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渡り鳥の友人

作者: 桂 ミツル


毎年暖かくなると海の向こうから鳥になった友人がやってくる。




切り立った崖の上から海を眺める。今日は晴れていて陽の光が水面に反射してキラキラと輝く様子を見ると浮き足立つ心が踊り出しそうだった。

「いい天気で良かった、海も荒れてないし。…早く来ないかしら」

彼女がやってくるだろう方角を眺める。今年は西の方にある国に寄ってから来ると言っていたから大体こちらから来るだろうと予想して。


彼女は世界中を飛んで回っている。ずっと1ヵ所に留まることはあまりなく、長くて3ヶ月短くて2週間程。最初からそんな生活だったわけではなく、そうなる前は私と同じ様に地面に足をつけて歩いていた。勿論飛ぶことなんて出来ない、普通の人間。




それが何故だか急に空を飛び出した。その時の私は驚いて腰を抜かし口をあわあわと震えさせているだけだったのに対して等の本人は


「まぁこういうこともあるかぁ」


なんて言っていた。そんな訳ないでしょ!と思ったが彼女があまりにもなんて事無いように言うものだからはぁ、とよく分からない返事を返した。昔からのんびりした子だとは思っていたけど、もしかしたらとんでもなく胆が座っていたのかもしれない。


そんな子供の頃を思い出していると、こちらから来るだろうと踏んでいた西の空に黒い点の様なものが見えた気がする。そのまま見つめているとその点はじわじわと大きくなり少しずつ人の姿になっていく。その人影に向かって大きく手を振り「おーい」と呼び掛けるとその人影も「お~~い!!」と答え、降下してくる勢いのまま私に飛び込んできた。


「ネリネ!久しぶり~元気だった?」

「久しぶりナシラ、元気だっわよ。相変わらず凄い勢いで飛び込んで来るんだから」

少し呆れた様に彼女ーーーナシラに笑かける。ナシラはごめん、ごめんつい。と言いながら飛び込んで来た勢いで抱き上げて浮いていた私をゆっくりと地面に降ろす。呆れた様に言ってはいるがこの浮いている時間は実は嫌いではない。ナシラもそれが分かっているから辞めないんだろうし、私も辞めて欲しいとは思わない。


「はいこれ、今年のお土産。来る前に寄った西の国でもらったんだよ」


そう言って背負っていたリュックから取り出したのは白っぽい花を束にしたものだった。少し強引にリュックに詰めたのか、若干ひしゃげて見える。


「花…束?」


「それね、西の方の国にしか咲かない花なんだって。確か美肌、疲労回復、睡眠改善…まぁ色々いいらしいよ。あ、乾燥してお茶にして飲むんだって」


「美肌、疲労回復に睡眠改善、西の方の国にしか咲かない………もしかして月の女神の花?!」


「あーそうそう、そんな名前だった気がする」


「こっこれ、どうやって手に入れたの?!探すのが難しい上に限られた人しか採取出来ないはずよ!出回ることも少ないし……まさか勝手に採ってきたんじゃないでしょうね?!」


あまりの事に驚いてナシラを問い詰めると慌てて説明し始めた。


「違うよ!西の方の国での用事も済んで、ネリネの所に行こうとしたらたまたま倒れた人を見つけて助けたの!花はその人の奥さんから貰ったんだよ!急いで診療所に運んだら間に合ったけど結構危ないところだったみたいで、もう少し遅かったら命が危なかったって。それでお礼にって」


それに私、花に興味無いから採ろうなんて思わないし!

驚いて問い詰めてしまったがナシラの説明に納得した、何よりナシラに花に全く興味がない。


子供の頃、庭に咲いた綺麗な花を見せたら、綺麗だとは言ってくれたもののそこまで興味がない様子だったのに、その花が落ちて実を付けだした途端これは何という実なのかと楽しそうにしていたときは呆れてつい笑ってしまったのだった。

結局、その実は酸っぱすぎて人間が食べるのには向いていないと知ると落ち込み、普通に実を食べていた鳥を羨ましそうにみていた。


「そうよね、ごめん。人助けしたのに疑うようなこと言っちゃって。お花、ありがとう」

「いいよ、私もそんなに貴重な花だって知らなかったし」


それよりずっと海を渡ってきたから体か潮でベタベタする!シャワー浴びさせて!と騒ぎだす。

その彼女なりの気遣いに顔がほころぶ。花のお礼も兼ねておどけて手を差し出す。


「ふふっ、ではご案内いたしますわ旅人さん?」

「あら…ではお願いいたしますわ」


意図に気付いたナシラもそれっぽい口調で私の手をとる。それが可笑しくて2人してきゃらきゃらと笑ながら駆けていく。


暖かくなるこの時期に私の友人は必ず帰ってくる。それはまさしく渡り鳥のように。


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