ダンジョン攻略 阿鼻叫喚(ゴブリンが)
よろしくお願いします。
ダンジョンを埋めちゃう。
そんなシンプルな計画が果たしてうまくいくものなのか。そしてそれを見守るだけの簡単なお仕事をするだけでいいのか。団員は首を傾げながらも、作戦準備を進めていた。
準備する物は通常の作戦時より多かった。そしてアベルの指示通り支度をし、指示通り作戦を実行した。
その結果団員達の目の前には、凄惨たる光景が広がっていた。
豊かな草原の真ん中に出来た無機質な流動石の蓋。周りからは所々煙が漏れ出ている。そして、漏れ聞こえるゴブリン達の阿鼻叫喚の声。
ダンジョン内で木霊しているものが聞こえているのだから、不気味さが増している。
騎士団員達はその周りで見張りをしている。
いつもより前衛に立つアベルは計画がうまく行って満足げに頷いている。
「かわいい顔してアベル坊っちゃんはエグいことをなさる。」
後ろではビアードが引きぎみにその様子を見守っていた。
そもそもこの計画をたてるのにあたって、アベルはダンジョンの仕組みをできる限り調べた。
この世界では、ダンジョンはまずゴブリンが作る。どこかから現れるゴブリン―この国では北の森にあるモンスターボックスから現れるゴブリンが、まず巣を作るために穴を掘る。草原などの、適度に堀りやすく適度な硬さのある場所を好む。
ゴブリン達は簡素な布を身に纏っている。ボロボロの棒やスコップのようなものを使って、または己の鋭い爪を使って穴を掘っていく。
そうして出来たゴブリンの巣に、オークが餌を求めてやってくる。大きな巣だとさらにオーガもやってくる。オークやオーガ達は餌がうまく繁殖するように潜り込む。そうしてダンジョン深くに潜んでいるらしい。
やがて薄暗いゴブリンの巣を好んでスライム達も共存しにやってくる。
ダンジョンによってはそこに魔道士たちが研究のために住み着いたりもする。
そうやって巨大なダンジョンが作られていくらしい。
ちなみにドラゴンはモンスターではなく大型の爬虫類に分類され、主に山に住んでいるそうだ。
今まで騎士団員達が行ってきた通常のダンジョン攻略方法も、アベル発案の『埋めちゃう』ほどまではいかないが、至ってシンプルだった。階層式になっているダンジョン(ゴブリンの巣)を、上から順番に武力で制圧していくのだ。
しかし、多数のゴブリンとの真っ向勝負。しかも地の利はあちらに有り。騎士団にとって毎回ある程度の被害が出ることが前提の任務だった。
一つの部屋を制圧しても、そこからアリの巣状に広がるダンジョンを一つ一つ制圧する必要がある。その上、外からもゴブリンが入ってくる可能性があるため、挟み撃ちにならないよう、制圧済みの部屋にもある程度人員を残さなければならない。
すると、どうなるか。
一つのダンジョンを制圧するのに多数の人員が必要となる。小規模なダンジョンなら、ゴブリンの部屋は十室ほどで、必要人員は倍数の二十人程。これには住民の要請があった際領地付騎士団が駆り出される規模だ。
中規模なダンジョンは五十室を超えるものも多い。そうなると分岐点が増え、深層部にはオークなどもいるために、必要人員は倍数ではなく四倍ほどとなる。これには、領主判断で領主保有の騎士団と、近辺の騎士団の合同部隊で当たることになる。
大規模ダンジョンでは国軍が出る。大きく育ちすぎたダンジョンは規模も特徴もまちまちなので、実態調査が行われた後に派遣人員数と攻略方針が決まる。
部屋が増えれば討伐の期間が長くなる。人数が増えれば補給物資も増える。
ダンジョン攻略とはとても手間暇のかかる任務なのだった。
アベルは通常のダンジョン攻略作戦を『効率が悪いな〜』と思いながら見つめていたが、実際に戦いもしない自分が口を出すわけにもいかないので、ただひたすら観察していた。
そんなある時、団員が毒けむりの出る煙玉を投げ込むのを見かけた。
「それを沢山ダンジョン内に投げ込んじゃえばいいんじゃないの?」
アベルがそう尋ねると、
「あまり沢山投げ込んでしまうと、その後突撃する団員にも影響が出てしまいます。」
との返答だった。
あくまでも中で戦う前提なのだなとある意味感心した。
そして、この毒煙玉はもっと有用に使えそうだと思った。
都合のいいことに、この毒煙玉の煙は空気より重い気体らしく、上から下に流れていく。
しかし、個体差があるらしく、全部のゴブリンが死ぬわけではなく良くて室内の数匹が死に、数匹は麻痺し、数匹は弱るけれど動けると言う効果であることが、観察と聞き取り調査の結果わかった。
また、ゴブリンの巣を更によく観察すると、ゴブリンは外から持ってきた食料を巣に持ち帰って食べている様子だった。書物によると、食欲旺盛で、常に食事を必要とし、食べないと3日で死ぬとあった。
以上の調査で導き出した結果。毒煙玉で弱らせた上で蓋をして餓死させる。それが最良に思えた。
この作戦は思った以上に上手くいった。
アベルがこの計画を考えたのには理由があった。
勿論仲間となった団員達の無事を考えてのことでもあったが、自分の都合もあったのだ。
これは、義兄ヴィルヘルムに会いに行くための布石。
アベルがヴィルヘルムに会いに行くのは簡単ではなかった。
まず単純に旅費が無い。
父親はアベルに期待を寄せているが甘いわけではないので旅費など到底くれるとは思えなかった。母親はあまり子育てに関心がないのでこちらも期待できない。
そして、騎士団長代行を任されてしまっているので何日も空けるわけにはいかない。そもそも貧弱なので単身の旅行は無謀だった。
そのため、騎士団を引き連れてヴィルヘルムのいる方角へ偶然を装い向かいたいのだが、騎士団長代行だからと言って好き勝手に連れ回せるわけでもない。それなりに理由が必要だった。
そこで目をつけたのが、ダンジョン攻略。それも、小規模までいかない超小型の、謂わばダンジョンの種。芽吹く前に刈ってしまうのだ。
超小型ダンジョンは至るところにある。大型は稀であるものの、頻出する中小規模のダンジョン対策に追われて、超小型ダンジョンは放置されているのが現状だ。それを、実験と証して次々と埋めていく。
この計画は画期的だった。団員は怪我をしない。ダンジョンも大きくなる前に潰せる。そして、アベルの目的も果たせる。
こうしてアベルは意気揚々とダンジョンを埋めて燻していった。
読んでいただき、ありがとうございます。
ダンジョン攻略が想定より長くなっています。
書いていて楽しくなってしまいました。