃがめば佐ノ介たちでも被弾しない位置に銃撃が始まった。

「頼んだ」

 雅紀にそう言われて背中を叩かれると、佐ノ介はうつ伏せになりながら通路に飛び出す。一瞬で銃撃の発生源を確認すると、行手を遮っていた3つの監視カメラを3連射で撃ち抜き、銃撃を止めた。

「ナイスショット」

「当然」

 佐ノ介と雅紀は軽口を叩きあうと、そのまま立ち上がりつつ、再び奥へと進み始めた。


 上の階から聞こえてきた銃声に、狼介と竜雄も気がついていた。

「銃声だ。始まったのかもしれない」

「行くぞ」

 竜雄と狼介は短く言葉を交わし、細い通路を警戒しながら進もうとする。

 しかし、背後から感じた気配で2人は同時に振り向き、拳銃を向けた。


「俺の気配に気づくとはな」


 赤色の非常灯に照らされた暗がりの中でも、その男の姿ははっきりと見えた。右手に実銃のショットガンを握りしめ、左手には青白いショットガン、それと似た色になった髪色と目の色。そして余裕をたたえた微笑み。

「魅神暁広…!」

 竜雄は拳銃を向けながら目の前に立つ男の名を呼ぶ。狼介も暁広の存在感に納得した。

「なるほど、こいつが…!」

「俺の親友たちを奪った罪、償ってもらうぞ」

 暁広がそう言うと左手の青白いショットガンを2人に向けようとする。

 しかし、すぐさま竜雄が暁広の左の手首を撃ち抜くと、狼介も暁広の右手のショットガンを撃ち抜いて吹き飛ばす。

 そのまま狼介は姿勢を低くしながら暁広の足元に転がり込み急接近する。そして常人なら目にも止まらぬような速さで暁広の顎を蹴り上げようとした。

 だが暁広はわずかに下がってそれを悠々と回避していた。

「遅い」

 逆に伸びた狼介の足を掴むと、片手でそれを振り回し、狼介を竜雄に向けて投げ飛ばした。

 竜雄はしゃがんで狼介を避けると、狼介も竜雄の背後で受け身をとる。そんな2人の姿を見て、暁広は首を軽く回した。

「人間にしてはいい動きだ。だが俺たちは正義だ。たとえ俺の親友たちが敗れても、俺がお前たちのような悪党に負けるわけにはいかない」

「お前たちが正義?自分に都合がいいものをそう言っているだけだろう!」

 竜雄は怒りを隠しきれずに言葉を返す。しかし暁広は冷静に、平然と答えた。

「それの何が悪い。俺たちの訴えることは正しく、それについてくるならば、当然そいつらも正しい。簡単な話だ」

「そもそも言ってることが間違っているとは思わないのか?」

 狼介はいつでも暁広に攻撃できるように準備を整えながら尋ねる。やはり暁広は余裕を見せながら答える。

「俺たちの目的はこの世界に住む全員が苦しまない世の中を作ることだ。争いのない世界を作るために、全員を龍人とし、平等な世界を作る。これがどれだけ望まれているか、今の不平等な世界にあぐらをかいている貴様らにはわからんだろうがな」

 暁広はそう言い切ると、右手に握った青白いショットガンを竜雄と狼介に向ける。すぐさま竜雄は暁広の足を狙ってタックルを放つ。

 竜雄が暁広の足を掴むことに成功すると、竜雄の背後にいた狼介も一気に暁広まで近づき、暁広の顔面を掴もうとした。

「遅いって言ってるだろ」

 暁広はそう言うと、近づいてきていた狼介の腕を掴み、本来人間の腕が曲がり得ない方向へと捻じ曲げた。

「ぐぁっ…!!」

 狼介は折られた腕から電撃を流すが、暁広には効いていなかった。

 狼介の窮地を察した竜雄は、暁広をひっくり返そうと前に体重をかける。

「うっとうしい!」

 暁広はそんな竜雄に怒りを露わにすると、狼介から手を離し、竜雄の背中に肘を叩きおろす。咄嗟に竜雄が背中を逸らしていなければ、脊髄に暁広の肘が直撃して竜雄は半身不随になっていただろう。だがそれでも暁広の攻撃は強烈で、思わず竜雄は腕を離した。

 暁広は構わず竜雄の顔面に膝を叩きこむ。竜雄は大きく吹き飛び、腕を抑えてうずくまる狼介の隣に倒れ込んだ。

「楽に死なせてやろう」

 暁広は右手に握っていた青白いショットガンを狼介と竜雄の両方に当たるような位置に向ける。

「逃げろ!」

 竜雄は咄嗟に狼介を横に突き飛ばし、自分も下がる。そのすぐ後に、暁広の放った銃弾が飛んできた。

 数発の銃弾が2人の体を掠める。しかし痛みはなく、2人は構わず動けそうだった。

「なまっちょろいぜ…!」

 不敵な言葉を吐きながら、狼介は立ち上がろうとする。しかし、その瞬間、心臓に強烈に締め付けられるような痛みが走った。

「!?」

 狼介だけでなく、竜雄もだった。銃弾が命中した部分には何の痛みもないのに、心臓に猛烈な痛みが走り、思わず胸を抑えて動けなくなっていた。

「なんだこれ…!」

「貴様らの寿命を縮めてやった。あの銃弾の当たり具合だと、ざっと30年は貴様らの臓器が老化したことになるな」

 その場にうずくまる2人を見下ろしながら、暁広はショットガンの排莢をする。そうして2人を交互に見ながら銃口をそれぞれに向けていた。

「さて、どちらから楽にしてやろうか」

 余裕を見せる暁広へ、銃弾が飛んでくる。

 その銃弾の主は竜雄でも、狼介でもなく、事態を察知してやってきた佐ノ介と雅紀だった。

 暁広はダメージこそなかったが、念の為バックステップして竜雄と狼介から距離をとる。その間に佐ノ介と雅紀は竜雄と狼介の元へと距離を詰めた。

「おい、しっかりしろ、無事か!」

 雅紀は狼介と竜雄に声をかける。その間に佐ノ介は暁広と向き合っていた。

「久しぶりだな、魅神」

「お前は…重村の腰巾着の安藤か。こんな歳になってまであいつの味方をやっているとはな」

「いいや、あんたの敵をやってるだけさ」

 佐ノ介は短く言い捨てると、暁広の眉間へ銃弾を放つ。暁広はそれを避けもせずに受け止めると、佐ノ介へと真っ直ぐに歩き始めた。

 佐ノ介は雅紀が自分の背後で竜雄と狼介を1人ずつ引きずって離脱しようとしているのを確認すると、その盾になるためにその場に踏みとどまり、暁広に銃撃を浴びせる。

「効きもしないな」

 しかし暁広は銃撃に怯まず、ゆっくりと歩いて佐ノ介に自分の蹴りが届く間合いまで近づいた。

(近いな)

 銃撃よりも近接格闘の方が早いと判断した佐ノ介は、銃撃を止めて格闘戦へと切り替える。自分の左足で、暁広の膝を上から踏みつけようと足を伸ばした。

 佐ノ介の左足は確かに命中した。体重も乗っていた。だが暁広は怯まなかった。

「人間同士なら効いたかもな」

 暁広はたったひと言そう言うと、右腕を伸ばし、前に踏み込みながら佐ノ介の顔面をラリアットの要領で打ち抜いた。

「佐ノ!」

 狼介を運び終えた雅紀が竜雄を運ぶために戻ってくると、佐ノ介が鼻血を吹き出しながら倒れていた。

「俺に構うな!竜雄を!」

 佐ノ介は後ろに転がりながら立ち上がると、雅紀に指示を出す。雅紀は佐ノ介が心配だったが、佐ノ介を信じて竜雄のもとへと走った。

 一方の佐ノ介は暁広と8歩程度の距離になったのを確認すると、頭を軽く振ってから拳銃を構えた。

「俺の顔面に傷が付いたらウチのカミさんに泣かれるだろうが。何してくれてんだ」

「この期に及んでふざけた野郎だ。貴様は俺の作る世界に不要だ」

「じゃああの世に行って作るんだな」

 佐ノ介は暁広と言葉を交わすと、再び拳銃の引き金を引く。

 暁広は銃弾を受け止めながら最短距離で佐ノ介に近づく。そうして佐ノ介の首に右手を伸ばした。

(間に合わない)

 佐ノ介は銃撃を止めるが、逃げ切ることができず、暁広に首を掴まれる。

「死ね」

 暁広がそう言って佐ノ介の首を捻ろうとしたその瞬間、佐ノ介は暁広の腕にナイフを突き立てた。

 一瞬怯んだ暁広の隙を見計らって、佐ノ介は暁広を蹴り飛ばす。

 同時に、佐ノ介は自分の腕に刺さったナイフを抜き、刃紋を見た。

「浩助のナイフか…お前が浩助を殺したんだな」

 暁広は静かに怒りを込めて言葉を発する。そのままナイフを佐ノ介の喉元目掛けて投げつけた。

 佐ノ介は持ち前の射撃能力で飛んできたナイフを撃ち落とす。

 暁広も同時に佐ノ介の方へと駆け出した。

 佐ノ介が死を覚悟した瞬間、暁広は佐ノ介の横をすり抜けた。

(なんだと?)

 佐ノ介は暁広の行動が理解できず、暁広の姿を目で追う。

 佐ノ介が振り向いた瞬間、暁広の行動目的がようやくわかった。

「雅紀!逃げろ!」

 竜雄を引きずって安全な場所に行こうとしていた雅紀のすぐ近くまで、暁広は近づいていた。

「!!」

 竜雄を引きずっていた雅紀は無防備で、暁広の動きに対応できなかった。

 暁広の拳が、雅紀の腹を貫いていた。

「ぅぉ…っ…!!」

「雅紀!!」

 雅紀は声も上げられずにその場に倒れる。佐ノ介は咄嗟に暁広の後頭部に銃撃を浴びせるが、暁広は構わず佐ノ介の方に振り向いた。

「物事には優先順位がある。俺は簡単なやつは後回しにするタチでな」

「舐めたこと抜かしやがって!!」

 佐ノ介は無抵抗の友人を攻撃された怒りに任せて暁広へと銃撃を浴びせる。しかし暁広はやはり怯まず、全て敢えて被弾しながら佐ノ介の元へと近づいた。その間に、竜雄はうまく動かない手で雅紀をどうにか手当し始めた。

「浩助の仇、じっくりなぶり殺してやるからな」

 暁広はそう言いながら佐ノ介の首を掴む。佐ノ介の体を片手で持ち上げると、遠心力をつけて佐ノ介を壁に叩きつけた。

「ぉあっ…!」

 佐ノ介は背中に流れる想像を超えた痛みに、なんとか立って踏ん張る。

 そんな佐ノ介に、暁広は助走をつけて両足で顔面に蹴りを叩き込んだ。

「…!」

 壁と強烈な蹴りに挟まれ、佐ノ介の奥歯が吹き飛ぶ。佐ノ介は意識が遠くなるのを感じながら、膝を折りつつも握りしめた拳銃を暁広に向けようとする。

 しかし、暁広はそんな佐ノ介の拳銃を蹴り飛ばし、それを切り返す形で踵で佐ノ介の顔面を蹴り抜き、佐ノ介をその場に倒した。

 倒れた佐ノ介の腹に、暁広は大きく振りかぶった蹴りを叩き込む。佐ノ介は辛うじて腕でガードするが、ガードの上からでも暁広の攻撃は強烈で、佐ノ介は思わず血を吐いた。

「悪は滅びる。浩助を奪ったその罪、その身で贖え!」

 暁広がそう叫んで足を振り上げた瞬間だった。

 暁広は横から飛んでくる強烈な殺気を肌で感じ取ると、上体を逸らす。

 わずかでもそれが遅れていたら、暁広は終わりの波動の餌食になっていただろう。

「はぁ…終わりの波動、か…」

 暁広は大きなため息を吐きながら銃弾の飛んできた方向を見る。

 そこに立っていたのは、隼人と、赤黒い拳銃を構えた数馬だった。

「本当に…お前という男はどこまでも不愉快だ…!」

 数馬は暁広の言葉に答えるように終わりの波動の銃撃を放つ。暁広はショットガンで飛んでくる銃弾を撃ち落とした。

「隼人、みんなを頼む。こいつは俺が殺る」

「よし」

 数馬が言うと、隼人は短く答える。言うが早いか、数馬は暁広まで駆け寄っていた。

 終わりの波動を纏わせながら、数馬は暁広の顔面に拳を振るう。常人の目にも止まらぬ速さの拳が何発も振るわれる。しかし、暁広はそれを必死にかわし、わずかな隙を縫って数馬に至近距離からショットガンの銃撃を浴びせる。だが、数馬もそれをわかっていて終わりの波動でその銃弾を受け止めたが、その反動で暁広と数馬の距離は大きく離れた。

 その数馬に、暁広は銃撃を浴びせながら距離を離していく。数馬が銃撃を全て終わりの波動で防ぐと、暁広は通路の奥へと消えていった。

「逃げやがって…!」

 数馬は反射的に暁広の背中を追おうとするが、瞬間、数馬の内臓が痛み、思わずうずくまって咳き込む。

「数馬、大丈夫か」

 隼人が数馬を心配して尋ねるが、数馬はすぐに隼人を止めた。

「大丈夫、それよりもみんなを…」

 数馬に言われると、隼人はすぐに切り替え、怪我人たちを1箇所に集める。

「竜雄、動けるんだったら佐ノ介の手当てを頼む」

 隼人に言われると、竜雄は横になりながら包帯を取り出し、佐ノ介の顔に巻いていく。

「一体何があったんだ」

「魅神と戦った…俺と狼介はやつの能力で内臓をやられて…動けなくなったけど、雅紀は手当てしておいた…生きてはいるはずだ…」

 隼人の質問に、竜雄が声を振り絞るようにして答えていく。その間に、咳込み終えてひと通り血を吐き出した数馬が立ち上がった。

「よし、行ってくる」

「待て、数馬…お前1人で大丈夫なのか…」

 狼介が尋ねる。そんな狼介に、ボロボロになった佐ノ介が口を挟んだ。

「数馬なら大丈夫…いや、数馬にしか倒せないさ…」

 佐ノ介はそう言うと、数馬がどこにいるかもわからず、天を仰ぎながら声を発した。

「頼むぞ…数馬…」

 佐ノ介はそう言うと、気絶する。同時に、竜雄と狼介も胸を抑えて苦しみ始めた。

「数馬、俺からも頼む。早く奴を倒さないと、2人も…」

 隼人が言うと、数馬も覚悟を決めた表情で頷いた。

「任せてくれ」

 数馬はそう言うと、隼人と目を合わせて頷く。そして数馬は仲間達に背を向けると、暁広が進んでいった方へと走り始めた。

 同時に隼人はスマホを取り出すと、怪我人の救護のために桜へと連絡を取り始めた。

「吉田さん、横山です。非常事態発生、龍観基地まで応援願います」



 隼人に仲間達を託し、数馬は入り組んだ暗い通路を警戒しながら進んでいた。

 その道中にはいくつものブービートラップが仕掛けられており、それを逐一解除しながら数馬が進んでいくと、地下へと通じる長い階段までやってきた。

(この先に魅神がいるのか…だが、この先から感じるこの気配はなんだ?)

 数馬は異様な気配を感じながら階段を降りていく。先ほどまで赤い非常灯で照らされていた基地の内部とは異なり、この階段は洞窟の中を無理やり貫いて作ったようであり、天井と壁は土だった。灯りもなく、一見して真っ暗闇である。

(何があるんだ、この先に…?)

 数馬は警戒心をさらに強めながら、拳銃を向けて下へ下へと降りていく。

 そして、あるところを境に、逆に正面から青白い光が差し、明るくなってきていることに気がついた。

 数馬が階段を降り終えると、青白い強い光が正面から数馬を照らしていた。数馬が手をかざしてその光の正体を見ると、宙に浮いた青白い巨大な結晶だった。

(なんだ…あれは…?)

 数馬は疑問に思いながら、その結晶の近くまで歩いていく。

 よく見ると、結晶の浮いているその下には円形の湖のようなものが広がっていた。


「美しい輝きだと思わないか」

 

 結晶の影から、暁広の声が聞こえる。

 数馬が結晶から離れると、湖を挟んで正面に、暁広が姿を現した。

「これが龍石。龍人の力の源であり、世界の全てを平等にする鍵だ」

 暁広はそう言い切ると、数馬の前に堂々と立つ。

 数馬もそれに対して正面から向き合った。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました

次回もお楽しみいただけると幸いです

今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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