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第3話 強すぎる魔力


 赤ん坊として生まれ直し、2度目の人生をスタートした俺。

 

 今の俺は慈恩(じおん)ハジメという本名で、新しい生家は以前の俺の家系とは縁もゆかりもないらしい。


 慈恩(じおん)って凄い名字だよな……中々お目に掛かれないぞ。

 でもなんだか霊験あらたかな気もしてカッコいい。

 前世の俺もこんな珍しい名字が欲しかったな。


 それと不思議なことに、名字は違えど名前は同じハジメ。

 もしかすると名前が同じだったから、魂がこの子に憑依したのかも?

 いや、全然わからんが。


 生まれ直してすぐにわかったことは、他にもある。

 時世というか時代は俺が死んだ頃とほとんど同じらしく、ネットがあればスマホもある。

 高校生は制服を着て登校するし、社会人はスーツを着て会社に向かう。


 そして当然――ダンジョンや妖怪も存在している。


 母親がTVを点けてニュースを見れば、以前と同じようにダンジョンや妖怪絡みの事件が報道されているのだ。


 どうせ生まれ直すなら妖怪のいない世界に行きたかったモノだが、そんな贅沢を言っては罰が当たりそうだよな。


 さて、そんなワケで赤ん坊として新生活が始まったのだが――端的に言おう。

 赤ん坊、めっちゃ大変。


 いくら記憶や意識を引き継いでいても肉体――特に脳が未熟。

 感情を全くコントロールできないため、お腹が空けば泣き叫び、寂しくなれば泣き叫び、お漏らしすれば泣き叫ぶ。

 そのくせ、ちょっとでも疲れたらすぐに眠ってしまうのだ。

 自分で言うのもなんだが、赤ん坊ってのは難儀なモノである。

 

 ……だがそんなのは、ぶっちゃけ些細なこと。

 1番の問題は――俺の〝魔力〟だった。


 感情の昂ぶりと共に、瞬間沸騰の如く魔力が暴走。


 不快さを感じる度に家を滅茶苦茶にするわ――

 少しでも怖いと思った人をぶっ飛ばすわ――

 挙句の果てには、不意に出たくしゃみで上空の飛行機を撃墜しかけたことまであった。


 さらに俺の魔力量を正確に計測しようと様々な人が試したが、何度やっても計測器が破壊されて計測不能という結果で終了。


 検査の度に高価な機器やらなにやらを壊しまくるので、いつしか検査禁止に。

 最終的な損失がいくらになったのか……考えたくもないよ……。


 ――確かに、来世ではなにか才能を持って生まれたいと思った。

 けどここまでの能力が欲しいとは言ってないというか……。


 結局俺の魔力は、両親が〝魔力抑制珠〟という極めて特殊な宝石を海外から取り寄せ、ピアスとして耳につけることである程度は暴走が抑えられるようになった。

 それでも完全にコントロールできたとは言えなかったが。


 そうして月日は流れていき――俺が5歳に成長した、ある日のことだった。


 両親は俺を、関東の辺境にある〝とあるお寺〟へ連れて行った。

 なんでも、かつてダンジョン攻略で名を馳せた高名なお坊さんがいる――とかで。



「……そのお話、本当ですかな?」


「はい……〝魔力抑制珠〟を付けても完全に魔力を封印できなくて……。それに生まれた時から異常な魔力を有していたんです」


「ふぅむ、にわかには信じ難いですな……」


 境内本堂で正座し、神妙な面持ちでお坊さんに相談する両親。


 お坊さんは年老いた人物で立派な白顎髭を伸ばしており、とても穏やかな目つきをしている。

 一目で優しい人だとわかる老紳士だ。


 ちなみに――この人にも魔力がある。

 全身を覆うオーラのように湧き上がっているのが、ハッキリと視認できる。


「踏み入ったことをお聞きしますが、ご両親は魔力をお持ちで?」


「いいえ……どちらも魔力はありません。家系的にも魔力保持者はいなくて……」


「なるほど、遺伝的にも妙であると」


 彼は悩ましそうに顎髭を撫でつつチラッと俺を見て、


「……少しだけ、この子と2人きりで話をさせてもらえませんかな?」


 そう言って、両親を本堂内から離席させる。

 残される俺とお坊さん。

 すると――


「さぁて……坊っちゃんはどうやら、特別な星の下に生まれたようで」


「そうなの? よくわかんない」


「ハッハッハ、誤魔化さなくて結構。……坊っちゃんは、ワシの言葉の意味がよく理解できているはず」


「!」


「坊っちゃんの目からは、歳不相応な精神が垣間見えまする。まるでとっくに成人した大人のような……。ワシの目は欺けませんぞ」


「そ、それは……」


「もっとも、それだけの魔力を持てば精神が常人と異なるのも必定。深く聞くのも野暮やもしれませぬな」


 ……ほっ、よかった。

 深入りしないのは助かるな。


 もしこの身体の中身が転生した35歳のおっさんだなんて知られれば、マジでいたたまれなくなる。

 父さんと母さんなんて失神するだろうな。

 信じてもらえるかは別だけど。


「話がわかると見込んだ上で、1つお聞き致します。坊っちゃんは、自らの力をどうにかしたいとお思いか?」


「……思う。思ってる」


「ではその力を完全に封ずるのと、制御して世のため人のために役立てるの――どちらを望まれる」


 意外な質問だった。

 二択ってことは、そのどっちもできるってことなのか?

 それなら、このお坊さんは本当に凄い人なのかもしれない。


 ……力を封印するか、世の中に役立てるか。

 

 俺は才能を持って生まれ直したいと願って、この身体になった。

 才能を持つ、才能を生かすって――考えて見れば、才能を世の中のために役立てるってことでもあるよな。


 それに俺の前世は、あの黒い妖怪に殺されたんだ。

 アイツを見つけ出して、1発お見舞いでもしてやらないと気が済まない。


 そうだよ、俺には――この才能を使う理由がある。


「制御して、世のために役立てたい。この力のせいでパパやママ、それに多くの人たちに迷惑をかけたんだ。だから、これからは役立てなきゃって思う」


「妖怪と戦うことになっても?」


「うん」


「そのために修行する気は?」


「ある」


「よろしい。それでは……これからはこの鬼庭おにわ斎門さいもんを、爺やと呼んでくだされ」


「……? それ、どういう……?」


 俺の疑問に答えず、彼は立ち上がって本堂を後にする。

 どうやら両親の下へ向かったようだ。


 この後、鬼庭おにわ斎門さいもんは両親と話し合う。

 結果――俺は彼の下に預けられることとなった。


 同時に、俺の修行の日々は始まったのである。




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