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騎士団長代行(仮)

よろしくお願いします。

アベルの受難はまだ続く。



父が義兄ヴィルヘルムを追い出した後も修羅場が続いていた。今度は義母(ヴィルヘルムの母親)との口論を始めた。

僕がここに居てもどうすることもできないので、そっと、そっと部屋を抜け出した。


突然連れてこられたこの家はどうやら父の本邸らしい。もの凄く豪華という訳ではないが、家の造りはしっかりとしているし、設えられた家具や調度品は高価な品を長く大切に使っているように思えた。


以前聞いた話だと、祖父が有名な騎士で騎士爵を賜っていたそうだ。この家はその祖父が建てた家なのだろう。この国では騎士爵は一代限りの爵位なのだけど、三代続くと永代騎士爵と呼ばれる世襲制の爵位となる。

父も死にものぐるいで騎士爵を手に入れたそうだ。そのため父にとって自分の子供が騎士になることは悲願であった。


しかし、期待していた長男のスキルは騎士に向いているとは思えなかった。長男で当てが外れたので、外で子供を作ってその子に希望を託した。その『外で作った子供』というのが僕、アベル。



父はヴィルヘルムを見放したけれど、僕のことも見ていないと思う。

なぜなら、僕はとてもじゃないけど騎士には向いていない。ヒョロヒョロで筋肉なんかないし、運動センスもからきしだ。

せいぜい得たスキルが『剣を納める者』という、あまり聞いたことはないスキル。『編集』よりかはまだ騎士に関連がありそうだが、なぜか、父はこのスキルに固執して僕が騎士爵を得られることにとても期待しているのだ。



その父の期待のせいで僕はまたしても、いたたまれない状況に置かれてしまった。

父はなぜか僕を騎士団長代行に据えようと言うのだ。


この国では、十三歳になると特例で父親の役職の代行を行えるという制度があった。インターンのようなもので、早めに仕事に就いて実務を覚えてもらおうという趣旨の制度だった。

僕はまだ十二歳のため代行はまだできない。なので、強引に騎士団長代行(仮)という立場を用意したらしい。


僕が思うに、父は仕事を押し付けたかっただけなのだろう。

僕を騎士団本部において、引き継ぎなどもせずにさっさと帰ってしまった。


僕は背の高い筋肉集団が見下ろしてくる中、蛇に睨まれたカエルよりも縮こまって早くこの場から逃げられることを願った。




「で、あんたが今日から騎士団長代行だって? 」

「あの、仮、です。」

「あん?」


ひ~。何この人超怖い。

隻眼で禿頭、顔に斜めの傷、組んだ腕は丸太みたいに太い。


「ひ~。」


あ、だめだ。心の声が口からも出てる。


「それで。あんたに何ができるんだ? 」

「えっと、何ができるのでしょう…。」

尻すぼみに消えていく僕の言葉に、呆れて首を振る騎士団団員たち。


「とりあえず、団長用の部屋があります。そちらの確認をしてきてはいかがでしょうか? 」


優しそうな声がした。期待をして声がした方を向いたが。あ、こっちもだめだ。声も顔も優しそうなんだけど、この人は目が笑っていない。言っていることも丁寧だけど、要約すると『あっちへ行け。』


「…はい。」


指示に従わない理由はないので、僕はすごすごと部屋を退散した。






「…今度のはエライのがきたな。」

「はい。団長は何を考えているのでしょう。」

「まあ団長だろうが代行だろうがただのお飾りだ。総隊長がしっかりしてくれれば問題はない。」


禿頭の男ゴルゾがそう言うと、優しそうな男サーヤが頷く。


騎士団には団長とは別に、各隊ごとに隊長が置かれており、その隊長を束ねているのが総隊長だった。実質的な命令は総隊長が出していた。



滅多に騎士団本部に顔を出さない、名ばかり騎士団長が久しぶりに訪ねてきたかと思ったら、まだ幼さの残る顔をした息子を置いてそのまま帰ってしまったのだ。


まだ名前も聞いていない少年は、焦げ茶の髪の毛に焦げ茶の瞳のどこにでもいそうな少年だった。体格は同い年の子供と比べても華奢な方だろう。顔色は悪くいかにも運動に不向きそうなこの子供は、この武骨な男たちしかいない騎士団の中に居るには場違いだった。


この子供が今度から騎士団長代行を務めるという。


「ヴィルヘルムが可哀想だ。」

「ああ。訓練を頑張っていたし、憎めないやつだったのにな。」


あの子供の義兄に当たるヴィルヘルムも、この騎士団に少し前まで所属していた。騎士団長の息子であることや、スキルに関する噂があったので最初は歓迎されなかったが、人柄で挽回して団員と良い関係を作れていた。


「ヴィルヘルムなら騎士団長になっても支えてやってもいいと思っていた。」

そう言うのは、騎士団のなかでもひときわ大きい男、ビアード。

ビアードの言葉に、団員たちは暗い表情でウンウンと頷いた。






その頃アベルは案内された団長室で、何をするでもなく、座って外を眺めていた。

こんな場所でやることはない。やれることもない。


とりあえず現実逃避しよう。


暇だし、ラノベの内容を振り返ることにする。

確か今頃家を飛び出したヴィルヘルムは、冒険者ギルドに入って討伐クエストをこなし、スキル編集の腕を磨いているはずだ。


そして、こんな続きだったはず。


『編集のスキルは思っていた以上に有能だった。騎士団にいたころから、少しずつ実験的に小動物に試したり、訓練相手にさりげなく試したりしていた。


編集方法はこの時点でもまだ曖昧だった。編集を使用とすると、相手の考えていることがイメージとして何となくヴィルヘルムには見ることができた。そしてそのイメージを彼のイメージで上書きする。すべて画像として捉えるので、扱いが難しかった。


たいていの場合相手は上書きされたイメージの通り動いた。

右のえさに向かっていた子リスは左のえさに向かって進んだ。

右袈裟に木刀を振り下ろすつもりだった訓練相手は左袈裟に切り替えた。


ヴィルヘルムの都合のいいように行動を上書きして、騎士団本来の敵であるモンスターを倒せるよう、実験と実戦を重ねた。いつでも編集スキルの効果が発揮できるわけではなかったので、悪戦苦闘の日々だった。


そして、父親のせいで不運にも騎士団は退団しなければならなくなった。それでもスキルの研鑽は欠かさなかった。


正規の職である騎士団はあきらめなければならなかったが、剣をふるう場所はまだあった。人種や国籍、即歴を問わずなれるもの。それは冒険者。冒険者ギルドに行けばすぐに登録できる。


主な依頼はダンジョンに潜ってのモンスター退治。

冒険者の活動は彼に合っていたようだ。とにかく怒りをどこかにぶつけたかった彼は、次々とモンスター討伐依頼をこなしていった。




ダンジョンにも慣れてしばらくたったころ。

編集が効く場合と効かない場合があることには気がついていたが、徐々にその条件が判ってきた。


ヴィルヘルムはダンジョンにて魔物化したコウモリを切りながら叫ぶ。

「このスキルは、『強い思い』には、効かない…! 」


条件が判ったことはとても重要だった。

―このスキルは強い。

ヴィルヘルムは確信していた。

―このスキルをうまく使えば、冒険者ランクをA級にまで上げるのも、いや、その先に行くのも夢ではない。

…大物になって馬鹿にした奴らを見返してやる。』


アベルは思い返したことを適当なノートに書き記して、ペンを置いた。


「義兄さん頑張ってるかな〜。」


アベルは窓から外を眺めながら、そうつぶやいた。

読んでいただきありがとうございます。


2023/2/13 加筆修正しました。

アベルの容姿を追加

ヴィルヘルムの様子をアベル視点に変更しました。

2023/3/10 加筆修正しました。

ヴィルヘルムのスキルの説明を追記しました。

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