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The Magic Order 0  作者: 晴本吉陽
1.少年たち
19/65

18.新たなる友達 暁広の場合

4月4日 14:15 灯島中学校

 1年2組の教室に入った暁広は、黒板に貼られている座席表を確認する。自分の席は、窓から2列目、後ろから2番目の席だった。一方の茜は暁広の列の1番前。

 暁広は自分の席に荷物を置くと、茜の隣の席までやってきた。1番窓際の1番前の席である。

 暁広は誰もいないことを確認すると、そこに座って茜と話し始めた。

「中学校の教室って結構広いね」

「そうだね。七本松だったら36人も入んないもんね」

 暁広が周囲を見渡しながら言うと、茜も同意する。暁広は椅子の脚を浮かせて前後させる。

「でも椅子は変わんないね」

「やっぱ安いからこのタイプの椅子なのかな?」

「すぐそうやってお金の話する」

「えぇ?別にしたってよくない?」

 茜が少し怒ったように言うと、暁広は声をあげて笑う。

 そんな暁広の近くに、誰かがやってきた。

「そこ、俺の席なんだけど」

 暁広はその声で初めて誰かが寄ってきているのに気づいた。暁広はその声の主の方へ振り向く。眼鏡をかけ、暁広と同じくらいの背丈の男子だった。

「おっと、ごめん」

 暁広はそう短く言うと、立ち上がる。

 瞬間、眼鏡の男子生徒は一歩下がった。

(なんだ?この男…只者じゃない気がする…)

 男子生徒が考えを巡らせるのも気づかず、暁広は笑いかけた。

「ごめん、席返すよ」

「どうも」

「俺は魅神暁広。良ければ名前教えてくれないか?」

 暁広は席から離れながら男子生徒に尋ねる。男子生徒は荷物を机の上に置いてから暁広の方へ向き直った。

「俺は、村芭むらばせい。1年間よろしく」

「星、か。よろしく」

 暁広が明るく挨拶すると、星も小さくうなずく。そのまま星は尋ねた。

「どこの小学校?」

 星の質問に、暁広は一瞬目を逸らす。そして考えた結果、暁広はもう一度顔を上げた。

「七本松小学校ってところ。ここからちょっと遠い…」

「あの湘堂のか」

 星がすぐに気づくと、少し驚いたような様子で聞き返す。逆に茜が驚いて横から口を挟んだ。

「すごい。よくわかったね。もしかして知ってた?」

「いや、全然。でもこの辺りの小学校はだいたい知ってるし、それに噂になってたから」

「噂?」

「あの湘堂から来た生徒たちが、今年の新入生にいるらしいって」

 星の言葉に、暁広と茜はへー、と声を上げて顔を見合わせた。

「私たち噂になってたんだね」

「ね、ちょっと意外だったよ」

「逆にこっちも意外だった。思ったより普通の人たちだったからな」

 星が言うと、暁広が食いついた。

「思ったより普通って、どういうことだよ?」

「色んな噂が立ってたんだよ。荒っぽいやつだとか、頭のおかしいやつじゃないかとか」

「そんなぁ…」

 茜が少し落胆した様子で下を見る。暁広も思わず黙り込む。そんな2人を見て星はすぐに言葉を繋いだ。

「俺たちだってニュースで見たんだよ、湘堂が爆撃される様子。俺たち平和ボケした灯島の人間じゃ、あんなのとても生き残れない。そう考えたら、あれを生き残るなんてあんたらはスゲェし、俺たちの目線からの普通の人間じゃ生き残れないと思うわけだ」

「…それで、星は俺たちが噂通りの人間に見えるか?荒っぽくて、頭のおかしい人間に」

 暁広は星に尋ねる。星は首を横に振った。

「いいや全く。少なくとも、今のところは。ただ俺たち平和に生きてきただけの人間とは、やっぱり違うなとは思ったよ」

「どういうところが?」

「そう言われるとわからんけど、一目で何かが違うのはわかった。それで湘堂の人間って聞いて納得した」

 星が自分の感想を語る。

「星は勘が鋭くて、人をよく見てるんだな」

 暁広はそれに対して星を褒める。星は少し首を傾げた。

「…どうしてそうなった?」

「周囲の人をよく見てるからこそ、何かが違う存在に素早く気付けるってもんだと思ったから」

「なるほど、理に適ってる」

 暁広の分析に、星は口角を上げながら答えた。星はそのまま続けた。

「理屈のわかる奴は好きだ」

「同感だ」

 星と暁広は目線を交わすと、お互い僅かに微笑み合う。2人の間で、確かに絆のようなものが芽生え始めていた。

「クラスメートでわからないことがあったら聞いてくれ。同じ小学校の連中についてなら答えられるから」

「わかった。改めてよろしくな、星」

 暁広はそう言うと、星に右手を差し出す。星は一瞬戸惑ったが、すぐにその手を握り返した。



4月4日 14:20

 圭輝と浩助は暁広から少し遅れて暁広と同じ2組の教室にやってきた。

「『あ』から始まる名字は楽でいいぜ、どーせ廊下側だ」

「じゃここで一旦お別れだな。また後でな」

 圭輝と浩助はお互いに座席表を確認すると、それぞれ反対方向に歩き出す。

 圭輝は1番廊下側の列の1番前の席に座る。

 それとほとんど同時に、圭輝は隣の席の男子に話しかけられた。

「お、ちょうどいいとこ来た。おい、これ、あんたどっち選ぶ?」

 圭輝の隣の男子は、圭輝が嫌そうな顔をしているのにも関わらず、何やら本を開いて見せてくる。圭輝は渋々その本を見た。

「なんだ?…『あなたは付き合って3ヶ月の彼女がいます。そんな彼女に誕生日プレゼントの贈り物として下着を贈ることにしました』…」

「アッハッハッハ!躊躇いなく音読しやがった!」

 圭輝の隣の男子は大笑いして手で目を隠す。

「ヒィー、笑いすぎて涙出てきた!」

「おい、ナメてんじゃねぇぞ」

「怒るなよ、これからクラスメートになるんだからよ。で、どれ選ぶ?青?赤?白?黒?」

 圭輝が睨みつけるのにも関わらず、隣の男子は笑いながら本に書かれた質問を続ける。圭輝は周囲にほとんど生徒がいないことに少し安堵しながらも、苛立ちを隠そうとせず舌打ちした。

「ブスが何着たって汚ねぇだけだろ」

「ハッ!童貞だなぁ。いいからさっさと選べよ」

 圭輝はいい加減に殴りつけてやろうかと思ったが、わざわざ初日に問題を起こす必要もないと思い直し、適当に色を選ぶことにした。

「はぁ…白」

「ふーん。じゃ俺様は赤で」

 圭輝の隣の男子はそう言って本のページをめくる。

「おぉっ!」

「うるせぇなぁ」

 声を上げた隣の男子は、そのまま圭輝の文句を無視してページに書いてあることを読み上げていく。

「『女性に贈る下着の色で、あなたが女性に求めるものがわかります』だってよ」

「あっそ」

「『白を選んだあなたは、彼女を自分だけの色に染めたがる傾向があります。女性には従順さを求め、とにかく支配しようとするでしょう。行き過ぎると、少しでも彼女が逆らった時には暴力を振るうDV夫になることもありえるかも』だってさ!ギャハハ!」

 隣の男子は大笑いするが、圭輝はそれにため息で答えるだけだった。

「どぅ?合ってた?」

「合ってるわけねぇだろ。くだらねぇ占い如きで騒ぐなバカ」

「おいおいおい、初対面でバカ呼ばわりか?俺には鬼波きなみながれって名前があるんだよ。ったくせっかく盛り上げてやってるのによ」

 隣の男子、流は文句を言いながらも半笑いだった。逆に圭輝としてはそれが不愉快だった。

「知るか」

「へそ曲げちゃってぇ。わかったよ、赤色も読み上げるからよ」

 流は圭輝の雑なあしらいにも大して怯まずにそう言って本を朗読し始めた。

「『燃えるような赤を選んだあなたは、女性に情熱、特に燃え上がるようなセックスを期待しています。ようはスケベです』」

 流がひと通り読み終えると、圭輝は腹を抱えて指を流に向けながら嘲笑うようにして大声で笑った。

「大当たりだなぁ!くだらねぇ占いにまで性格当てられるとかお前どんだけ薄っぺらい性格してんだよ!」

「そ。俺様は薄っぺらい性格だよ」

 平然とそれを認める流の姿に、圭輝は笑いが収まる。流も笑っていなかった。

「だってどう楽しむか、しか考えてねぇもん!女や遊びをな!これが薄っぺらくなかったら世間に悪いよ!ギャハハ!」

 流が笑い出すと、圭輝は頭を抱える。しかし、圭輝の肩が震え始めたかと思うと、次の瞬間には圭輝も一緒になって声を上げて笑い出していた。

「アーッハッハ!で、あんた名前は?」

 流が笑い疲れた拍子に尋ねる。

洗柿あらいがき圭輝たまき、覚えとけ」

「ん、覚えとく。あだ名は…カキタマちゃんかな」

「おい、その呼び方はやめろ」

 流は圭輝の素早い拒絶に笑う。すると、次の呼び名を思いついた。

「お!タマタマってのはどうだ?」

「絶対にやめろ」


 圭輝と分かれた浩助は自分の席に着いていた。

 さっそく浩助は周囲を見回す。浩助の近くで今来ているのは左隣の席に男子が1人だけだった。

 その男子は机に何か描いていた。シャーペンを一本だけ手に持ち、木製の机に延々と何かを描いていく。

(何やってんだろ)

 浩助はそう思って立ち上がり、眼鏡を調整しながら隣の席の彼が描くものを見ようとした。

「見たいのか。俺の絵が」

 浩助に背中を向けたまま、彼は言った。浩助は一瞬驚きながら言葉を詰まらせた。

「いや、そちらが見せたくなければ別に」

「見たいのか、見たくないのか」

 彼は語気を強めながら尋ねる。浩助は少しため息を吐くと、ゆっくりと言葉を発した。

「見たい」

 浩助が言うと、隣の席の彼は机から体を離す。浩助は机に描かれた物を見た。

 シャーペンの黒色で机全体に何かが描かれている。だが、浩助にはそれが具体的な何かには見えなかった。

「これがなんだかわかるか」

 隣の席の男は浩助に尋ねる。浩助は首を傾げた。

「いや、わからない」

 隣の席の男はニンマリと笑った。

「それでいい」

 浩助は未だにどこか腑に落ちない様子でその男に尋ねた。

「これは一体なんだ?」

「インスピレーションだ」

「インスピレーション?」

「そうだ。この机にある傷、ひとつひとつが俺の創造欲を掻き立てた。ここに描いたのは、俺の描きたいという心自身だ」

 隣の席の男は熱く語る。浩助は空返事をしていた。

「言ってること、わかるか」

「うん…いや、わからない」

「それでいい」

 浩助が素直に答えると、隣の席の男はやはり笑ってうなずいた。

「俺は虹原にじはら光樹みつき。お前の名前は」

馬矢ばや浩助」

「そうか。俺はお前が気に入ったぞ、浩助」

 光樹が言うと、浩助はやはり腑に落ちない様子でうなずいた。

「は、はぁ。それはどうして」

「わからないものを素直にわからないと言えるからだ。世間の連中は、俺の絵を上から目線でああでもないこうでもないと抜かす。俺の美学を何もわからないくせにな」

「美学、か…」

 浩助は内心面倒臭くなりながら相槌を打つ。

「お前に美学はあるか?」

 光樹が尋ねる。すぐに浩助は答えた。

「ないけど」

「俺にはある。『足し算』だ」

「『足し算』?」

「ひとつのものに、色んなものが足されていき、新しいものが出来上がる。そこに再び新しいものが足されることで、さまざまなものが混ざり合い、新しいものができていく。芸術も同じだ」

「うん」

「芸術は本来常識の外にあるべきなんだ。あらゆるものを足し合わせ、常識を越えていく…それが俺の美学だ」

「うんうん」

「理解は求めていない。芸術と理解は伴わないものだからな」

 光樹が一方的に喋るのを、浩助は黙ってうなずきながら聞き止める。光樹は嬉しそうに笑った。

「お前はよく聞いてくれるな。だが決して理解したフリはしない。お前のその姿、俺の求めているものだ」

「そりゃあどうも」

「それじゃあ次は俺の色のこだわりをだな…」

 浩助はこれ以上長話をされるとたまらないと思い、時計を見る。そしてすぐに機転を利かせた。

「あーそろそろ時間だ、先生来るから静かにしてよう、な」

「だが」

「ほら、前向いて、姿勢正して」

 浩助が一方的に話を終わらせる。光樹も浩助の思惑に気づくと、少し微笑みながら前を向くのだった。



4月4日 15:30

 入学式の式典が終わり、教室に戻ってきた暁広は自分の席に着く。担任の先生からの諸連絡をメモし終えると、先生の号令で一礼し、そのまま教室は解散となった。

 暁広もそのまま帰ろうと思ったが、立ち上がる拍子にボールペンを落としてしまった。

「あぁっ」

 暁広が手を伸ばすと、すでにボールペンは誰かの手に拾われていた。

「落としたよ、魅神くん!」

 大きくハキハキとした声。暁広が見ると、背筋がスッと伸びた男子生徒がいた。

「あぁ、ありがとう」

「さっき、星と話していたよね。俺は道拓みちひらき興太きょうた。君のすぐ後ろの席だ。よろしくな!」

 興太はボールペンを暁広に渡すと、すぐに握手のために右手を差し出す。暁広もその手を握り返した。

「星と話していた内容、少し聞こえていたよ。魅神くんは、湘堂の出身なんだってね?」

「暁広でいいよ。まあそうだね」

 暁広と興太はリュックを背負いながら雑談を交わす。興太は暁広の返事に、深く何かを考え始めた。

「…素晴らしい」

 興太が急に小声で呟く。暁広はよく聞き取れなかった。

「え?」

「素晴らしいよ暁広くん!」

 今度は興太が急に大声で言う。暁広は少し驚いて1歩引いた。だが興太は熱く語り始めた。

「絶望的な状況!だが君はそれでも諦めず!目の前に立ち塞がる障壁を乗り越え、ここまでやってきた!」

「いや、そんな大層なことじゃ…」

「そこに至るまで、悲しいこと、苦しいこと、どっちもたくさんあったはずだ…」

「それは、まぁ」

「しかし君はめげていない!普通の俺たちのような生徒と同じように、笑い、未来に希望を抱いている!それは、君が困難を乗り越えて成長してきた証だ!これこそ、人間讃歌!君はそれを体現している!」

「そんな大袈裟な…」

 暁広は少し戸惑いながら、しかしすぐに言葉を返した。

「でも、困難を乗り越えること、それは何よりも大事だと、俺も思うよ」

「さすがだ、暁広くん!」

 興太は目を輝かせながら暁広を褒める。暁広は気まずそうに目を逸らした。

「実際にそうやって生き延びた人に言われると、魂が震えるよ!暁広くん!これからも是非俺と仲良くしてくれ!」

「それは、もちろんだよ」

「ありがとう!」

 興太の勢いに少し押されながら、暁広はうなずく。暁広が少し困っている中、星が歩いてきた。

「興太、帰ろうぜ…あぁ、暁広、こいつに捕まってたの?」

 星は少し笑いながら暁広に尋ねる。暁広は首を横に振った。

「いやいや、捕まったなんてそんな」

「認めていいんだよ、暁広。こいつそういうやつだから」

「はっはっは!星!また悪口のキレを増したな!」

 星が言うと、逆に興太も笑う。暁広もつられて笑っていた。

「おい、興ちゃん、帰ろーぜ」

「一体何を騒いでいるんだ」

 興太の元に、流と光樹もやってくる。興太はそちらに向き直ると、暁広の紹介を始めた。

「おう!流!光樹!彼は魅神暁広くんだ!あの湘堂の出身らしいぞ!」

 興太が言うと、暁広も明るく挨拶を返した。

「魅神暁広。よろしくな」

「へぇ〜俺様には及ばねぇけどイイ男じゃん。よろしく」

「暁広の勝ちだな、流。よろしくな、暁広」

 暁広は新しい友人たちに囲まれ、穏やかに笑っていた。

「おい、トッシー」

 正面にいる4人の新しい友人たちとは逆方向の背後から暁広を呼ぶ声がする。暁広が振り向くと、圭輝と浩助が暁広を待っていた。

「あぁ、圭輝、浩助」

「暁広、知り合いか?」

 圭輝と浩助に挨拶すると、星が尋ねる。暁広はすぐに振り向いて紹介を始めた。

「うん、同じ小学校の圭輝と浩助だよ」

「おぉ!暁広くん以外にもいたのか!俺は道拓興太!よろしくな!」

 興太がそう言って浩助と圭輝に感激しきりの様子で近づいていく。

 その様子を見て、暁広は何かを思いついた。

「なぁ、よければ明日の午前中、みんなの自己紹介も兼ねて一緒に出かけないか?ちょうど土曜だしさ」

「賛成。9時に校門前でどうだ?」

 暁広の提案に、すぐに星が具体的なアイディアを加える。その場の男子たちは一斉に賛成と声を上げた。

「じゃあ決まったな、また明日!」

「ういーっす」

 男子たちは群れを成しながら教室を出ていく。そのまま彼らは放課後の街へ帰って行くのだった。



4月5日 土曜日 8:30

 GSSTのビルでは、私服を着込む暁広を見た茜が話しかけていた。

「あれ、トッシーお出かけ?」

「うん。新しくできた友達と」

 茜はふーんと唸ると、すぐに切り替えた。

「ねぇ、私も連れてって!」

「えぇ?男しかいないよ?」

「いいから。トッシーの新しいお友達がどんな人たちか、気になるの。ねぇお願い」

 茜が言うと、暁広も一瞬考える。しかし、茜の頼みは断れなかった。

「…わかったよ。一緒に行こう」



9:00 灯島中学校前

 暁広は茜を連れて現れる。すでに暁広以外の男子は全員揃っていた。

「おはよう!お待たせ!」

 雑談を交わす6人の男子の背中から、暁広が声をかける。6人は一斉に振り向いた。

 同時に、茜の存在を知らない新しい友人たち4人から驚きの声が上がった。

「ヒュー!トシちゃーん、そっちのベッピン、おめぇのオンナかい?」

 流の軽口が飛ぶ。暁広は少し恥ずかしそうに反論する。

「いや、その」

 口籠もる暁広の様子を見て、茜は少し微笑むと大きな声で答えた。

「そう!私はトッシーのカノジョの茜!変なことしたらブッ飛ばすからね!」

「アッハッハ!キョーレツゥー!」

 茜の言葉に流が楽しそうに笑う。暁広は茜の言葉に頭を抱えていた。

 流から一歩離れて見守っていた、光樹、興太、星の3人に、浩助が軽く謝った。

「ごめんな、あの2人いつもあぁなんだ」

「美しい…」

 浩助の言葉に、光樹は呟いて答える。浩助が首を傾げるのにも気づかず、光樹はそのまま呟き続ける。

「あの2人、茜と暁広という足し算、俺の美学に完璧に合致する…!絵にしたいくらいだ…!」

「確かにあの2人からは強い絆を感じるな!共に死線を潜り抜け、共に成長してきたからなんだろう!」

「どーだったかなぁ」

 光樹の横で興太も感激する。だがその横で圭輝はそれを腐すようにひと言だけ呟くのだった。

「ほら!早くどこか行こう!星!」

 暁広が場の雰囲気を切り替えるため、星に話題を振る。星もそれに答える。

「海、山、街、どれがいい?」

「山行こう!」

 星の提案に、暁広は即決する。星も、よし、と短く答えた。

「こっちだ!」

 星が歩き出す。暁広も茜と一緒に星の横に来ると、3人で先頭を歩く。残りの5人も、雑談しながら先頭の3人に付いていった。




 灯島市は、首都圏では随一の港町で、都市圏もかなりの発展を遂げている。そうでありながら近隣住民の努力の甲斐あって元々あった緑豊かな山も青々と茂っている。

 暁広たちはその山の方へ歩いていた。道はコンクリートで舗装され、崖側にはガードレールが設置されていたが、反対側には白色の山肌とその上に伸びる大木がよく見えた。

 ガードレールの向こうには、朝日に照らされた青い海が白く照らされている。彼らが今登っている坂を進むと、手前には白の灯台と、観光客で賑わう遊歩道も見えてきた。

「いい景色だねー!」

 茜が海の方を見ながら声を上げる。暁広も静かにうなずいた。

「湘堂の海にも、負けてないね」

 暁広が言うと、思わず周囲の面々は静まり返る。星たち戦いを経験していない彼らにとって、暁広が口にする故郷の名前は重かった。

 重くなった空気を感じ取った浩助は、すぐに星に話題を振った。

「おーい、この山、なんか観光名所みたいのはないのか?」

 浩助に言われた星はすぐに考えを巡らせ、そして言葉を発した。

「『あいつ』の家があるな…」

 星の言葉に、暁広は首を傾げた。

「『あいつ』?」

「おい、星ちゃんよ、やめとけよ、『あいつ』だけは」

 普段軽薄な流が、急に真剣な表情になって言う。事情を知ってそうな光樹と興太も流に賛同しているようだった。

「触らぬ神に祟りなし。俺の美学だ」

「『彼』は危険すぎる!『彼』に関わろうと言うのは勇気ではなく無謀で、それは人間が唾棄だきすべきものだ!」

「一体なんの話をしてるの?」

 茜が不安そうにする男子たちに尋ねる。

 星はそれに答えるように話し始めた。

「うちの学校にはな、6年間不登校だった奴がいたんだ。来るのはテストの時だけ。誰とも遊ばず、仲良くもせず、でも成績は優秀だった」

「ガリ勉が危険?日和ってんなぁ」

「話はここからなんだ」

 星は圭輝の言葉に対して鋭く言う。

「こいつの正体を不思議がって何人もの生徒が様子を見に行った。だが結果、全員こいつの怒りを買った」

「どうなったの?」

 茜が息を飲みながら尋ねる。星は淡々と語った。

「みんな体に火傷を負わされて、追い返されたんだとさ。しかも、あるものは綺麗な手形の火傷を背中に負わされたらしい」

「綺麗な手形の火傷、か…」

 浩助が何かを考えながら相槌を打つ。暁広も何かを考えている様子だった。

「星、その男の名前は?」

 暁広は尋ねる。

こう昌翔まさと。今年は俺たちと同じクラスだ」

「クラスメート、ねぇ」

 星の返答に、圭輝が小さく息を吐く。

 暁広はうなずくと、ハッキリと声を発した。

「行ってみよう」

 暁広の言葉に星たち反対派の4人は顔色を変えた。

「おい、話聞いてなかったのか?」

 流が暁広に怪訝そうな顔をして尋ねる。すぐに興太も声を大きくした。

「そうだぞ!俺たちとしても暁広くんたちに怪我はしてほしくないから言っているんだ!」

「不必要な怪我を負うことは美しくもなんでもないぞ」

 光樹も興太に賛同する。だが1人だけ、星だけはそんな彼らを制した。

「待て。もしかしたら…湘堂を生き延びた暁広なら…何かできるかもしれないぞ」

「星!それだけの根拠で彼らを危険なところに送るのか!?」

「俺には十分な根拠に思えるけどな。テロリストは何人もの大人。それが本気で暁広たちに襲い掛かりながら、暁広たちは生き延びてきた。そんな奴らがただの中学生1人に遅れを取るとは思えない」

 興太の言葉に、星は冷静に自分の考えを述べる。星が言うと、他のメンバーも説得されて黙り込んだ。

「危なくなったら逃げる」

 暁広が言うと、みんな一斉にそちらに振り向く。

「それを徹底しよう。それなら、行ってみてもいいか?」

 暁広が尋ねる。メンバーたちは何か考え、一瞬ためらったようだが、最後にはうなずいていた。

「よし、じゃあ星、案内してくれ」



 暁広たち一行は5分ほど歩くと、人気ひとけのない林の入り口にやってきた。

「この先にあいつの家がある」

 星が言うと、暁広はうなずいた。

「わかった。圭輝、茜、俺と一緒に先頭を進もう。浩助、最悪他の4人を連れて逃げれるように準備しといて。行こう」

 暁広が指示を出すと、圭輝が暁広の少し後ろにつく。茜も暁広の隣に立ち、先頭で案内していた星も浩助や圭輝の後ろに並んだ。暁広も、一通り列ができたことを確認すると、茜と共に林の中へ入っていく。

 林の中は外で見えるよりも木々が生い茂っており、陽が差し込まない。薄暗い中を見回しながら、一行はゆっくりと歩み進んでいく。

「暗いね…」

 茜が隣の暁広に呟く。それに応えるように、暁広も独り言を呟いた。

「どういうやつなんだろうね…」

 風が吹く。林の奥の小枝が落ち、葉音が辺りに響いた。

「ぅぉ、驚かすなよ…」

 圭輝は物音の方を見ながら呟く。急に立ち止まった圭輝に、圭輝の後ろを歩いていた流がぶつかる。

「ぉい、急に止まんなよ」

 流が言うと、圭輝も、あぁと答える。そのまま彼らが立ち止まっていた時だった。

「誰だ、お前ら!」

 圭輝には聞きなれない声がした。先頭でどんどんと進んでいった暁広と茜の方から聞こえた声。圭輝たちは急いで暁広たちの方へ駆け出した。

「落ち着いて。俺は魅神暁広。遊びにきたんだ」

「出ていけ!」

 暁広に対して誰かが怒鳴っている。圭輝たちが駆けつけ、暁広の背中に呼びかける。

「トッシー!」

 暁広は一瞬後ろを見ると、手で圭輝たちを制止する。

 暁広と茜の正面に立っていたのは、ボサボサに伸び切った前髪で左目を隠している痩せて背の高い男子だった。

「なんだ?仲間か!」

 彼は駆けてきた圭輝たちを警戒して怒鳴る。彼の姿を見た興太が暁広に向けて言った。

「暁広くん!彼が凰くんだ!」

 暁広は正面にいる男、凰の顔を見る。髪で隠れていない右目には、怯えのような怒りが宿っているのが見てとれた。

「落ち着いてくれ、凰昌翔くん。俺たちは友達になりにきたんだ」

「どいつもこいつもそう言ってきた!だが全員嘘つきだった!俺の家に石を投げつけ!俺のことを勝手に決めつけ!」

 頭に血が上っている昌翔は、一方的に怒鳴る。暁広は彼を説得するため、穏やかに声を発した。

「俺たちはそんなことをしない」

「黙れ!俺のことは放っておいてくれ!言うことを聞かないなら…無理やり聞かせてもいいんだぞ…!」

 暁広の言葉に対して昌翔は脅しにかかる。暁広は小さくため息を吐く。昌翔の力を噂で知っているメンバーはもちろん、暁広の隣に立っている茜も不安そうに暁広の横顔を見た。暁広の表情に、恐れはないように見えた。

「わかった、やってみろよ」

 暁広は肩を回しながら言う。

 一斉に暁広の一行全員の顔色が変わった。

「調子に乗るなよ、雑魚が!」

 昌翔の声が薄暗い林に響く。

「みんな下がれ!」

 危険を察した星の声が響く。茜や圭輝、浩助も、星たちと共に暁広たちから距離を取った。

 暁広と昌翔は3歩分の幅しかない道で向き合う。暁広はジリジリと間合いを取り、お互いに3歩程度の間合いになった。


「ぶっ殺す!」

 そう叫んで動き始めたのは昌翔の方だった。

 姿勢を低くしながら右の拳を握りしめ、暁広まであと一歩の距離まで近付く。

 そのまま右の拳を下から振り上げ、暁広の顔面を捉える。

(遅い!)

 暁広は昌翔の拳をギリギリまで引きつけてからわずかに顔を動かして避ける。同時に、昌翔の左手も暁広の顔面を目掛けて飛んできているのが見えた。

(これも避けてから締め技でカウンターを取る!)

 暁広はそう思ってバックステップで一歩下がる。昌翔の左手は開いたまま、真っ直ぐ暁広の顔面へストレートの軌道で飛んだが、暁広はそれをかわした。


 はずだった。


「死ねっ!!」

 昌翔の声が響く。

 同時に、暁広は見た。

 昌翔の左手の平に、橙色の光が集まっていた。

(これは…!?)

 得体の知れない状況に、暁広も一瞬息を飲む。


「オリヤァッ!!」

 昌翔の気合いと共に、それは起きた。

 昌翔の左手の平に集まった光は、そのまま束となり、暁広の顔を狙って燃え上がった。

「!!!」

 暁広は咄嗟に後ろへ飛び退いたが、その勢いで背中が地面にぶつかる。

 昌翔の左手は、わずかに橙色に燃えていた。

 昌翔は土の上に横たわる暁広を見ながら、自分の左の手のひらに浮かぶ炎に、ふっと息を吹きかけて消した。

「ふん、避けたか…!」

 昌翔は口角を上げながら言う。

 一方の暁広と、それを見守る茜たちは、目の前で起きた事態に理解が追い付いていないようだった。

「おい…ありゃ一体なんだ?」

 光樹が言葉を絞り出す。

「炎…に見えたが…どこにライターなんて持ってたんだ…?」

「いや、手のひらから出してたぞ、あれはライターなんかじゃない…!」

 浩助の疑問に、星が言う。

 自分達の常識を遥かに越えた力を目の前にし、茜は両手を握って暁広の背中を見守り、祈ることしかできなかった。

 暁広は立ち上がると、構え直す。

 その目は、中学生になったばかりの無邪気なそれから、冷徹な特殊部隊の隊員のそれになっていた。

「へぇ…死にたいんだな!?」

 昌翔はアゴを上げながら暁広を挑発する。暁広はそれに対して首を回した。

「簡単に死ぬ殺すとか言わないほうがいいぞ。ダサいぜ」

 暁広は肩も回しながら昌翔を挑発し返す。この挑発が昌翔の琴線に触れたようだった。

「力もない雑魚が…!俺に偉そうに説教垂れるんじゃねぇ!!」

 暁広と昌翔の距離はお互いに3歩の距離。この距離ならお互いの蹴りが入るが、威力は低い。しかし、お互いにもう一歩踏み込めば、最大威力の攻撃を叩き込める。それでも先に動いた方は叩かれるだろう。

(よく訓練してるトッシーはそれをわかってるはずだ、しっかり待って相手の隙を突くんだ、トッシー!)

 浩助は心の中で叫ぶ。

 だが暁広は浩助の考えとは逆を行った。

 姿勢を低くしながら一歩前に踏み込んだのである。

(もらった!)

 昌翔はそう思うと左の拳を暁広の顔に振るう。

 しかし暁広はそれをかわして踏み込んでいく。

 すでに2人の間合いは、お互いに一番威力の出せる距離感になっていた。その距離感で、暁広の姿勢はやや崩れている。

(左のガードがお留守だねぇ!)

 昌翔は勝利を確信しながら右の拳に炎を纏いながら暁広の顔面へフックを入れる。

「待ってたよ!」

「!?」

 暁広が叫ぶ。

 周囲から見て崩れているように見えた体勢で、暁広は昌翔の拳をじっと見ていた。

 そして最低限の動きで昌翔の拳を避けると、昌翔の右腕に自分の右腕を絡めた。

「まさか…!」

 そのまま暁広は自分の左手を昌翔の右手首に回す。その状態で昌翔の右手にぶら下がるように、自分の両足も昌翔の右腕に絡みつけ、そのまま昌翔を体重で引きずり倒す。

「うぉわっ!?」

 昌翔と暁広は地面に転がる。しかし、昌翔は右腕を完全に暁広によってロックされていた。

「腕十字固めだ!!」

 浩助が声を上げる。彼の言葉通り、今暁広は昌翔に対して腕十字固めという技をかけ、右手を動かせないようにしていたのである。

「この野郎!この野郎!」

 昌翔も叫びながらもがく。右手から火を出すが、暁広の左手が昌翔の右手首を捻ると、あらぬ方向に火が向き、無効化する。

「それ!」

 そのまま暁広はあらぬ方向に昌翔の右手首を曲げていく。

「そうか、手の平から炎が出るなら、腕をロックして手の甲のほうに回り込んでいれば炎は当たらない!」

 浩助は暁広の考えに気づいて声を上げる。そんなことを気にできるはずもない昌翔はもがき続けていた。

「ぐっ…うぅ…!!!」

「どうする?このままへし折ってもいいけど?」

 暁広が昌翔に尋ねる。暁広は徐々に力を強めた。

「あいつ、左手で火をつけてくるんじゃないか?」

 横から見ている星が呟く。だがすぐに浩助がそれを否定した。

「いや、それはない。トッシーならあいつが抵抗する前に右腕を折れる。あいつもそれはわかっているはずだ」

 浩助の言葉を聞きながら、全員息を飲んで様子を見守る。

「さぁ!どうする!?」

 暁広は燃え続ける昌翔の右手を横目で見ながら尋ねる。

「くっ…!」

 昌翔は奥歯を食いしばる。プライドと右手を秤にかけ、彼は決断を下した。

「…わかった..!もう攻撃はしない…!」

 昌翔はそう言って右手の炎を消す。それを見て暁広は昌翔の腕から離れれて立ち上がった。


 昌翔は右腕を抑える。あまりの痛みに声が出そうだったがそれを噛み殺し、のたうち回りそうになる体を必死に押さえつけていた。

「大丈夫か?」

 暁広が右手を差し出しながら尋ねる。昌翔は小さくため息をついた。

「クソが…」

「そうか。じゃあそのまま話を聞いてもらおうか」

 暁広は地面に座り込むと、昌翔に語りかけ始めた。

「改めて自己紹介だ。俺は魅神暁広。色々あって湘堂市からここに逃げてきた」

「…なんでここにきた」

「今年、俺とお前はクラスメートになった。それで、俺はお前がどんなやつなのか知りたかったのさ」

 地面に寝そべる昌翔と、その隣に座り込む暁広はお互いに顔を見合わせなかった。

「…それで?俺はどんなやつだと思う?魅神」

 昌翔は空を眺めながら尋ねる。暁広はそれに対して少し空を眺めてから答えた。

「臆病者、だな」

「…なんだと?」

 昌翔は暁広を睨むように見上げながら聞き返す。暁広は冷静に自分の考えを並べ始めた。

「他人に対してすごく警戒して、しかも自分の力に対してまで内心は怯えてる。でもプライドは高い。だから過剰に相手を攻撃する」

「…」

 暁広の分析に、昌翔も黙り込む。図星だったからだ。

 暁広は昌翔の方を見る。そして優しく彼に語りかけた。

「友達にならないか。俺はお前が気に入った。お前と一緒に、中学校生活を送ってみたい」

「学校に行けって言うのか」

「そうだ」

「イヤだ」

「どうして」

「力もない奴らと俺が一緒にいるメリットがわからない。得るものがない。勉強は1人でもできる。ならば行く必要はない」

 昌翔は冷静に言い切る。暁広はふっと笑った。

「本当に学校行ってなかったんだな」

「何がおかしい」

「俺が湘堂を生き残れたのはクラスメートたちのおかげだ」

「何を言っている?」

「俺は、みんなと信頼しあい、協力しあえたからあの街を生き延びられたんだ。あの街を生き残れたのは、決して勉強できたからじゃない。仲間がいたからだ。学校で、仲間たちとの協力の仕方を学んだから生き残れたんだ」

 暁広が言うと、昌翔もやや不満はありそうではあったが客観的な事実として受け止めていた。

「…仲間…」

「人間1人じゃできることなんて少ない。だからみんな協力し合うわけだろ?大人になれば、仲間と協力して仕事する。だったら中学で仲間の作り方、協力の仕方を学んでもいいんじゃないか?」

 暁広は昌翔の性格を考え、実用性の面から説得していく。昌翔は成績が優秀だと聞いていた暁広は、彼なら説得できると思って話していた。

 そのまま暁広は地面に横たわる昌翔を見下ろす。昌翔は髪で隠れていない右目で暁広の顔を見た。

「…いいだろう」

 昌翔はふっと笑いながらそう呟くと、右手を差し伸べる。遠くから見ていた星たちは一瞬警戒したが、浩助と圭輝、そして茜は安心した様子でそれを見守っていた。

 暁広は昌翔のその右手を握り返した。

「…ここで俺が手に火をつけたらどうする?」

「お前はそんなことはしない」

 昌翔の質問に対して暁広は断言する。昌翔は握手しながら静かに笑っていた。

「…くくく…お人好しの極みだな…ははは!」

 昌翔が声を上げて笑い出す。つられた暁広も大声で笑っていた。

「おい!みんな!終わったぞ!」

 暁広は少し離れた背後にいた星たちに声をかける。そのまま昌翔のことも立たせながら自分も立ち上がった。

 茜が真っ先に暁広に歩み寄る。少し遅れて浩助、圭輝が少し呆れたように笑いながら歩み寄る。その後ろから恐る恐る星、興太、流、光樹と歩き寄ってきた。

「…こいつらは?」

「みんな俺の、いや、俺たちの友達だ」

 不安そうに尋ねる昌翔に暁広は笑顔で答える。昌翔はどこか警戒している様子だったが、それに構わず茜が驚いた様子で話しかけていた。

「すごいね、手から火が出るなんて!生まれつき?」

「あ、あぁ…だが秘密にしておいてくれると助かる…目立ちたくはないから…」

「昌翔の嫌がることはしないさ」

 茜の質問に、少し戸惑いながら答える昌翔。それに対して暁広は優しく笑いかけると、昌翔も少し不慣れな笑顔を作っていた。

 そんな様子を見て驚いていたのは星たち4人だった。

「あいつ、トシちゃん、凰のことぶっ倒した挙句友達になっちまったぞ」

 流が驚きを隠せない様子で呟く。光樹も信じられないような様子で頷いていた。

「想像を越えてきた…なんてやつだ」

「学年のどんな生徒も凰くんには敵わず逃げてきた…なのに暁広くんはそれを乗り越え、信頼関係を築いている…!」

 興太も驚きの声を上げる。他3人の声を聞きながら、星は息を飲み、呟いた。

「魅神暁広…この男、やはり只者じゃないかもしれん…」

 星の言葉に彼らはうなずく。彼らにとって言葉を失うほど、目の前で繰り広げられた事態は凄まじいものだった。

「おーい、4人とも、何やってるんだ?こっちこいよ」

 暁広が明るく声をかける。4人は軽くうなずきながら暁広の元へ歩き出した。

「今日からみんな友達だ。仲良くやろう!」

 暁広の青春は、今ここに始まった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました

次回もお楽しみいただけると幸いです

今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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