第7話 修行1年目 (※爺や視点)
――修行を初めて1年が経過。
坊っちゃんの魔力制御も、ほぼ形となってきた。
近頃は魔力の暴走や誤発もなくなり、いかなる場面でも安定を見せている。
最初の頃は少し驚かせるだけで暴発していたというのに。
もっとも、これは心身が成長してきたことも大きいだろう。
男子3日会わざれば~などという言葉もあるが、子供の成長とは本当に早いもの。
まだ6歳と言えど、1年も経てば別人になれるということだ。
今日も今日とて、坊っちゃんはこの爺やと修業に明け暮れている。
最近は道場から山中へと移り、より実践的な訓練へと移った次第。
「どうしましたかな。息が上がっておりますぞ」
「ま……待ってよ爺や……!」
鬱蒼と木々が生い茂る中を、全力疾走で駆け抜ける。
そう、今は彼と〝鬼ごっこ〟をしている最中だ。
逃げるワシ。
追い駆ける坊ちゃん。
老いぼれと言えど、そう簡単に掴まってやったりはしませんぞ。
とはいえ普通の鬼ごっこでは、坊っちゃんには不足も不足。
だから――至る所に仕掛け罠を仕込んである。
「坊っちゃん、油断めされるな!」
走っている最中、木からぶら下がっていたロープをグイッと引っ張る。
すると――坊っちゃん目掛けて、巨大な振り子丸太がブオン!と襲い掛かった。
「――!」
瞬間、坊っちゃんは右手の拳を握る。
そして襲い来る丸太の先端に、殴打を叩き込んだ。
――坊っちゃんの身体よりずっと重く巨大な丸太が、一瞬で弾け飛ぶ。
まるで内側から破裂するように。
粉々に砕かれ、無数の木片が四方に飛散する。
これが、坊っちゃんが合理的な魔力の使い方を身につけた結果。
普段は魔力を抑え込み、攻撃の瞬間だけ対象に魔力を流し込む。
それは一瞬にも満たぬ刹那の出来事。
傍から見れば、まるで馬鹿力でぶん殴ったようにも見えるだろう。
しかも坊っちゃんは、これでも魔力の放出を最小限に抑えている。
おそらく全出力の1割以下のはず。
たった1年で、コレなのだ。
ここまでのコントロールができるようになってしまった。
〝魔力の収縮〟と併せて制御できるようになったことを考えれば、急激な成長だと言っていい。
恐ろしいなんてモノではない。
「爺や、追い付いたよ!」
スピードを上げた坊っちゃんはこちらに肉薄。
この鬼ごっこは、ワシの身体が掴まれた時点で彼の勝ちということになっている。
「ほっ、危ない危ない!」
坊っちゃんの小さな腕からヒラリと回避するワシ。
まったくもって、年寄りにはいい運動になる。
「いやはや、楽しいですなぁ坊っちゃん!」
「爺や、真面目にやってよ!」
「この鬼庭斎門、坊っちゃんの前では如何なる時も真剣ですぞ! そぉれ!」
足に魔力を込め、傍にあった大きな岩石を蹴り飛ばす。
サッカーボールのようにかっ飛んでいくが、先程の丸太同様に坊っちゃんはそれを素手で粉砕。
怯むことなく真っ直ぐに向かってくる。
「よし、今度こそ――ッ!」
「残念、今度は避けるべきでしたな」
「へ? うわあ!?」
岩に視界を遮られた坊っちゃんは、すぐ足元にあった落とし穴に気付けなかった。
もっとも、ワシがそこまで誘導したのだけども。
なんとも気持ちよく穴に落ちた坊っちゃんだったが、
「ま、まだまだ……!」
手足を壁にめり込ませ、なんとか落下を阻止していた。
驚くべきフィジカルと反射神経だが――これも予想の範疇。
「いいえ、爺やの勝ちです」
傍にあったロープをクイッと引く。
すると落とし穴の中に設置してあった捕獲縄がビュンッと縮み、坊っちゃんの足を捕縛。
同時に捕獲縄は上空へと引っ張り上げられ――坊っちゃんの身体を宙吊りにした。
「まだ負けを認めませんかな、坊っちゃん?」
「う……ま、参りました……」
「今後の課題は、より実戦的な動きに慣れることですな。さ、帰ってご飯にしましょうぞ」
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