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ダンジョン攻略(ダンジョンには入らなくても格好良いよ。)

よろしくお願いします。

「ダンジョンに入らないでダンジョンを攻略する?」


ちょび髭の似合う総隊長が、アベルの持ってきた計画書を見たうえで、確認するようにアベルに尋ねる。


「そう! ダンジョンに入らないで攻略する方法を考えたんです!」


その会話を聞いて他の団員達も話を聞きに寄ってくる。


ダンジョンを攻略するのにダンジョンに入らない。

集まる団員達にはその方法は全く想像できなかったが、そもそもそうしたい理由もわからない。


アベルの横を陣取った禿頭の男ゴルゾは目の前の食べかけの食器を強引に腕で横に押しのけ、アベルが手にする計画書を空いたスペースに置かせた。


「意味がわからねえけど、とりあえず聞いてやろうや、総隊長殿。でもその前に一つ聞きたいことがある。なんだってこんなややこしい方法考えたんだ。」


ゴルゾは強面だけれど、なんだかんだ優しい人だとアベルは思っていた。今回もこうやって話をちゃんと聞いてくれる。意味のわからない意見を一蹴しない大人はいい大人だ。


『話を聞いてもらえる!』とアベルが嬉しそうな顔をしている一方、周りの団員達は怪訝そうな顔をしていた。


その温度差に気が付かないままアベルは普通の顔で言う。


「だって、危ないから。」


それを聞いて、ちょっとは面白い意見が聞けるかと思っていた団員達は呆れた。


「あのな、アベル。騎士と言うのは誇り高き職業なんだ。それが危ないからと言って逃げ腰で事に当たる、なんていうのは許されない。」

「そうだぞ。アベル。お前はまだ幼いし体も華奢だから怖くて当然だ。適材適所と言うし、お前は後ろで待機でいいと俺も思う。でも、俺達は鍛え抜かれた勇敢な戦士であり誇り高き騎士なんだ。怖がってちゃいけない。」


そう口々にアベルを諭すように言って聞かせる。


しかし、アベルはあまりピンときていないようだった。


「えっ…と。皆が誇り高くて逞しくて格好いい騎士なのはとてもよくわかっています。」


年下のアベルに格好いいと言われて満更でもない団員達は鼻を膨らませて、『そうだろ、そうだろ』と言っていた。


それにアベルは続けて言う。


「でも、モンスターに対して誇りは要らないかな〜と思います。」





思ってもない意見に、団員達の思考が停止する。


モンスターに対し、誇りは、要らない…?


今まで当たり前のように剣を振るって来ていた。それは領民を守るため。国を守るため。その為の誇り高き騎士団。


しかし、その誇りは誰の為? 誰に見て欲しい?


それはあまり考えたことは無かった。なぜなら当たり前だから。


雄叫びを上げてダンジョンに突入する。それも誇り高き騎士団の仕事の一つ。そこに疑問をはさんだことなどなかった。


生死が関わる活動にも関わらずここに無関心でいたのはおかしいと思われるかもしれない。しかし、これには国の思惑も絡んでいた。


モンスター相手に士気が下がってしまっては困る。


そのため、勇敢な騎士像を常に団員達に持たせるようにしていた。国の企てとまではいかない、いうなれば必然的に発生した方針。


『モンスター退治に於いても勇猛果敢であれ。』


幼い頃から騎士に憧れ、または強制的に騎士学校に入れられた彼らは騎士教育を施され、疑問を抱く間もなく騎士となって実戦に出ていく。そんな彼らにとっては当たり前の思想だった。




しかし、戦えないアベルは違っていた。

単純に疑問だった。なんで敢えて危ない方法を取るんだろう。なんで大事な仲間たちが怪我をしていかなきゃいけないんだろう。


それに、どんなに勇ましく格好良くダンジョンに乗り込んでいっても、それを見守る領民たちはいない。なぜなら避難指示がだされて遠くに逃げているから。


それはそれでいい。でも、たとえうまくダンジョン攻略ができても、どんなに激戦で大怪我を負う者がでても、それは領民にも領主にも、報告書という形の紙の上の文字としてしか伝わらない。


それは悔しかった。それに大切な仲間を守りたかった。だからアベルは一年間考えた。ダンジョンに入らなくても済む方法を。







ちょび髭の総隊長はアベルの計画書を見て唸った。

ゴルゾはじめ周りの団員も覗き込んだ。


その計画書は荒唐無稽に思えた。ゴルゾが『アベル、残念だが…』と口にしかけた時、総隊長がゴルゾを制した。


「意外といけるかもしれない。」


総隊長が計画書を熟読しながらそう言う。


「騎士の誇りもなにもあったもんじゃない計画だが、モンスターに対して、」


そこまで言ってアベルを見る。


「誇りはいらないです!」


アベルは挙手してそう大声で言った。






華奢であろうが、計画書が無茶苦茶であろうが、アベルは騎士団長代行だった。彼の意見に大きな反対意見がない限り、計画は実行されることになる。


始業前の私的な相談ではあったが、この計画には大きな反対は特になかった。そもそも失うものの少ない、危険も少ない計画だったため、団員達は首を傾げながらもとりあえずやってみるかという流れとなった。


アベルの計画書は至ってシンプル。ダンジョンに大量の毒玉を放り込んで、流動石コンクリートを流し込み、埋めてしまうというものだった。


団員達のやることは、作業の後見守るだけという指示だった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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