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The Magic Order 0  作者: 晴本吉陽
2.信念
35/65

34.朝飯前

残酷な描写が含まれています

苦手な方はご注意ください

5月15日 朝7:00

 通勤の時間帯ということもあり、灯島駅への道は車が多く、人通りが基本的に少ないこの道も、社会人たちが行き来している。

 数馬は同じアパートの隣の部屋から出てきた佐ノ介と合流すると、雑談を交わしながら灯島駅へ歩き始めた。

「お前が帽子かぶってるなんて珍しいじゃないか、佐ノ介」

 数馬は佐ノ介の服装を横目でざっと見ながら呟く。黒のキャップ帽に、ワインレッドのシャツ、グレーの長ズボンと、茶色の大きなリュックというどこにでもいそうな普通の服装だった。

「マリが選んでくれてな。たまにはと思って被ってみた。言ってるお前は…相変わらず黒ずくめか」

「紺色だ」

「変わらねぇよ」


 そんな雑談を交わしているうちに、彼らは灯島駅まで半分ほどのところに辿り着いた。人通りの多いところを好まない彼らは、人の少ないビルとビルの合間を歩く。日がまだ低いので薄暗いが、歩けないほどの暗さではなかった。

 2人がそんな薄暗い道を抜けようとした瞬間、数馬の胸ポケットにしまってあるスマホが明るい音楽と共に振動し始めた。

「あら、お宅の陽子ちゃんも寂しがりだな」

「だったらよかったんだが、知らない番号だなこれ」

 スマホを見る数馬に佐ノ介は皮肉っぽく言うが数馬は戸惑いながら呟く。数馬はさっさと着信拒否の方にスライドした。

「気味悪りぃな」

「間違い電話だろ。よくあるこった」

 佐ノ介に対し、数馬は楽観的な観測を述べつつ前に歩き出す。

 

 瞬間、2人の真上から弓矢が一本降ってきた。

 咄嗟に後ろに退かなければ、数馬の脳天に矢は突き刺さっていただろう。

「弓矢か、これ?」

「おい、なんか巻いてあるぞ」

 その弓矢を見て、すぐに佐ノ介が言う。佐ノ介に従うと、数馬はすぐにその矢に巻き付けられてある白い紙を手に取り、広げた。

「『通話に出ろ、重村数馬』」

 数馬はその紙に書いてある文章を読み上げる。佐ノ介はそれを聞いた瞬間、一気に臨戦態勢に入った。

(名指しってことは明らかに敵意を持った人間の行動…この矢も通話も、偶然じゃない)

 数馬は脳内で考えを巡らせてから、佐ノ介に目配せする。佐ノ介も似たようなことを考えているようだった。

 2人の間に流れる緊張感からは場違いな明るい音楽が鳴り響く。数馬は自分の携帯を手に取ると、電話番号を確認する。先ほどかかってきたものと同じだった。

 数馬は緊張しながらその電話を受けた。

「もしもし」

 数馬が言うと、スピーカーから男の声が聞こえてきた。

「久しぶりだな、重村数馬」

 音質が悪く、数馬にはこの人間の声に聞き覚えがなかった。

「誰だ」

「貴様に人生を奪われた者だよ…」

「多すぎてわからん」

「上官に生意気な口を利くようになったな、訓練生?」

 その言葉で数馬は一瞬で全てがつながった。

「貴様…連貫つらぬきだな?」

 数馬のスマホのスピーカーから、満足そうな笑い声が聞こえてくる。佐ノ介は誰だかわからない表情をしていたが、数馬はそれを察して話し始めた。

「お前みたいなセクハラ野郎が生きてたことが心外だよ。一体何をしている!何の目的がある!」

 数馬はスマホに怒鳴りつける。連貫はそれに対しわずかに笑い声を上げてから答えた。

「復讐だよ…お前に奪われた俺の人生を取り戻すのさ…魅神さんの下でな…!」

 知っている名前が出てきたことに、数馬と佐ノ介は再び眉を顰める。明確にこいつは敵であるとわかった。

「なるほど。だったら悪いがお前も排除の対象だ。覚悟はいいな?」

「威勢がいいな重村。だがそこは俺の射程内。覚悟するのは貴様の方だ」

 そう連貫が言葉を発すると同時に、その電話の向こうから矢が放たれる音がしたのを、数馬は聞き逃さなかった。

「来るぞ!」

 数馬は佐ノ介にそう言うと走り始める。佐ノ介も数馬と共に走り始める。2人はひとまずこの細い路地を抜け、広い道へ出ようとした。


「無駄だ」


 2人は広い道に出る。人の姿はない。同時に、2人は周囲を見回して隠れられそうなところを探しに、2人は再び走り出したその瞬間だった。

「!!」

 数馬の足元を、横から弓矢が掠める。ズボンが破け、ほんの僅かに掠めた部分から血が出た。

(何、かすり傷だ)

 数馬自身もそう思い、走り出そうとした瞬間、動けなくなるほどの痛みが先ほど矢が掠めた部分に走った。

「っ!!」

 思わず数馬の足が止まり、その場にうずくまる。佐ノ介はそれに気づくと、すぐに数馬の元へ駆け寄った。

「おい何やってる!」

 佐ノ介はすぐに数馬の肩を担ぐと、その場から逃げるように走り出す。

「弓矢が少し掠っただけだろ、銃弾がいつも掠めてるのに何をそんな痛がってやがる」

「あの弓矢細工されてる…!あんな痛み方初めて味わったぞ…!」

 佐ノ介の叱責に対し、数馬は答える。佐ノ介はそんな数馬の報告を聞いて違和感を覚えながら、ひたすらにどこか隠れる場所を探して走る。

「とにかく屋根のあるところに隠れないとな…」

 佐ノ介は小声で呟きながら数馬を担いで隠れられる場所を探す。


「逃さん」


「そこだ、そっちの路地に入るぞ!」

 佐ノ介は言うと、数馬を担ぎながら道を曲がろうとする。2人が足速にその路地に入り、壁に張り付く。

「どうだ、まだ痛むか」

 佐ノ介は周囲を見回しながら尋ねる。数馬は佐ノ介から離れると、傷を見て不思議そうにつぶやいた。

「一気に引いたな…」

「ったく、人騒がせな野郎だ」

 佐ノ介は嫌味っぽく呟く。それを気にせず数馬は佐ノ介とは反対側の壁に張り付き、佐ノ介と反対方向を見回し始めた。

「どこから撃ってきたんだ?」

「1発目は上から降ってきた…そういや2発目は横から来たな」

「なんだと?2人いるのか?」

 佐ノ介は数馬の方を見ながら驚きを隠せないように言う。同時に、佐ノ介は数馬が張り付く壁の後ろ、誰もいない道の向こうから何かが光ったのを見逃さなかった。

(今のは…?)

 佐ノ介は次の瞬間、その光ったところから黒い弓矢飛んできているのを、佐ノ介の優秀な動体視力は捉えていた。

 佐ノ介は咄嗟に自分の体をよじってそれをかわす。だが、飛んできた弓矢は佐ノ介の左腕を掠めた。

「あっぶねぇ…っ!!!」

 佐ノ介が安堵したのも束の間、弓矢が掠めた左腕に、経験したことのないような痛みが走った。

「うぐぁあぁっっ!!」

 佐ノ介は思わず声を上げながらその場に倒れ、のたうち回る。数馬はすぐに佐ノ介に駆け寄った。

「おいしっかりしろ!落ち着け!」

「ちっくしょうバカにしたバチが当たったぁ!!」

 数馬の言葉に対して佐ノ介は軽口を発する。しかし佐ノ介は痛みに苦しんでおり、数馬はそれをどうにか引きずって自分達の隠れている路地の奥へ進んだ。

「どこから撃ってきてやがる…上からと思ったら路地の奥から、お次は正面ときた…しかもめちゃくちゃ痛…くなくなった…?あぁ?」

 数馬に引きずられながら、佐ノ介は自分の傷を負ったところを見る。

 先ほどまで左腕に走っていた激痛が、まるで元々無かったかのように消えて無くなっていた。

「数馬、もういい」

 佐ノ介がそう言うと、数馬も手を離し、2人は壁に張り付いた。

「お前の言う通りだ…食らった瞬間は意識飛びそうになるくらい痛かったのに…逃げているうちに痛みが消えた…どういう仕組みだこりゃ?」

「さぁな。だが、どんな仕組みだろうと、タネさえわかりゃ俺たちが負けるわけはねぇ」

 佐ノ介の言葉に、数馬は自信に満ちた表情で言う。佐ノ介もニヤリと笑い、背中に隠していた拳銃(CZ75)を抜いた。






 数馬と佐ノ介が壁に張り付いて考えている中、連貫は2人から十数m離れたビルの屋上で何かのモニターを見ていた。

 モニターに映るものは、壁に張り付いて作戦を練る数馬と佐ノ介を横から見ている映像だった。

「いくら考えても無駄だ…重村数馬…」

 そう呟くと連貫は、手に持つクロスボウガンに矢を装填した。

「お前さえいなければ…あの女も俺の権力で泣き寝入りするしかなかったんだ…お前が中途半端な正義感を出したから…!俺がこんな惨めな人生を送ることになったんだ…!だから俺は貴様の人生を奪ってやる…!貴様の親友も道連れだ…!」

 連貫は、数馬への憎悪を滲ませながらクロスボウガンの引き金を引く。一見してどこを狙ったのかわからない射撃は、確かに連貫の狙い通りの軌道を描き、彼の狙った一点へ真っ直ぐに飛んでいた。




 それを知らない数馬と佐ノ介は、いまだに壁に張り付いて作戦を考えていた。

「さて、どう抜け出す?」

 佐ノ介と数馬は辺りを見回しながら呟く。辺りに隠れられそうな場所もなく、使えそうな道具もない。

「まずはどこから矢を撃ってるのかを見つけ出さないと始まらないな」

 そう呟く数馬の目の前を、矢が横切る。今回は誰にも当たらなかった。

「やっぱり飛んできてる角度がおかしい。矢が飛んできている方向を見ても誰もいない。なのにどうして弓矢が飛んでくる?どうして俺たちの居場所がわかる?」

 佐ノ介が疑問を口にする。

 同時に、数馬が何かを思いついた。

「佐ノ、ひとつ思いついた」

「なんだ」

「敵は俺に恨みを持ってる。俺がわかりやすい位置で囮になれば、はっきりと敵の位置とトリックがわかるんじゃないか?」

「そんな素直に撃ってくれる相手か?」

「そのためのコレよ」

 数馬はそう言うと、胸ポケットのスマホを取り出す。

「どんな手品にしろ、俺たちの位置を知るためには、その位置を記したものを『見る』必要がある。だが着信したならどうだ?一瞬目を離す可能性は十分あるんじゃねぇか?」

「その隙に2人とも大きく移動か。無茶しやがるぜ」

 数馬の提案に、佐ノ介はニヤリと笑って拳銃を握り直した。

「いいぜ、そろそろ逃げるのにも飽きてきた。種明かしの時間と行こう」

 佐ノ介の言葉に、数馬も頷く。数馬はスマホを手に持つと、先ほど電話してきた連貫の電話番号を見つけ、電話をかけた。

 電話のコール音が鳴るのと同時に、数馬は路地を出て見晴らしのいい広い道路へ、佐ノ介は逆に路地の奥へと駆け出した。




 モニターを見ながらクロスボウに弓矢を装填していた連貫は、自分の胸ポケットにしまっていたスマホが振動し始めたことに気づいた。

 彼はうっとうしそうにスマホを取り出すと、その液晶に目線を落とす。見ると、重村数馬からの着信が来ていた。

「…ふん。命乞いか」

 連貫はそう思うと、その電話を受けた。

「命乞いする気か、重村数馬」

「その逆だ、連貫。貴様のトリックは見破った。今からそこに行ってやるから待ってろ」

「何?」

 連貫はまさかと思い数馬たちを監視している映像を見る。

 確かに数馬が、ゆっくりとした足取りではあるが、こちらに向かって歩いてきているのが映っていた。しかし、佐ノ介が映っていない。

(馬鹿な…!あいつらはさっきまで一緒にいたはず…!そう簡単に消えることなどできないはずだ)

 連貫はそう思いながらモニターに映る映像を次々と切り替える。しかし、5つの映像のどれにも佐ノ介は映っていなかった。

「どうした、俺の姿が見えないわけじゃないだろう。俺のおかげで悪さできなかったことに、礼の一つでも言ったらどうだ!」

 数馬は電話越しに連貫を挑発する。同時に連貫はそれが聞こえなくなるほど脳内で考えを巡らせていた。

(もう1人はどこに行ったんだ…?まさか本当に俺の能力を見破ってこっちに来てるのか…?だとしたら重村は囮…?) 

「お前は所詮女にしか強がれない、家柄だけのクズなんだよ!」

 連貫の思考を妨害するように、数馬が大きな声で挑発する。連貫はカッとすると、スマホを叩きつけ、踏み壊し、クロスボウを構えた。

(だとしても構わん。龍人となった俺を、普通の人間が殺せるわけがない。ならば、まずは重村を殺す!)




 連貫を電話越しに挑発しながら、数馬はゆっくりと広い道路を前に歩いていた。

 通話が強引に切られ、数馬はスマホを胸ポケットにしまい込む。そして飛んでくるであろう攻撃を固唾を飲んで待ち構えていた。

 それは薄暗い路地から見守っていた佐ノ介も同じだった。

(弓矢が想定外のところから飛んできたら、数馬が『終わりの波動』を出しても間に合わない…数馬の命は、俺の視力と反射神経、そしてこの腕にかかってるわけだ…)

 佐ノ介は改めて事の重大さに気づくと、拳銃をより強く握り締め、数馬の周りに目を凝らした。


 

「死ね!」



 佐ノ介は数馬の頭上を弓矢が通り過ぎたのを見逃さなかった。

 そして、その弓矢が何かに当たって反射され、それが数馬の背後から近付いているのも見逃さなかった。

「そこだ!」

 佐ノ介は素早く引き金を引いた。


 佐ノ介の拳銃から放たれた銃弾は、数馬の背中を貫こうとした弓矢を、正確に破壊していた。


 自分の背後で何かが起きたことに気づいた数馬は、振り向いてその方向へまっすぐ走り出す。

 数m走ると、プロペラでホバリングしている小型のドローンを見つけ出した。

「こいつだ!」

 上空へ飛んで逃げようとするドローンに、数馬はしがみつく。数馬の肩幅ほどの大きさしかないドローンだったが、数馬がしがみついていてもゆっくりと上昇できるだけのパワーは持っていた。

 数馬の足が地面から離れる。それでもなお数馬はなんとかドローンにしがみついていた。




 一方の連貫も、この状況が危険であることは察知していた。

「俺のアイテムが…バレただと…!」

 連貫は一瞬パニックになりかけたが、モニターに映る、必死にドローンにしがみつく数馬の姿を見て発想を転換した。

(いや逆だ!今なら重村は身動きが取れない。ここを撃ち殺す!)

 連貫は意を決してクロスボウを構えた。




「おーい佐ノ!矢が飛んできた方向わからねえか!」

 空中に浮かぶドローンにしがみつく数馬が尋ねる。佐ノ介は首を横に振った。

「わからねぇ!だが、そのドローンの向きは変わってない!その角度で反射できるような場所で撃ってるってことだな!」

「答えになってねぇよそれ!」

 佐ノ介に対し、数馬は小言で答える。

 そんな時、数馬は目の前から矢が飛んでくるのが見えた。

「うぉっ!!」

 数馬は咄嗟にドローンから手を離す。

 地面からさして離れていないところから落ちたにも関わらず、数馬の足に耐え難い激痛が走った。

「うぎゃああああっ!!」

 数馬は先ほど矢が掠めた時と同じように、思わずのたうち回る。だが、知らず知らずのうちにドローンの下をくぐり抜け、ドローンの後ろ側に回り込むと、ぴたりと跳ね回るのをやめた。

「…あれ?」

 痛みが消えていた。

 数馬はゆっくりドローンを見上げる。ドローンについていたカメラのレンズのようなものが、こちら側にはついてなかった。

「…佐ノ、よくわかったよ」

 数馬は確信した表情で言う。佐ノ介も、先ほど飛んできた矢で敵の位置を確信したようだった。

「俺もだ。敵の位置は把握した」

「それじゃあ殴り込みと行きますかい」

 数馬と佐ノ介は走り出す。矢が飛んできた方向を目指し、一切の迷いなく走っていた。

「あのドローンがあいつの魔法なんだ。ドローンについてるカメラに映ったやつのダメージを大きくする!それがあいつの魔法だ!」

「ついでにドローンは魔法で矢を反射できる。なるほど全部納得いくぜ」

「だが、タネがわかっちまえば、殴り倒すのはちょろい!」

 数馬と佐ノ介はお互いにわかったことを口にする。2人はすでに、勝利を確信していた。




 連貫は撤収を始めていた。彼の魔法で発現させていたドローンを消し、モニターを折り畳むと、すぐそばにあったリュックにそれを滑り込ませていた。

(あいつらに位置がバレた…!このままでは確実な処理ができない…一度撤退しなければ…!)

 連貫は考えながらクロスボウガンを斜めがけにする。そしてリュックを手に持つと、屋上から逃げる階段へ駆け出した。

 同時に、階段の入り口の扉が開く。

 連貫は、扉から下がると、手に持っていたリュックも置き、ボウガンを構えた。

 扉から現れたのは、2人の男、連貫のターゲットである数馬と佐ノ介だった。

「お久しぶりですね、連貫少尉」

 数馬は嫌味たっぷりに連貫に言う。連貫はボウガンでまっすぐ数馬を狙っていた。2人の距離は約15歩の距離だった。

「もっとも、今は軍人ではないんですっけ?」

「貴様のおかげでな」

 数馬の言葉に、連貫は嫌味と弓矢で答える。数馬はあっさりとそれをかわした。

「来てくれて助かったよ、重村数馬。ちょうど貴様の死に顔が見たかったんだ」

「愛されてるな」

 連貫の言葉に、佐ノ介が軽口で答える。数馬も肩をすくめてた。

 そんな佐ノ介に、連貫は弓矢を放った。

「見えてんだよ!」

 佐ノ介は瞬時に拳銃を構え、弓矢に狙いをつけて拳銃の引き金を引く。

 弓矢が砕けたのを確認してから、佐ノ介は連貫の眉間を撃ち抜いた。

 連貫の体が大きく吹き飛ぶ。数馬と佐ノ介はフッと息を吐いた。

「悪いな、数馬。俺が片付けちまったよ」

「構わねぇさ。ゴミは誰が片付けたってゴミよ」

 佐ノ介の言葉に、数馬は軽口で答える。


 2人はそのまま連貫に背を向けてその場を去ろうと歩き出す。


「ふふふ…ハーッハッハハ!!」


 2人の背中から高笑いが聞こえる。


 2人はまさかと思うと、振り向く。

 見ると、4つのドローンがさまざまなところに現れては消える様子を繰り返していた。同時に、先ほどまで倒れていた連貫が、ゆっくりと起き上がる。

「なるほど…!これが龍人…!素晴らしい力だ…!」

 連貫はそう呟くと、一度目を閉じ、改めて数馬と佐ノ介を見る。茶色だった彼の髪と瞳の色は、青白い色に変わっていた。

「なんだこいつ…!?」

「龍人だ!」

 動揺する佐ノ介に、数馬が叫ぶ。そのまま数馬が前に走り出そうとした瞬間、連貫がクロスボウガンの引き金を引く。

 弓矢がどこかへ飛んだかと思うと、その弓矢のいく先にドローンが現れる。ドローンは弓矢を反射し、数馬の方を狙った。

「!」

 数馬は咄嗟にしゃがんでかわしたが、かわした弓矢は再び現れた別のドローンに反射し、今度は佐ノ介の方へ飛んでいく。

「あっぶねぇ!」

 佐ノ介もすぐにそれをかわすが、予測できない弓矢の反射は数馬と佐ノ介の動きを確実に止めていた。

「面白いだろ重村数馬!まるでブロック崩しみたいでよ!」

 余裕なく動き回り、弓矢を避けていく数馬と佐ノ介の姿を見て、連貫は嬉しそうに笑う。

「あの女も今のオメーらみたいに、必死に逃げようとしてたよ!俺はな!人がそういうふうに逃げまわる姿がたまらなく好きなんだよ!」

「オメェの性癖なんか聞いてねぇよ変態野郎!」

 連貫の言葉に対し、数馬は弓矢を避けながら声を張る。連貫はそれを鼻で笑い飛ばした。

「まだ余裕があったか!それじゃあブロック崩しも終盤に入ろう!」

 連貫はそう言うと、弓矢をもう一度ボウガンに装填し、数馬たちのいる方向へ発砲する。弓矢は2人には当たらなかったが、元々乱反射していた弓矢とは違う軌道で乱反射し始め、2人はそれらの回避にさらに神経を使いながら弓矢を避けていた。

 徐々に2人と連貫との距離が離れていく。

 この状況がまずいと察した数馬は、覚悟を決めた。

「佐ノ!突っ込む!」

「嘘だろ!?」

 数馬は言うが早いか、佐ノ介の言葉も無視して真っ直ぐ連貫のところへ走り始めた。

「バカが!」

 連貫は真っ直ぐ走ってくる数馬へ向けて乱反射している弓矢のうちのひとつを向ける。だが、動き回る数馬に正確に命中させるのは至難の技で、数馬には当たっていなかった。

 連貫は後ろへ走りながらもう一本の弓矢も数馬に向けて反射させる。

 数馬の背後、数cmにその弓矢が飛んできたその時、佐ノ介がその弓矢を撃ち抜いた。

 数馬とあと8歩の距離まで詰められた連貫は正面から突っ込んでくる数馬に向けて弓矢を放つ。

 弓矢は真っ直ぐ数馬の眉間を捉えていた。

(もらった!)

 連貫の思いをのせ、弓矢は数馬の眉間へ飛んでいく。

 しかし数馬は両手に赤黒いオーラを纏わせて顔をガードすると、正面から飛んできた弓矢を朽ち果てさせた。

 連貫と数馬の距離は残り5歩。

 連貫の後ろはもうない。落ちれば龍人といえど耐えられるかはわからない。

(逃げるか…!?)

 すでにあと4歩の距離まで詰められた連貫は、そう思って横へ逃げようとする。


 しかし、そんな連貫の足を佐ノ介が撃ち抜いた。


 走り出そうと重心を乗せた右足を撃ち抜かれ、連貫は姿勢を崩した。


 距離はあと3歩。


(まずい…!急げ!撃たなければ…!)


 連貫はボウガンに矢を装填する。


 距離はあと2歩。


 数馬が拳を振り上げる。


 連貫は腰だめで弓矢を発射した。


 弓矢が数馬の眉間に飛ぶ。


 あと1歩。


 数馬の眉間に当たるはずの矢は、赤黒いオーラで朽ち果てた。


「!!」


「そぉりゃぁっ!!」


 連貫の頬に、数馬の渾身の右ストレートが突き刺さる。


「グァ…っ!」


 そのまま数馬は拳を振り抜く。


 連貫は宙を舞う。顔が徐々に朽ち果てていく痛みを感じながら、連貫はビルを落ちていった。


「うわぁあああああ!!!!」


 連貫の悲鳴を聞きながら、数馬は落ちていったところを見る。朝日に隠れた暗闇で、よくは見えなかった。

 数馬は軽く咳き込む。わずかに手に血がついたが、それをハンカチで拭った。



「数馬よ」

 佐ノ介が帽子を被り直しながら数馬に声をかける。先ほどまでドローンが舞っていたそこにはすでに何もなく、2人はニヤリと笑いながらきた道を戻り始めた。

「そういや飯がまだだったな。何にする?マリの手料理か?」

「そう言いたいが、やめとくよ。仕事に行くって言っちまったから」

 


 美しい朝日は、高く昇っていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました

次回もお楽しみいただけると幸いです

今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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