騎士団長代行
よろしくお願いします。
第三話から時間が空いてしまいました。
待っていてくださった方ありがとうございます。
第一話から第三話まで加筆修正を行いました。良ければ覗いてみてください。
騎士団長代行(仮)に就任し、団員たちの白い目にさらされながらも、僕アベルの新しい生活が始まった。
何をしたらいいのか全く分からなかったけれど、とりあえず団員たちがやっていることもできないようなら団長代行(仮)を名乗る資格もないと思い、新人団員さんと同じ内容の訓練と業務から始めることにした。
結論から言うと、僕のこの体は、まったくもって騎士という職業に向いていなかった。そんなのやる前から分かっていたことだけれど。
まず、体力がなさ過ぎた。走り込みなど、訓練所の外壁一周どころか一辺を進んだところで過呼吸になった。
体を鍛えるために食べ物をたくさん食べようと思ったが、肉体労働系の味の濃い重たい料理が口に合わず、元々小食なのに食後のリバースが何度もあったせいでさらにやせてしまった。
それでも意地で満腹まで食べるようにしていたが、そのうち吐しゃ物に血が混ざり始めたので、さすがに心配になって量を減らした。血の原因は口内炎から血が出たのか、のどを痛めたか、胃潰瘍か・・・。
向かないと思っている騎士の仕事だが、やってみたいこともあった。
それは格好よく剣をふるうこと。
騎士団長代行仮に就任してから一週間たってようやく訓練場に出させてもらえた。
年頃の少年なら憧れて当たり前だろう。
そう思って、自分用に用意されていた剣を持ってみた。
ずっしりと重い。
それはそうだろう。柄の外側を除いたすべてが鉄でできた鉄剣だ。持つだけで手首が痛くなる。
何とか正面に構え、まっすぐに上にあげていく。
だんだんプルプルとしてきた。
振り下ろそうとした時、とうとう耐え切れなくなった指から剣が滑り落ち、頭を少しかすめて地面に落ちる。
驚いたけれど、かすり傷だけで大して出血しなかったのでまだよかった。ここでめげないで、がんばろう。そう思って、剣を拾い上げ再び構えようとしたとき、ふと剣が軽くなったような気がした。
(もしかして、『剣を収めるもの』のスキルが発動した・・・!?)
そう思って上を見上げたが、そこには面倒を見てくれている団員ビアードの顔があった。
「あなたがこの剣を持つことは認められません。」
そう言って取り上げられてしまった。
小さなころからおもちゃを取り上げられるのはよくあったから慣れていたけれど、今回はとても残念だった。とても格好のいい剣だったのに。
体力づくりも食事も、剣の訓練も上手くいかなかった。それならば、事務仕事をやろうと、夜は執務室にこもった。
しかし、頭痛持ちの僕は疲れと慣れない環境のストレスも相まって、頻繁に頭痛に見舞われ、執務どころではない日が多かった。
ひと月たったころには、寝不足と食生活の悪化によってさらに華奢に、不健康そうな顔色になってしまった。
「どう思う・・?」
騎士団の団員は、アベルが別室に引っ込んだあと、頻繁に話し合いの場を設けていた。
場所は食堂。夕食後、卓上も片づけられ、明かりも半分落とされた状態で、一つの長机に集まり、強面たちが真剣な表情で話し合う。
「思っていたよりは悪くない」
「真剣に仕事に取り組んでいる」
「まじめだ」
「熱意も感じられる」
それぞれ意見を口にだす。近頃は肯定的な意見が増えてきていた。
「でもな」
「ああ」
「むりだよ」
「今日もトイレで吐いていた」
「そうなのか? 」
「ああ。袖口に血の跡がついていた」
文字通り血反吐を吐きながらも騎士の訓練に取り組む少年に団員たちは同情していた。
そして、適性がないことも、もはやわかっていた。
「一つだけ」
アベルの面倒見役を買ってでていた団員のビアードが、静かに話はじめる。彼は寡黙だが、話す言葉一つ一つに人の意識を集中させる魅力を持っていた。ほかの団員が皆耳を傾ける。
「一つだけ、向いていることがある。」
ビアードはみなを見回す。
「馬だ」
一同は眉をしかめた。乗馬を試したことはあったが、乗る前に落ちた。乗せても落ちた。二人乗りでも落ちた。
「向いていないよ」
「いや、馬の世話だ」
彼が言いたいのは、乗馬ではなく、馬の世話。つまり馬子役。
騎士団長代行(仮)が馬の世話係が一番向いているという辛辣な意見だったが、皆は同意した。それがアベルにとって一番向いているし、彼自身も満足できるだろう。
翌日アベル馬の世話係の件を告げたら、思いのほか喜んでおり、団員達も安心した。
騎士団をまとめるのは団長ではなく各隊の隊長が行えばいい。これで問題はなかった。
自分に向いた役割をもらい、団員達も優しく接してくれるようになってきたので、アベルは少し生活に余裕が出てきた。
最近では夜にラノベの内容を思い起こしてノートに書く習慣ができた。
今頃兄は順調だと思えた勇者生活の一つ目の壁に当たっているころだろう。
それは、編集キャンセル。
アベルはその内容を書き記す。
『スライムや弱小モンスターから中級モンスターへ攻撃対象を変えてきてるはず。
編集ができる場面とできない場面もわかるようになってきたはずなのに、攻撃が上手くいかないことが頻繁に起きてきている。
まるでモンスターがフェイントを使っているかのようだった。
その様子を分析して、あることに気が付く。
「…編集をキャンセルされている。」
ただ単に編集スキルが通じない場合は敵の攻撃は直線となる。
しかし、例えば『右から内向きの攻撃を外向きの攻撃へ』と記憶を編集する。
編集が効かなければ、単純に右から内向きの攻撃が来るだけだ。
編集が効いていれば、右からの攻撃が外向きに外れるので、攻撃が来なくなる。
しかし、編集キャンセルは、右からの攻撃が外向きになりかけてまた内向きに修正されるのだ。
これは大変厄介だった。
このスキルは未来を変えるのではない。相手のちょっとした思考を変えるだけ。
そのため、その編集が妥当ではない場合で相手の思考力が強いと、編集が修正されてしまうのだ。
無敵に思えたスキルの思わぬ欠点に、ウィリアムスは思わずうめいた』
でもこの後義兄さんは何とか挽回する。この点は心配なかった。
頑張っている兄さんに、どうしても伝えなければいけないことがあった。これとは別の点で大問題があったのだ。
冒険者ギルドや騎士団を含めたこの国に対抗するある組織があった。
よくある、悪の組織ってやつだ。
その組織は謎に包まれているけれど、どうやら異民族の組織だということ。
この世界では、モンスターは北の森の中にあるモンスターボックスから出てくるとされていた。
悪の組織は冒険者ギルドや騎士団がモンスターボックスを壊そうとすると度々邪魔をしてきていた。
小説の中ではその組織の中でも特に主人公ヴィルヘルムのライバルと言える存在がいた。それは顔を包帯で巻いた、謎の男。そいつがとてつもなく強くて恰好が良いから、主人公を食って人気ランキング一位を取ったほどだった。
そしてベタな展開だけど、その宿敵は実弟ってこと。義弟じゃない。死んだと思っていたヴィルヘルムの実弟。
そして、物語終盤でその宿敵を殺した後に、いろいろあって実弟だと気が付き、兄さんは発狂する。
自分自身に編集をかけ続け、戦う意味も分からなくなり、最終的に勇者ヴィルヘルムが狂戦士になるエンド。モンスターボックスのそばで延々とモンスターを狩り続けるから、世界的にはハッピーエンド。でも小説を読んだ僕にとっては鬱エンドだった。
それを避けるために、僕は兄さんのもとに行かなきゃいけないんだ。
騎士団長代行(仮)になってから一年。翌日は誕生日。(仮)が取れる日だった。そして馬の世話係で満足していると思って安心していた団員たちに、アベルはある計画書を持って行った。
読んでいただきありがとうございます。