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The Magic Order 0  作者: 晴本吉陽
2.信念
46/65

45.覚悟と勇気

5/16 朝 7:40 北回道 イゼコ


 緑に覆われたこの山の入り口で、横山隼人は山を登るために準備運動の屈伸をしていた。

(この山の標高は約1000m、ここを越えるのが最短ルートだし、鍛錬にもちょうどいい)

 隼人はそう思いながら屈伸を終えると、草木に覆われた獣道を進み始めた。



8:00

 同じ山の山頂で、道拓興太は日本政府のスパイに囲まれ、銃を向けられていた。

「道拓興太、同行してもらう」

 興太を取り囲む5人のスパイのうちの1人が言う。しかし、興太は一切怯まずにニヤリと笑った。

「ほう。JIOの北回道支部のエージェントか。まさかお前たちも動いていたとはな」

 興太の余裕綽々とした語りを気にせず、スパイたちは拳銃を興太に向ける。興太は大きく息を吸い、ニヤニヤとした表情を変えることなく話し始めた。

「人間の素晴らしさとはなんだと思う?」

 興太の問いかけに対して、JIOのスパイは銃撃で答える。興太はあっさりと銃撃をかわしながら話を続けた。

「俺はな、人間が目の前の障害を乗り越える姿こそ最も人間らしいと思うんだ。自分の目的を通すために、力を振るい、障害を乗り越える!それこそが人間の最も人間らしい姿だと思うんだ!」

 飛んでくる銃撃を食らっても怯むこともなく、興太は演説を続け、JIOのスパイの1人と目を合わせた。

「俺はお前たちという障害を乗り越える!」




 山を登り、山頂付近までやってきた隼人の耳に聞こえてきたのは爆発音と悲鳴、そして男が高らかに何かを宣言している声だった。

(…爆発音?)

 隼人は嫌な予感を隠しきれず、若干舗装された坂道を駆け上がる。

 数分も走らないうちに、少し開けて上から日の光が差す広場までやってくると、スーツ姿の女性が銃を握った腕を謎の男に掴み上げられている姿が隼人の目に映った。

「何をしている!」

 隼人は腰の拳銃シングルアクションアーミーを構えながらその男に問い詰める。男は女性の腕を折ってから振り向いた。

「ほう、横山隼人か」

「道拓興太、その人間を離せ」

 隼人は女性を離そうとしない興太に向けて淡々と言う。しかし、興太は首を横に振った。

 隼人は一切のためらいなく興太に向けて発砲する。だが、興太は銃撃に対しても怯むことなく女性を倒すと、彼女の頭を踏みつけた。

 その一瞬、興太の髪が青白くなったかと思うと、踏みつけられた女性の内側から爆風が巻き起こり、黒い爆煙が辺りを包む。隼人も強烈な爆風で後ろへ押し戻された。

 しかし、煙が消えると同時に隼人は再び拳銃を構える。興太はニヤリとしてそんな隼人を見下ろした。

「この状況を見ていながら、まだ戦おうって言うのか?横山隼人」

 興太は辺りを見回しながら隼人に尋ねる。あたりには、死体こそないものの銃だけが散らばっていた。おそらく銃の持ち主は先ほどの女性のように死体ごと爆発したのだろう。

 隼人は目を鋭くしながら銃の撃鉄ハンマーを起こす。そんな隼人の姿を見て、興太はニヤリと笑った。

「いいぞ、横山隼人!自分の任務のために命をかけようというその気概、見事だ!だが、同時に、お前がやっていることは蛮勇!俺の美学とは相反するもの!ここで爆ぜるがいい!」

 興太の言葉に対し、隼人は銃撃を2発浴びせることで答える。

 興太はそれをかわさずに受け止め、ニヤリと笑った。

(やはり銃撃は効かないか)

 隼人はそう察するとすぐさま銃をしまい、アイテムの鉢巻を巻きながら興太の方へ突っ込み始めた。

「何をしようというんだ?」

 興太は隼人の行動を面白がるようにしながら足を振り上げる。そうして隼人が来るところへと足を振り下ろした。

 興太の足が当たるはずのその瞬間、隼人の体は加速した。興太の足をすり抜け、隼人は興太の目の前に現れると、興太の頬を殴りながら走り抜けた。

「むっ!」

 興太は殴られながら隼人の動きを目で追う。しかし、隼人の速度は龍人になった興太の目でも追いきれないほど素早く、返ってきた隼人の拳を、もう一度興太は食らうことになった。

「なるほど!お前ほどの体格の人間がその速度で突っ込んでくるなら、確かにダメージは入る!」

 興太は隼人の拳を顔面で受け止めながら言葉を発する。それに構わず、隼人は同じやり方で何度も興太を殴っていた。

「だが、俺には勝てん!」

 興太はついに隼人の動きを目で捉えると、開いた手の指先を隼人に向け、その手を下に振り下ろした。

 興太の目の前まで迫っていた隼人は、興太が手を動かし、髪が青白くなったその瞬間、凄まじい力で自分の体が地面に引かれるのがわかった。同時に隼人の足は止まり、徐々に重さに負けて膝が曲がっていく。

(なんだ…自分の体が…重く…!)

「動きが止まったなぁ、横山隼人?」

 興太は勝ち誇ったように言いながら、その場に膝を突いた隼人に近づくと、隼人の顔面に正面から回し蹴りを入れる。隼人は重くなった自分の体とその蹴りの威力に耐えきれず、仰向けに倒れた。

「人間は重力からは逃れられない。つまり、重力こそ人間が越えるべき最後の自然。俺はそれを操り、人間を越えたのだ!」

 興太は隼人の顔を見下ろしながら演説すると、右足を振り上げた。

 危険を察知した隼人は、すぐさま自分の腕を動かす。鉛でも入れられたかのように重い腕をなんとか振るって、自分の顔面へと振り下ろされた興太の足を受け止めた。

「ほう!今お前の腕には通常の2倍の重力が働いている!それをそう受け止める筋力、まさに鍛錬の賜物だな!ならば!」

 興太は隼人を褒め称えると、自分の右の指を鳴らす。

 瞬間、興太の足を受け止めている隼人の腕に、さらに興太の重さが加わった。

 隼人も急に加わった重さに、思わず一瞬力負けする。興太のスニーカーの裏は、文字通り隼人の目と鼻の先まで迫っていた。

「俺の足にも2倍の重力をかけた!このまま俺に踏み潰されるといい!」

 興太は勢いを増したように言う。隼人もなんとか耐えているが、興太に踏まれ、爆発してしまうのも時間の問題だった。


「くっ…!」

 

 隼人はその一瞬、自分の腕の速度を加速させ、興太の足を自分の顔の横に動かす。

 目にも止まらない速さで行われたこの行為に、興太も自分の足の位置を変えることもままならず、隼人の顔の横を踏み抜いた。

「なにっ!?」

 驚いた興太の一瞬の隙を突き、隼人はやはり超スピードで腕を動かすことによりその場を脱する。少し離れると、興太によって強められた重力もなくなり、隼人は立ち上がって興太の方へと向き直った。

「なるほど、縦ではなく横方向なら重力は働かない。だが普通にやれば俺も対応する。速度を操るお前の能力だからこそできたことだな。面白いぞ、横山隼人!」

 自分の技が破られたのにも関わらず、興太は興奮気味に隼人に語りかける。構わず隼人は拳を構え、興太との間合いを測っていたが、興太は構えを解いた。


「横山隼人!貴様も俺たちと同じ龍人にならないか!」


 興太は笑顔で隼人にそう語りかけた。隼人は一瞬その言葉の理解が遅れたが、理解すると同時に尋ね返していた。

「なんだと?」

「龍人は、人間の進化の果てだ!超能力に不老不死、ありとあらゆる人間の欲望を叶えるための力がここにある!世界中の全員が龍人となれば、全員の望みが叶うのだ!」

 興太は堂々と胸を張って言う。しかし、隼人は目を細めた。

「欲望を叶えるための力?そんなものは要らない。俺に必要なのは何かを守るための力だ」

「何もわかっていないな、横山隼人!人間は欲望の生き物だ!人間は欲望を叶えるために障害を乗り越えてきた!その姿こそ最も人間的で美しいのだ!力は、人間の欲望を叶えるためにある!」

「欲望を叶えるためならどんな力を振るってもいいと?」

「そうだ!」

「そのために罪のない人を殺すのか」

「目の前の障害を乗り越えることこそ、人間の最も美しい姿だからな!」

「ふざけるな」

 隼人は静かに怒りを込めて言うと、腰の拳銃を抜きざまに2連射を浴びせる。しかし、興太も銃弾が当たる瞬間に重力を強め、銃弾を地面に叩き落とした。

 銃口から硝煙が漂う。煙越しに興太の顔を睨みながら隼人は静かに言葉を発した。

「力は、何かを守るためにある」

 興太は、隼人の言葉に一瞬沈黙する。しかし、しばらくすると、彼は堰を切ったように大声で笑い出した。

「はっはっは!大間違いだ!そんなものは綺麗事に過ぎない!そう思っているのはお前だけだ!」

「他人がどうであろうと、俺はそれを信じる。俺の力は、そう振るう」

「ぬるい!お前は理想主義者だな!横山隼人!そうやってお前がいくら戦おうとも、世界はお前を人殺しと呼ぶに決まっている!人間は欲望のために生きているとみんな思っているからだ!」

「それでも俺は構わない。戦場は忌むべきもの。そこに立つのは、俺たちだけで十分だ!」

「意地でも俺を認めないか!なるほど、お前も俺の前に立ちはだかる障害というわけだ!」

 興太は解いていた構えをもう一度作り、隼人の顔を真っ直ぐに睨んだ。

「ならば俺は貴様を踏み越える!」

 興太はそう宣言すると、指を鳴らし膝を大きく曲げて後ろへ跳躍する。隼人は銃撃を浴びせようとしたが、重力を軽減している興太の動きは速く、隼人には追いきれなかった。

 興太は近くにあった太い木の幹に足の裏をつけると、勢いよく木を蹴って隼人めがけて急降下していく。今度は逆に重力を強め、尋常ではない加速で隼人を狙った。

 隼人は興太の一撃を横に転がって回避する。転がる前の隼人がいた場所は、興太の足によって地面が大きく窪み、爆風が漂っていた。

「避けたか、横山隼人」

 隼人は興太の背中に銃撃を2発浴びせる。興太は怯まずゆっくりと振り向いた。

「お前の銃の装弾数は、6発、だな?」

 興太が確認するように言う。隼人は既に銃の弾を全て撃ち尽くしていた。さらに、今隼人が使っている銃は、もう一度銃弾を装填するのに相当な時間がかかる。銃を使う余裕はない。

 興太はそれを全て見越すと、姿勢を低くしながら隼人の懐に入り、隼人のアゴを下から蹴り上げる。

 隼人は瞬時に身を退いて攻撃を避けたが、興太の攻撃は隼人の右手を捉え、隼人の拳銃を蹴り飛ばした。

 銃は山の傾斜に落ち、どこかへと転がり落ちていった。

(ならば素手で戦うしかない)

 隼人は覚悟を決めると、興太から一度距離を取るためにバックステップをする。興太も隼人が距離を取ったのを見て、その場で構えを改めた。

「銃はないぞ!さぁどうする!」

 興太の言葉に対し、隼人は鉢巻を締め直しながら答えた。

「殴り倒す!」

「面白い!」

 興太は再び隼人の懐に入り、隼人の顔面をめがけて拳を振るう。だが、隼人は微動だにしなかった。

(俺のパンチが見えないか!横山隼人!)

 興太は自分の攻撃が当たることを確信する。

 しかしそれは間違いだった。

 隼人の頬に興太の拳が当たるその寸前、興太の拳は隼人の右手に払われた。

「!」

 そのまま隼人は興太の腕を左手で掴むと、自分の肩に興太を背負うようにし、興太自身の勢いを利用して興太を地面に叩きつけた。

「うぐぅ!?」

 目にも止まらぬ早業に、興太は重力を操作することもできずに攻撃を食らう。背中に痛みが走る興太の目の前に、隼人の足が迫ってきていた。


「トドメッ!」

 

 隼人の足は興太の顔面を踏み抜いた。

 はずだった。


「悪くない」

 興太は顔面で隼人の足を受け止め、平然としていた。

「あと数秒お前の足の重力操作が遅れたら、まぁ、鼻は折れたかもな」

 興太のその言葉を聞くと、隼人は軽くなった自分の足をもう一度振り上げ、興太の顔面に振り下ろす。しかし、興太は隼人のその足を掴んだ。

「軽いんだよ!」

 興太はそう言って隼人の足を自分の顔の横に持っていき、隼人にかかる重力を強める。隼人は再び膝を突いて動けなくなった。

 興太は立ち上がり、そんな隼人を見下ろすと、隼人の額へ自分の足を踏みつけるように押し当てた。

「このままお前を蹴り倒し、踏み抜く!さぁ、耐えられるか!」

 興太はそう言って隼人の額に押し当てた靴裏に、さらに体重をかけていく。

 興太が重力を強めたこともあり、隼人の体はだんだんと後ろに倒れていく。

 隼人は両手で興太の足を振り解こうとするが、興太の足の力は凄まじく、動かせなかった。

 隼人の体が倒れていき、もうすぐ地面と平行になろうというその瞬間、隼人は興太自身の体勢を崩す方法を見つけた。

 隼人は覚悟を決めると、一瞬自分の顔を逸らしながら右足を軸に左足を伸ばして回転する。

 隼人が顔を逸らしたことで、興太のバランスが僅かに崩れる。そんな興太の軸足を、隼人の素早い蹴りが襲う形になった。足払いである。

 興太の軸足は地面を離れ、さらに隼人を踏みつけていた足も宙に舞う。興太は、宙に浮いたような形になった。

 解放された隼人は素早く右足を振り上げると、興太の体にカカトを落とす。

 興太は重力を変えようとしたが間に合わない。隼人にも、興太自身にも2倍になった重力が、興太に襲いかかった。


「潰れろ!」


 宙に浮いていた興太の体が、隼人のカカト落としによって地面に叩きつけられた。

 地面は窪み、ひび割れ、辺りには轟音が響く。

 隼人自身も、仕留めたような手応えを感じていた。

「はぁ…はぁ…」

 土煙が漂う中、隼人は息を整える。

 そして、土煙が消えたその瞬間、隼人は目を疑った。


「これで倒したつもりか?」


 土煙が消えた先に現れたのは、平然とした様子の興太の顔だった。隼人の渾身の一撃に対しても、興太は無傷だった。

 興太は自分の腹に乗っていた隼人の足を掴む。隼人はそれを振り解くが、興太はその間に起き上がり、隼人の胸ぐらを掴んだ。


「俺をここまで追い込んだことは褒めてやろう!さぁ、とっておきのラストダンスだ!」


 興太がそう言うと、隼人の胸ぐらを掴んだまま2人は徐々に宙に浮いていく。

「スカイダイビングは好きか!」

 興太はそう言いながら隼人にボディーブローを入れる。隼人の体は大きく跳ねたが、隼人は興太を殴り返す。興太は一切怯まずにもう一度隼人の腹にボディーブローを叩き込んだ。

 隼人の肋骨がへし折れるが、隼人は気合いで興太の顔面を殴り返す。泥臭い殴り合いをしながら、2人の男はどんどん宙に浮かんでいく。

 生い茂っていた木々の葉っぱが2人の足下に見えるようになったころ、興太は隼人の腹に膝蹴りを叩き込んだ。

 隼人の頭が下がったところに、興太はよじ登るようにして隼人の後頭部に立ち、隼人の首を掴んでロックした。

「地上まで30m!地獄へは直行!このダイビングを楽しむがいい!」

 興太はそう言って指を鳴らす。なくなっていた重力が急激に強まり、隼人の眼前に地面が迫ってきていた。

 隼人はどうにか周囲を見回す。


 数m離れた先に、木の幹があった。

 だが隼人の腕では届かない。

 隼人は自分の腰に巻いてあるガンベルトを外し、その一端をその木の幹へと投げつけた。


 ガンベルトは運良くその木の幹に巻き付いた。


 隼人と興太はガンベルトがしなるのと、隼人自身が加速した影響で、地面を掠めて再び宙を舞った。

「ほう!山の山頂から山の斜面へと飛び出したわけだ!」

 隼人と興太はどんどんと山から離れながら落ちていく。隼人は上に乗っている興太の足を肘打ちで振り払い、興太の胸ぐらを掴んだ。

「ここから地面まであと1000m、俺はお前を叩きつける!」

「はっはっは!やってみろ!」

 興太がそう言うと2人はさらに地面へと加速していく。

 空中にいながら、興太が上、隼人が下のこの状況、このままいくと50秒後には隼人が高速で地面に叩きつけられて死ぬ。

 それを理解した隼人は、興太の顔面に頭突きを入れる。死にもの狂いの隼人の一撃は、興太を怯ませ、その隙に隼人は興太の上によじ登った。


 地面まで残り600m。


 興太の上に乗った隼人は、興太の腕と首をまとめて締め上げる。

 興太はもがくが、組み技に掛けては隼人に一日の長があり、簡単には抜け出せなかった。


 地面まで残り300m。


「ふははは!勝ったつもりか?横山隼人!」

 窮地に立たされてもなお、興太は高笑いを上げる。そんな興太を隼人はさらに力を入れて締め上げた。

「このまま落ちろ!」


 地面まで残り200m。

 興太の上に乗っていた隼人は、瞬間、強烈に自分の体が軽くなるように感じた。

「これは…!」

「その通り!」

 隼人は嫌な予感に気づいたが、遅かった。

 興太は2人にかかる重力を変え、一時的に2人の落下を止めると、すぐ真後ろにいる隼人の目を右指で突いた。

 隼人は咄嗟に目を守るために右手を持ってくる。しかしその瞬間、興太は振り向き、隼人の胸ぐらを掴んだ。

「死ね!」

 そう言って興太は隼人の重力を強めると、地面に向けて投げつける。

 直後、興太自身の重力も強めて隼人に追いつくと、隼人の顔面に一撃を加えてから、隼人の顔の上に立った。


 地面まで残り100m。

 隼人は朦朧とする意識の中で、顔に乗せられた興太の足を殴りつける。だが、興太は隼人の顔を蹴り上げた。

 強烈な一撃に、隼人も拳を止めた。

「貴様もなかなか強かった!だがここまでだ!」

 興太は迫り来るコンクリートの地面と隼人を見下ろしながら叫ぶ。

 隼人は、僅かに残った力で興太の足を掴んだ。



 地面まで残り50m。

 隼人は、興太を見上げる。興太は勝ち誇ったように隼人を見据えた。

「俺の勝ちだ」


「いいや、負けだ」


 隼人はそう言うと、自分に載せられ、掴んでいた足を思い切り引き込んだ。

(なに!?)

 予想外の隼人の行動。興太の顔面と、隼人の顔面が一気に近づく。


 地面まで残り30m

 隼人は引き込んだ興太自身の勢いを利用し、逆に興太の上に乗り上げた。


 興太の拳が隼人を襲おうとする。


 


 轟音が鳴り響いた。

 コンクリートが割れ、辺りには土煙が漂っていた。





 そんな土煙が消えると、激闘の勝者である隼人は、ゆっくりと立ち上がった。

 顔は大きく腫れあがり、身体中の痛みもまだ消えない。そんな中で隼人は再び山を見上げた。

「待…て…」

 そんな隼人の背後から興太の声が聞こえてくる。隼人は素早く振り向き、身構えたが、興太はコンクリートに埋められるような形で倒れており、身動きが取れる様子ではなかった。

「認めよう…横山隼人…この状況、俺の負けだ。龍人の高すぎる再生力は、この状況では間違った再生をしてしまう…俺の命も保って数分だろう…だが、聞きたいんだ…」

 今にも消え入りそうな声で、興太は絞り出すように尋ねる。

「俺は、なぜ負けたんだ…あの状況、絶対に俺は勝ってたはずなのに…!」

 興太の疑問に対し、隼人は静かに答えた。

「力の使い方、だろうな」

「力の…」

 言葉を繋げようとした興太だったが、瞬間、彼の負傷した体は間違った再生が行われ、彼自身の息を止めることになった。


 何も言わなくなった興太に背を向けると、隼人は目の前の山へと歩き始めた。

「また鍛錬を始めよう」

最後まで読んでいただき、ありがとうございました

次回もお楽しみいただけると幸いです

今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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