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リヒター①

よろしくお願いします。

リヒターは神に愛されたような子供だった。優秀で行動力もあった。何でもできるので、世界はリヒターにとって遊び場だった。


リヒターが死んだと思われたあの日。モンスターの大襲撃も彼にとっては大したことのない出来事だった。






リヒター五歳の頃。一つ年上のヴィルヘルムと共に悪童兄弟の名を与えられた彼は御満悦だった。これでいたずらをしても、ああ、その名の通り行動しただけと言えるから。


『花の色が思っていたのとは違っていた』と嘆いていた隣家のおばさんのためにジョウロにインクを入れてあげたり、近所の小川に勝手にダムを作ったりと、活き活きと悪戯に性を出していた。


兄のヴィルヘルムは何かと命令をしてくるので面倒くさくもあったが、一緒に遊んでいて楽しいので大好きな兄だった。その日もおもちゃの木刀を忘れた為に取りにいけと言われた。面倒臭かったので、これ幸いと他所よそに遊びに行った。


リヒターはこの頃すでに生意気にもミミという彼女がいた。彼女と遊ぼうと思い北区へと向かった。





ちなみにこの領地は人工的に作られていて、空から見ることができれば真四角な形となっていた。北の森から来るモンスターに対する対策拠点として、主たる領地の属地として比較的安全な中間地点に作られていたはずだったが、モンスターの来襲が激しくなり、徐々に前線に近い領地となっていた。


初期は首都に倣って、北区に高給住宅街、中央に行政機関、行政機関の東西に帯状に工業地と商店街、南区に一般市民という配置になっていた。


モンスターの襲撃が増えてきた頃、北から来るモンスターに怯えて、南区に住宅街が集まった。南の壁面に近いところから貧民街、一般市民街、高給住宅街。そして中央には帯状に商店街、工業地。北区には騎士団の寮や家族の住む家、空き家に集まる貧民、そして北方から逃れてきた異民族の居住地があった。





リヒターは北区に住まい、彼の彼女も北区に住んでいた。ヴィルヘルムも含めて、異民族ムバオの子供たちと北区の子供たちは皆遊び仲間だった。


リヒターは言葉を覚えるのも早く、ムバオの言葉も基本的なものは話すことができた。


ヴィルヘルムの命令を無視して北区の自宅ではなく居住地に向かったリヒターは、誰よりも早く異変に気がついた。


(…土の匂い。雨? いや、もっと埃っぽい。)


恥じらいもなく、往来で地べたに耳をつける。


(揺れている。地震じゃない。)


モンスター単体なら、勝手にでかけた時に森で見かけたことがあるが、この規模は一体や二体ではない。ゴブリンだけでもない。


ただ事ではないことに気がついて、まず向かった先は、自宅でも目の前の騎士団でもなく、その先の居住地。


恐らく間を開けずに物見櫓の見張りの兵が異変に気がつくだろう。そして警鐘を鳴らすはず。


それよりもまずいのは、ムバオの民。彼らは言葉がわからないものがまだ多い。何が起きているのか、どこへ逃げればいいのか伝わるのが遅れる。そして逃げ遅れる。


だからリヒターは自分で伝えに行くことにした。恋人も大切だが、ご近所さんとして親しくしていた人達だ。


駆けつけた先で民のリーダーを呼び出してもらう。彼なら言葉もある程度わかるし、リヒターの拙いムバオの言葉も皆に伝えてくれるはず。五歳のリヒターの言葉ではあるが、日頃のこの悪童の利発さを皆知っていたので、素直に言うことを聞いた。



リーダーの行動は早かった。かねてから対応が悪化していたこの領地に見切りをつけて、祖国ムバオに避難することに決め、必要最低限の荷物で一族を連れて逃げていった。


悲しいことに、領地の方針は領主が変わるごとに変わるもので、待遇を保証されていたムバオの民は先の領主交代によって疎んじられるようになっていた。


恐らく避難所には入れてもらえないだろう。最悪、この北の森から来たモンスターについて、北の森から来た彼らに何かしら因縁をつけてくる可能性も高かった。


新天地への進出を諦め、故郷に帰っていく彼らを見送り、リヒターは託された用事を済ませに行った。用事とは、ニニおばあちゃんにことの顛末を告げること。ニニおばあちゃんは中央区の北側で占い師として露天を開いていた。


ニニおばあちゃんは高齢のため、長い道のりを行くことは出来なかった。そこでリーダーは彼女をこの地に置いていくことに決めた。別に非道なわけではなかった。彼女はもとよりこの国の人間で、遠い昔ムバオに嫁いだので、容姿もこの国のもの。言葉も両方話せた。


そもそも彼女が高齢ながらもこの地へやって来たのは、故郷

を懐かしむ思いがまだ残っていたことと、年若いリーダーを含めたムバオの民との仲介を果たすためだった。そのため、この地に残るのに不都合はなく、リーダーの意図を汲んでこの地に残ることを納得したのだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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