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ダンジョン攻略(ダンジョンには入らない。だって危ないから)

よろしくお願いします。

騎士団長代行(仮)から(仮)が取れた日、つまり正式に騎士団長代行になった日の朝。

アベルはある計画書を持って朝食の場に現れた。


始業時間になってからだと、その計画書は『騎士団長代行が持ってきた正式な計画書』になってしまう。団員たちがもしそれに反対したい場合には、より綿密な意見書を書かなければならない。それほどまでに騎士団長および代行の権限は強かった。


アベルはそこまでしたくなかったので、いったん私的な場で話し合いをしたいと考えた。だから、始業前の朝食の場を選んで計画書を総隊長に渡そうと考えた。


総隊長はちょび髭の生えた声の大きな男だった。

計画書を受け取ると、一言唸った。

それは騎士団長代行(仮)であった一年間アベルが考えてきた計画だった。






騎士団長代行(仮)であった一年間。


アベルが騎士団に入ってからしばらくすると、何度か遠征に行く機会がありアベルもそれについて行っていた。


遠征は、ダンジョンからモンスターがあふれて近隣住民が被害にあっているなどの報告を受けてその対応をしに行くこともあれば、中規模のダンジョンの破壊命令が国から出てその対応をしに行くこともあった。


そもそもの仕組みとして、この国は各領地を貴族が治める。その中で大規模な領地には騎士団が追加で配置される。その追加の騎士団を、騎士爵を持つものが任される形をとっていた。アベルの父親もこの立場にある。


この形式の騎士団は、領地付き騎士団と呼ばれており、普段は領地の巡回警護を行っていた。

そして臨時的に発生する遠方でのモンスターの対応をたまに請け負うのであった。



「アベル坊ちゃんを連れていくのか? 」


大男ビアードは遠征の度に渋った。


遠征時にはビアードはじめ他の団員たちはぜひともアベルを騎士団本部に置いていきたかった。危ないというのもあったが、来ても足手まといになるのは目に見えていたからだ。


しかし、騎士団長は遠征随行が義務だった。代行もしかり。




それにはこんな経緯があった。


騎士団長は貴族が任命されることになっていた。そして騎士団員のほとんどは平民または貴族の子息で立場が弱かった。


そして名ばかり騎士団長の貴族は恥もなく職務を放棄し、現場に行かずして高額な報酬を国から受け取る事態が横行する時期があり、団員のストライキがあり、騎士団長の現場随行義務化の法を可決させたという時代の流れがあった。


そのため、無能または非力な騎士団長が配属された場合、騎士団員は自分たちの首を絞める状況に陥ってしまった。今回のアベルに関しても同様であった。


「余計な法案を作っちまったもんだ。」

そうぼやくのは禿頭の男ゴルゾ。


アベルに同情的になっていた団員たちは、彼の安全を考えて、隊列後方にアベルを配置。

馬に乗れなかったアベルはビアードにしっかりホールドされながら二人騎乗でついていく。




初めは騎士団に居るといたたまれないと感じていたアベルも、この頃にはだいぶ気を張らずに団の中で過ごせるようになっていた。


アベル入団から一月ひとつきも経たないうちに、その懸命さに団員たちが絆されて親切に接してくれるようになっていたことも大きいだろう。



アベルとしては馴染んできているつもりだったが、団員達はそうでもなかった。


彼は明らかにひ弱で浮いていたのだ。


筋骨隆々の団員の中、しかもその中でも巨漢のビアードの腕の内側にいるアベルは、明らかに場違いであった。


十三歳と言うのはとても若い。しかし、国中を探せば騎士団の中にその年頃の者がいないわけではなかった。だが、騎士団に所属するような若者はたいてい逞しく、若年でも華奢にはみえなかった。


アベルは、若いだけでなく、貧弱なのだった。


そんな貧弱な少年を連れて騎士団は目的地まで歩を進めていく。途中市民や他の騎士団とすれ違うこともある。そのような時、その者たちの視線がとても痛い。


まるで人攫いでもしてきたかのように見られるのだ。すれ違う相手が騎士団の場合、アベルが来ているのが団長服だと気がつくが、それはそれで疚しい事情ありありな集団だと見られる。


馬好きのアベルは馬に乗れることが楽しいのか、にこにこ顔で遠征について来るのだが、それを見守る団員達はとてもいたたまれなかった。







現場に着くと、アベルは隊の後方に馬を繋ぎ、その世話をしながら隊員たちがダンジョン攻略するのを見守るのが遠征の常だった。


装備を整えた団員たちは、ダンジョンの前に布陣する。そして怯えることもなく、勇猛果敢にダンジョンに突撃していく。


その雄叫びに毎回圧倒されるアベル。


そして、満身創痍ながらもダンジョンを制圧して出てくる隊員たち。

その様子を見ながら、アベルは疑問を抱いた。そしてある計画を練ったのだった。






「ダンジョンに入らないでダンジョンを攻略する?」


ちょび髭の似合う総隊長が、アベルの持ってきた計画書を見たうえで、確認するようにアベルに尋ねる。


「そう! ダンジョンに入らないで攻略する方法を考えたんです! だって、危ないから。」






一方そのころ、勇者ヴィルヘルムには恋人ができた。

読んでいただき、ありがとうございます。

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