表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/24

【本編完結】悪童三兄弟

よろしくお願いします。

モンスターボックスの謎を一つ解明したとしてその実力を買われ、モンスターボックス修繕の任務を押し付けられたアベル達三人は、黒い箱の前で途方に暮れていた。


場所は『北の森』と呼ばれる、深い森の中。しかし、意外なことにモンスターボックスがある場所は開けていて、陽が当たっており長閑ですらあった。


モンスターは闇に乗じて出てくると言われ、日中なら近づくことができるので、あっさりとモンスターボックスあらためブラックボックスの前に立つことができたのだ。念の為騎士団を幾つか率いてきて、適当に散開して待機させていた。


魔教団あらため聖教団にはリヒターがムバオの言葉で説得してくれたようで、アベル達のやろうとしていることに干渉しないでくれるとのことだった。




「ヴィル兄さん。兄さんのスキルって、編集なんでしょ?それで何とならないの? 」


長閑な森のなか、忽然と現れた黒い物体を前に三兄弟は同じように腕組みをして立っていた。思っていたよりもこの物体は大きく、高さは人三人分、横も奥行きも同じくらいあった。そして、所々傷ついている。


心なしか妙な音も聞こえる気がする。


アベルの提案にヴィルヘルムは頷き、試しに手をかざしてみる。が、うまくいかない。


「物を直せたことはあるんだけどな。出来ない時もある。」


「う〜ん。何か法則があるのかな。」


ヴィルヘルムの話を聞いてアベルが色々と考えてみる。どうやらヴィルヘルムは感覚派なようで、スキルの特性については戦いの中で見極めていったそうだ。


(脳筋かな…?)


アベルはちょっとそう思いながら、ヴィルヘルムのスキルで色々と実験してみた。


その間あまり言葉がわからないリヒターは、周りに時たま残っているゴブリン狩りをしたり、一人で剣の練習をしたりと、マイペースに、楽しそうにしている。


(こっちも脳筋かな…?)


しばらくヴィルヘルムに聞き取り調査をし、実験を繰り返すうちにいくつかわかったことがあった。


それは、よく知っている物なら元通りに直すことが出来るという単純なこと。それはヴィルヘルム自身の記憶でもいいし、他人の記憶でも大丈夫だった。


人の怪我も擦り傷程度なら治すことができた。しかし、過去の傷や、深い傷は治すことが出来なかった。(面白がってリヒターがわざと深い怪我をして治してもらったが、ほとんど治らなかった。)複雑な構造のものは無理なのだろう。


「つまり、復元リカバリーと言うことだね。バックアップデータが必要なんだ。」


アベルはそうヴィルヘルムに説明するが、いまいちピンときていないようで、『はぁ』と適当に返事をされた。


「ブラックボックスのことをよく知る人が必要だ。その人がいれば、直せるかもしれない。構造が簡単だといいんだけど…。」


ヴィルヘルムの反応をあまり気にせず、アベルがそう提案する。ひとまず軍にも該当する人物がいないか捜索してもらい、アベル達はリヒターに聞き取りするために一旦再び街へ帰った。


初めてこの地に来たときは、ダンジョンを潰しつつ数ヶ月かけてやってきたが、馬を駆ってしまえば一日で帰ることができた。






ニニおばあちゃんの元へまた集まり、リヒターに聞き取りをする。おばあちゃんを森につれていけたら良かったのだが、高齢なので仕方がない。リヒターに話を聞く用事ができる度にこうして集まっていた。


こちらに住むようになったリヒターに、早く言葉を覚えてほしいと伝えると、逆にリヒターがアベルとヴィルヘルムにムバオ語を教え始めた。『この方がきっと早い』と。


リヒターはだいぶ()()()()しているなとアベルは最近気がついた。


ちなみに、リヒターが母親に会いに行った時は泣いて喜ばれたあと、何ですぐに会いに来ないのだと怒られたという。リヒター曰く、『帰りが遅くなったから怒られると思った』だそうだ。


父親には、アベルの用事で騎士団に寄ったときに会っていた。父親を見つけたリヒター、指さしして『クソオヤジ』と何故か笑ってた。意外にも父親はリヒターを見るなり泣き崩れていた。



おばあちゃんの家にて。

「ブラックボックスのことをよく知る人は居ないかな? そもそも、どうやって出来たものなの? 誰かが作ったものなの?」


矢継ぎ早にアベルがリヒターに質問をする。


リヒターは年の離れた弟が可愛いようで、一生懸命話すアベルをニコニコと眺めていた。が、その返答は素っ気なかった。


「『よく知る人は知らない。大昔に通りがかりの魔女が作ったと言われるから、作った人はきっともう死んでる』」


通訳しているおばあちゃんも、頷いていた。


「『でも、よく知る()なら知ってる。』」

がっかりしているアベルを堪能してから、わざと間をおいて意外な情報を出してきた。


「物?」


「『そう。黒い聖剣。あれはブラックボックスに刺さっていた。こう、下側から。』」


なんと、地表に出ているブラックボックスの真下が『古のダンジョン』と呼ばれる、ヴィルヘルムが聖剣を引き抜いた場所なのだと言う。聖剣は上に刺さっているものだと思っていたけれど、下から出ていたらしい。


「…知らなかった」

「『え、知らなかったの? 普通気がつくでしょ』」


驚くヴィルヘルムをリヒターがわざとおどけて挑発するものだから、ヴィルヘルムが怒る。


「おう、リヒター。表出ろや」

「オモテデロヤ」


こうして度々二人が喧嘩するものだから、なかなか話が進まないが、リヒターが言ったことは重要な情報だった。


「黒の聖剣は僕の中に未だ納まってる。つまり、ブラックボックスをよく知る者って、僕?」






リヒターとアベルの予想通り黒の聖剣にはブラックボックスの記憶があった。それはアベルに共有されていた。そして、その記憶を読み取りヴィルヘルムがブラックボックスの修復を行う。


幸い、傷を直すことができそうだが、傷が深いこと、多数あることでその進みはゆっくりだった。アベルの傍らでヴィルヘルムが修復をし、リヒター含め騎士団が周囲にたまに湧くモンスターを狩ると言う流れとなった。


やがてブラックボックスの傷も減ったことで、モンスターの出現も減ってくると、軍部は予算削減ということでなんと他の領地から派遣される騎士団を引き上げていってしまった。


世知辛い対応に怒っていたヴィルヘルムだが、アベルはあまり気にせず、対策を立てた。


なんと、ブラックボックス周辺を、修復作業見学含めて観光地化し、そこから収益化をはかって、ついでに観光客を護衛する騎士団を引っ張ってきた。


予想外の行動をするアベルを含めて、この三兄弟が悪童三兄弟と言われていることを本人たちは知らない。






もはやモンスターが湧く土地とは思えないほど長閑な場所で、兄弟三人は力を合わせて作業していた。


リヒターは家族を呼び寄せて夫婦で狩りを楽しんでいた。

ヴィルヘルムは我慢できずに駆けつけた恋人を見つけるなり、抱きしめていた。


家族の幸せそうな姿を見てアベルはふと思う。


今までずっとたまれない気持ちでいることが多かったアベル。でも、ここでは自分を必要としてくれる人がいる。自分を認めてくれる人がいる。


(ここに居ていいんだ…。)


そう思うことができた。




しかし、もう一つ大切なことに気がつく。

恋人といるヴィルヘルム。奥さんといるリヒター…。


「僕だけ独り者! やっぱりバッドエンドじゃん! 」


そう叫ぶアベルを周りは笑いながら見守っていた。

読んでいただき、ありがとうございます。


最後詰め込みすぎてしまいましたが、本編は完結となります。


あと数話過去の話を投稿します。よろしければお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ