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父親③

よろしくお願いします。

息子を見放して、クズ人間に成り下がったエドガーはわかりやすく酒に溺れ堕ちてゆく。勝手に絶望していた彼はこの後、本当の絶望を知る。






幼いリヒターが死んだと聞かされたあの日。

エドガーがいた領地付き騎士団の本部には早い内に知らせが入っていたが、酒に酔って起床が遅れた彼のせいで出動が遅れた。既に準備が整い居並ぶ騎士団の前に立ち、領地の救助命令を出す。


辿り着いた先では複数の家屋が倒壊していた。その目の前にヴィルヘルムが立っていたのでまず無事を知りほっとする。ヴィルヘルムがここに居るということは、いつも一緒にいるリヒターも無事と言うことだろう。


とりあえず、『リヒターは? 』と尋ねるとはヴィルヘルムは首を振った。知らないと言うことだろう。妙なスキルを授かったことが判明して以降、長男の頼りなさが目につくようになった。こんな時にも使えない、とつい舌打ちしてしまった。


エドガー本人は気がついていなかったが、ヴィルヘルムに辛くあたっている自分の行為を正当化する為に、『ヴィルヘルムは駄目な子、呆れられて仕方がない子』として扱うことが増えていた。


エドガーは騒乱の街を見回す。騎士団長と言えど、勝手に行動していいわけではない。しかも今は特に混乱している街をなんとかしなければいけないのだが、家が気になりつい来てしまった。勝手に抜け出しているので、あまり長居はできない。すぐに馬を引き返した。


街の被害は酷い状況で、騎士団の仕事は夜通し行われてもまだ終わらなかった。一旦本部に帰って報告書をまとめていたとき、慌ててやってきた部下に、息子の死を聞かされた。


思いがけない報告に耳を疑う。妻アリサは、自宅がある北区は稀にモンスターの被害を受けていることから、危ないので早く引っ越したいと常々口にしていた。その為、彼女が仕事に出る時も子供たち二人彼女の職場のある南区まで連れていき、中央広場で遊ばせていた。


モンスターの襲撃があった時間帯も、子供たちは中央広場に居ると信じて疑わなかった。しかし、一度リヒターはおもちゃを取りに家に帰ったのだという。


潰れた自宅はエドガーも目にしていた。あの有様で中にいたのであれば、助かりようがないだろう。


目の前が真っ白になった。次に妻アリサの嘆き悲しむ姿が脳裏に浮かんだ。なんと言って慰めよう。騎士団団長ともあろう自分が息子を助けることが出来なかった。なんと言って謝ろう。


そんなことを考えながら家路につき、家の戸を開ける前にアリサが飛び出してきた。そして謝罪の言葉をエドガーが口にする前に罵られた。


『何故リヒターを助けてくれなかったのか。』『だから南区へ引越そうと何度も言った』などと、アリサは繰り返しエドガーを責め立てた。反論のしようもないものもあったが、エドガーにもどうしようもないことでも責められた。


『目の前でリヒターを失ったヴィルヘルムをどうして一人にさせた』と言われたときは、流石に言葉を失った。あの時はリヒターは別の場所に居るのだと思いこんでいた。あの状況でヴィルヘルムは何を思っていたのか。アリサに言われてようやく思い至ったが、時はすでに失していた。




謝るタイミングを失い、子供を失ったショックから半狂乱でエドガーを責め続けるアリサに、いつしか相手をする気力を失っていった。


深い悲しみは後悔へと代わり、数多の言い訳を生んだ。


酒に溺れていたエドガーは、酒場に来ていた女性、後のアベルの母親ティアラと出会う。アベルの母親は酒場で働いているわけではなく、飲みに来ている者に奢ってもらうために酒場に入り浸っているような人間だった。


彼女は都合の良い言葉をくれた。自己肯定感が地に落ちたエドガーは、今度は彼女の甘い言葉に溺れた。


少し落ち着いてからも、ヴィルヘルムを守るために鍛えたいエドガーと、守るために争いごとから遠ざけたいアリサとは意見が食い違った。共にいることが苦痛となった。


ティアラとの楽な日々に傾倒し、いつしか子供ができた。騎士爵を持っているとは言え、エドガーは第二婦人を囲えるような身分でもない。不貞と言われたくなかったので、ティアラの連れ子と言うことにし、後に養子に取る段取りにした。



ティアラの息子アベルは、スキルチェックで剣に関わるものだということが分かった。俄に期待が高まる。


エドガーはずっと父トーラスの期待に応えることができず、いっそのこと見限ってくれたら楽になれるのにと常々思っていた。


だから、これを期にヴィルヘルムを見限った。





性善説。性悪説。そのどちらが正しいのかはわからない。しかし、エドガーは後天的にその性根を腐らせていった。


だが、どんな辛い人生を送ってこようとも、子供たちには関係のないことだった。身勝手な言い分のせいで子供の人生は拗れたものになってしまった。


それ故に、エドガーは子供たちにクソオヤジと呼ばれるのに相応しい人物なのだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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