父親①
よろしくお願いします。
ようやく関係が修復された三兄弟。しかしなぜヴィルヘルム達はここまで拗れてしまったのか。それは明らかに父親のエドガーが一番の原因であったが、更に遡ること祖父の代に、父親がこじれることになった原因があった。
話はアベル達の祖父の代に遡る。祖父トーラスは武の人間だった。有名な武人として名を馳せていた。才能に満ち溢れていたわけではないが、ストイックな人だったたのでほぼ努力だけで国軍の軍隊長まで上り詰めていた。
彼には兄がいた。そしてその兄にも子供がおり、エドワードと言った。つまりエドガーの従兄弟。エドガーの一つ年上だった。
エドワードは正に才能に満ち溢れていた子どもだった。人柄もよく、明るく社交性があり、皆に好かれていた。そして武の才能が抜きん出ている優秀な人物だった。
対してアベル達の父親エドガーは武の才能が無かった。そして、あまり好きでもなかった。ただ、父親トーラスの期待に応えたいが為に、好きでもない訓練をひたすらこなしていた。
トーラスは贔屓をしない人間だった。ただただその武の能力だけを見ていた。そのため、エドワードの能力を評価した。エドガーの能力も正確に把握し妥当な対応をした。上に立つものとしては正しいのだろうが、父親としては正しくなかった。
やがて騎士団に所属したエドガーは、父トーラスに認めてもらいたい一心で討伐に励んだが、凡人の彼を評価してくれる事はなかった。しかし、彼の努力が実を結び、ようやくその実績によって騎士爵を賜ることになった。
その知らせはすでに父親にも届いているだろうけれど、エドガーは自分の口でも直接伝えたかった。流石に爵位叙勲だ。きっと初めて父に褒めて貰えるだろう。
むずむずした気持ちをこらえながら、足早に父トーラスの執務室へと向かう。大切な話がしたいと伝えて時間も確保してもらっていた。
そして、執務室の扉を開けた時、聞き慣れた声が…。今は特別聞きたくない声だった。しかし、もしかしたらエドガーの叙勲の話を聞いて彼も駆けつけてくれたのかもしれない。僅かに期待を込めながら、嫌な予感を胸の底に押し込めて、戸を押し開ける。
そこにいたのは、やはり予期したとおり、従兄弟のエドワード。エドワードは明るい茶系統の髪色で高身長、美男子では無いけれども爽やかな笑顔が人に好かれる容姿をしていた。
目の前に立つ父トーラスは細身だが眼光鋭く、エドガーと同じ暗い金髪を短く刈り込み、口髭をきれいに整えていた。隙のない人物と評されている。
エドワードは興奮気味に父トーラスにむかって話していたらしいが、エドガーに気づいてこちらを振り向いて嬉しそうに話し始める。彼はエドガーのことを特別気に入っているようで、会うたびにとても嬉しそうにするのだ。
「聞いたか、エドガー! 俺王直属の護衛軍に任命された! 同期では筆頭として入れるんだ。」
何というタイミング。何という、上位互換。エドガーの叙勲など霞む報告。これが翌日なら、いやあと一刻ほど後ならまだ良かっただろう。
「エドガー。話とは何だ?」
「いや…また後でお話します。」
せめて、落ち着いてから仕切り直して話したかった。しかし、合理的な父はそれを許さない。
「今話しなさい。」
「騎士爵を、叙勲することになりました。」
「ああ。聞いている。おめでとう。」
「エドガー! 凄いじゃないか。頑張っていたもんな。今晩はお祝いだな。俺なんかが邪魔してちゃ悪いな。すぐに帰るわ! 」
怒涛の勢いでお祝いの言葉をくれ、今度ご馳走をすると言い残してさっさと気を使って帰っていってしまった。
父は祝の言葉をくれた。エドワードも気を使ってすぐに帰ってくれた。誰が悪いわけではない。しかし、エドガーがこれまでの人生をかけて目指していた瞬間は、思い描いていた形で実現することはなかった。
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