閑話 ヴィルヘルム②
よろしくお願いします。
アベルはせっせとダンジョンを埋めていた。
一方その頃ヴィルヘルムには恋人ができた。
家を追い出され、住んでいる街を飛び出した後、ヴィルヘルムがどう過ごしていたか。
雑な説明をすると、まず冒険者ギルドに登録してダンジョンに潜って過ごしていた。怒りに身を任せてモンスター討伐をしまくった。スキル『編集』も徐々にうまく使いこなせるようになった。苦戦した『編集』キャンセルも条件を探り探りで戦闘に用いて、そのうち何とかキャンセルの発生を防げるようになった。
ある時北の森の近くのダンジョンで、不思議な剣のことを知る。古びたダンジョンの天井あたりに刺さっているその剣は、なんでも抜けるのは勇者の素質のある者だけという。
割と有名な話らしく、半ば観光地化していて、皆試していく。大口を叩く割には周りを気にするヴィルヘルム。周囲に人がいない間に試してみると、剣が、抜けた。
「勇者の素質がやっぱりあったのだ!」
そう自信を取り戻すのだった。
そのうち、モンスターに襲われた村でヴィルヘルムは少女と出会う。その村は冒険者ギルトから救助要請が出ていたので冒険者何人かで駆けつけたが、時すでに遅く村は半壊していた。
ヴィルヘルムは身寄りがなくなってしまったその少女を保護することになる。モンスターの襲撃のショックで塞ぎこむ彼女を元気づけるうちに、好きになる。ヴィルヘルムも年頃の若者だった。みつ編みの似合う素朴な少女は、くさくさとするヴィルヘルムの心を、少しずつ解してくれた。
村が襲われた時のことがフラッシュバックして、夜眠れないと言う彼女の悪夢をヴィルヘルムは『編集』する。
人にはなかなかうまく使えないこのスキルだが、夢なら割と素直に『編集』できた。
しばらく共に過ごすうちに、ヴィルヘルムはポツポツと少女に自分の家族の話をした。
「そうなの。義弟は嫌なヤツなのね?」
少女は聞く。
黙り込むヴィルヘルム。そもそも義弟のことをよく知らない。
それでも。
死にものぐるいで訓練して、必死で手に入れようとしていた騎士の資格。
ヴィルヘルムにとって特別な意味を持つ弟という立場。
父親からの期待。跡継ぎ。
そして、住んでいた家。
「嫌なヤツかはわからない。」
全て、何の努力もしていない義弟のものになった。
「でも、あのヒョロヒョロは絶対苦労も努力もしてない。」
その予想は半分当たっていた。この時点でアベルは特に何も努力らしい努力はしていなかった。
少女に『編集』スキルの話はしてあった。
「私の悪夢を消してくれるスキルね。」
彼女はそう認識していた。
「人の記憶を変えられるなんて、便利なスキルね。」
そう。『編集』は便利なスキルだった。コツを少しずつ掴んできたため、戦闘中の刹那的な記憶の改ざんだけでなく、冒険者ギルドでのランクや情報の誤魔化しなどもできるようになった。しかし、後ほど自分の首を絞めるようになるだけだと気が付き、馬鹿らしくなってそれはやめた。
実家に戻って父親の記憶を改ざんしようと思ったこともあった。しかし、編集する際には父親の考えていることを読まなければならない。それはつらかったので、やめた。
むしろ、家族にはヴィルヘルムにした仕打ちをしっかりと覚えておいてもらって、そのうち『編集』を正しく使って、ヴィルヘルム自身の実力で成り上がった後に見返してやろうと思った。
優しい少女と出会い、ヴィルヘルムの気持ちも落ち着いてきた。それでも。
「今ではもう命まで取ろうとは思ってない。でも、憎いんだ。」
そう義弟への思いを、恋人に吐露するのであった。
読んでいただき、ありがとうございます。
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