ゴブリン一家
よろしくお願いします。
若いゴブリンのエドは、妻と最近生まれたばかりの子供と一緒に魔界の散策をしていた。あまり強くはない彼は、よく縄張りを奪われてはこうして餌場を求めて散策していた。
ふと、光が漏れ出す岩場を見つける。もしかしたらヒカリゴケかもしれない。幼い息子に与えたい物ナンバーワンだ。そう思い息子と妻と一緒に岩場の隙間を除くと、まるで吸い込まれるかのような突風が吹き始め、一家は穴に落ちた。
そこは見たこともないミドリゴケのようなものが地面にびっしりと生え、木にも生えていた。暗い空からは煌々とヒカリイシの光が差し込む。あのヒカリイシは空に埋まっているようだ。完全な丸ではなく欠けてしまっている。
あたりを警戒しながら、とりあえず餌場とねぐらを探す事にした。出てきた場所には黒いイシがあるだけで、戻れそうになかった。
ゴブリンは主に体力のある父親が赤子を背負う。エドは赤子を背負いながら巣穴を探す。
ゴブリンの巣穴は同じ一族で作り合うのでは無く、寄り合いだった。自分で一室掘ってもいいのだが、作業中は無防備になる。そこで穴掘りのうまい一組が掘ったものに、他のゴブリンがあけた穴に入らせてもらい、そこから自分たち用の別室を作る者の方が多かった。
他人との共同生活で重要なのが相性。荒いゴブリンは荒いゴブリンと。弱いゴブリンは弱いゴブリンと。それぞれなるべく同質な者と同じ穴倉に住まうという性質があった。
そしてその性質を知るために、巣穴の入り口には呼び鈴ならぬ呼びイシがあった。形状は色々だが、なるべく平で大きめなものが置かれている。その呼びイシを叩く強さや叩き方で相手の性格を判断し、仲間に入れてよければ迎えが出てくるが、相応しくない場合は迎えが無い又は大イシで入り口を閉じられる。
外からきて呼び出す側は中にいる者がどのようなタイプか知る必要があるので、巣穴の周りに隠れて出入りするゴブリン達を見定める。
エドも注意深く周囲を観察した。穴の規模はそこから掘り出される土塚の量でだいたい推測できる。弱いエドはなるべく弱気なゴブリンが多い巣穴に入りたい。規模が大きいと稀にオーガなどが潜り込んでいるのを見知っていたので、なるべく小規模がいい。
そして、妻子と共に木の上から周囲を観察していたところ、恐るべき出来事を目にした。なんと、細身なオーガのような者たちが寄ってたかって巣穴に火(煙が出ているので火だろう)を放り込んでいる。
その光景はその後も度々目にした。規模が小さければ食料庫は小さいが安全だと思っていたのに、まるで小規模のものを率先して潰しているかのように見える。
まるで悪魔の所業だ。彼らから離れるようにエドはモンスターボックスよりも北(という概念はないが)を目指す。
このヒカリイシが照らす世界は、時に更に強いヒカリイシとなって光を注ぐ。エドは身が焦げそうな思いをしながら必死に適した巣穴を探し、ようやく見つけた。
その安住の地と思えた場所にも魔の手が伸びてきた。
突然の煙。光に寄せられる習性があることを分かっているのか、入り口の一部からは光が漏れていたが、そこから出ると終わりだということをエドは学習していた。
だからエドは穴を掘る。なるべく深い室から横に掘っていく。徐々に煙で弱っていく妻子を気遣いながら、斜め上を目指して穴を掘る。
思いつきで、掘った土は妻子の後ろに積み上げることにした。なんとなく煙が来なくなった気がする。小さな頭で直感に従った上での行動だった。
もしエド一人ならもっと狭い穴を高速で掘れただろう。しかし、彼はすでに呼吸もか細くなった妻子を引っ張りながら、弱る自身の手足を必死で動かし穴を堀理這い上がる。
真上に掘れば早いだろう。しかし、そのようにしたゴブリンが周りに広がる細身のオーガ(人間)にヤラれているのを見たことがあるエドは、必死でこらえて横に横に掘り進める。
そしてとうとう地上に出たとき。そこは穏やかな場所だった。細身のオーガの声ももう聞こえない。
エドは成し遂げたのだ。一家は生き延びることに成功した。エドは命を削って家族を助けたのだ。
妻子を労り、懸命に看病した後二人とも元気になってくれた。
しかし、もう穴に住まうのは恐ろしくてたまらなかった。安住の地を探すうちに、ミドリゴケ(葉)の生い茂る大木を見つける。
そこは、苛烈な陽射しを遮ってくれ、食料(木の実)も豊富に生っていた。
こうしてエド達一家は、始めて樹上で暮らすゴブリンとなった。
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