父親②
よろしくお願いします。
エドガーは普通の人だった。何事にも真面目に取り組んだが、成績はそれなり。武の道に於いても血のにじむような努力をしたが、従兄弟エドワードはそれを軽々と超えていく。
エドガーは父トーラスに褒められたい一心で訓練に励んではいたが本来は格闘に向いていない性格をしていた。おとなしく真面目でむしろ文官向きだった。
意外なことに、妻アリサ(ヴィルヘルムとリヒターの母親)とは恋愛結婚だった。お互い真面目だというところで気が合ったのだ。
また、アリサも努力の人で尚かつ公平な人だったので、エドガーの努力を認めてくれた。そのことが、彼にとって何よりも嬉しい出来事だった。
モンスターが身近にいることで力あるものが上に立つことが多いこの国。女性が活躍するのは難しかったのだが、ストイックに仕事に打ち込み、仕事を勝ち取っていった人だった。そんな性格はどこかトーラスに似ており、父に似た人から認められたことで、エドガーは人生で初めて充足感を得ることができた。
アリサと結婚した当初はとても穏やかな日々が続いていた。お互い音楽が好きで、芸術鑑賞が好きで、エドガーは自分が何をしていたら幸せなのかを知ることができた。
息子が生まれたときはそれはとても嬉しかった。息子ヴィルヘルムはエドガーによく似ていた。そんな自分似のヴィルヘルムをトーラスはとてもよく可愛がった。傍目にはそうは見えなかったが、表情を変えずとも目で追い、話題にもよく出していた。
顔立ちは整っているのに『陰気だ』とあまり人に好かれることの無いエドガー。顔立ちは普通なのに人から好かれるエドワード。しかし、息子のヴィルヘルムはエドガー似だがとても人懐こく、人に好かれていた。それも嬉しかった。
エドガーはとてもヴィルヘルムに期待をした。武道の才能も人より抜き出ていたわけではないが、少なくともエドガーよりは優秀だった。
長男と一つ違いで次男リヒターも生まれた。リヒターは大きくなるにつれ、その大物ぶりを発揮させていた。何をやらせても優秀。人の思いつかない発想で周りを常に驚かせる。
小憎たらしい態度をよくとったが、可愛い息子には変わりなかった。
性格は従兄弟のエドワード似、見た目は父トーラス似のリヒターが自分似のヴィルヘルムを兄として慕っているのも、どこかエドガーの溜飲を下げるものがあった。
そんな幸せな生活に影がさしたのは、息子ヴィルヘルムのスキルチェックの時だった。
息子ヴィルヘルムが編集のスキルを持っていると判明した時
彼は最初は『どんなスキルなのだろう』と単純に疑問だった。次に『便利そうなスキルだな』と思った。
彼の本質は文官向きだったので、息子もきっと文官でも幸せになれるだろうとおもった。不安そうにしている息子を見た時、この後何と声をかけようかと迷った。
その思考を止めたのは、周りの反応を見た時だった。
周りは聞き慣れないスキルを嘲笑していた。その光景は今まで彼の努力を嘲笑してきた者たちと被った。
彼にはそれが我慢できなかった。
そして選んだ。
息子を庇い、自分も嘲笑されるか。
それとも、自分も息子を嘲笑する側に回るか。
彼は負けたのだ。笑われることの辛さに。
そして守るべき息子を切り捨てた。
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