音について語ってみましょうか【ただし閲覧注意】
世の中には様々な「音」があふれております。
耳をすまさずとも、家にいればテレビや家族の声が。
外を歩けば、車が走る音や鳥のさえずりなどが私達には聞こえてきます。
今あげた例は、皆さまの生活に溶け込み、ごく自然なものとして耳に入ってくるものですね。
というわけで、今回のテーマは「音」。
こちらにて語らせていただくことにいたしましょう。
なお、先に申し上げておきますが、少々気持ち悪い描写があります。
「あ、この先はなんだか苦手そう」と思った時点で、読むのを中止してくださいませ。
自分の仕事に、午前中に会社に届く商品の確認作業を倉庫で行うというものがあります。
商品に破損がないか、正しい送り先のものであるか。
それらの確認し、間違っていなければ確認済みだと分かるように、黄色の箱に商品を入れなおすという作業をしております。
ある日、入れなおす際の黄箱が足りないことに私は気づきました。
日々入荷する商品の数は変動するので、これもよくあること。
その際には別の階に置いてある箱を取りに行かねばなりません。
なお倉庫は一階にあり、箱の予備は三階と四階にそれぞれ置いてあります。
面倒だなぁと思いつつ階段を上り、まずは三階へと私はむかいました。
いつもであればここに在庫があるのですが、運悪く三階の在庫がありません。
仕方なく私は四階へと足を進めました。
日頃の運動不足がたたり、ヒイヒイと息をしながら四階までたどり着いた私は大きく息をつきます。
四階は普段、人が立ち入ることのないため静まり返っており、私の荒い息だけが響くのみ。
ようやく息が落ち着いたので、私は倉庫内へと足を踏み入れていきました。
「え~と、箱はっと。……ん?」
独り言をつぶやきながら箱を探す私の耳に、何かの音が聞こえてきます。
もう一度言いますが、四階の倉庫はめったに人が来ません。
現状で私以外に倉庫内には人はおらず、音がするはずなどないのです。
足を止め、私は耳に意識を集中させていきました。
冒頭で書いた日常にあふれた音とは明らかに違う異質のものが、私の耳に入ってきます。
文字にして例えるのであればですね。
「み゛ぢっ……み゛ぢゅ」
こんな音が聞こえてくるではないですか。
嫌な予感がします。
というか、もはや嫌な予感しかしません。
音の根源を見つけた時、私の口から出たのは悲鳴ではなく、「ひゅっ」と息をのむ音でした。
驚きすぎると悲鳴は出ない。
そんなどうでもいい豆知識を、私はこのとき知りました。
「それ」は二重の透明の袋に入れられておりました。
おそらく腐葉土『だった』ものでしょう。
そのまま放置されていたそれは、大小さまざまな虫がその狭い世界で存在しておりました。
狭さに耐えられなくなった一部が、袋を食い破り出ているのを見てしまった私はすさまじい勢いで二階の事務所へと戻っていきます。
一番近くにいたイチカに私は「い、イチカァ! #$%&¥!!」と叫びながら四階へと連行し、彼女にその惨状を見せます。
「あっははぁ! なにこれ~! すっごい命の神秘~」
イチカは大変に虫に耐性のある女性でした。
けらけらと笑いながら事務所へ戻ると、持ってきたであろう人物へと連絡を取ります。
「あ、社長~。四階に残してあるやつ、責任もって片付けてくださいね~。さもないと、とはが死にそうですよ~」
わかってた。
わかってはいたのですが、やはり社長、お・ま・え・か……。
社長。
あなたは雇い主なので、言葉遣いには気をつけるつもりですが。
あんたはなんてものを置いていきやがったのですか。
えぇ、社長。
あなたには数えきれないくらいの恩があります。
父が亡くなり、途方に暮れていた私をこの会社に入れて育ててくれましたね。
「君のお父さんには世話になったんだ」が口癖で、いろいろ相談にも乗ってもらいました。
えぇ、いわばあなたは私の命の恩人です。
ですが今この瞬間だけは、あなたは私にとっての『怨人』にジョブチェンジしたことを心からお伝えしたい。
数十分後、軍手と大量のごみ袋をもって笑顔で社長はやってきます。
「ははは、ごめ~ん。もらったのが雨の日でさ。後でやろうとして忘れちゃってたわ~」
同じように社長と一緒に大笑いしているイチカに尊敬のまなざしを向けながら私は思うのです。
――弊社、虫対策は私以外は今日もばっちりのようです。