モンスターボックス
よろしくお願いします。
※サブタイトルを変更しました。
「さて、こんな所で話していないで、私の家に来るといい。」
じゃれ合う三人をよそに、おばあちゃんは店じまいをして、敷物を畳み家へと案内してくれた。
こじんまりとした家に着くと、これまたこじんまりとした四人がけのテーブルに案内され、おばあちゃんの淹れてくれたお茶を飲みながら話を始めた。
まず、何故リヒターが無事だったか。その理由をヴィルヘルムが尋ねる。思った通り、おばあちゃんとリヒターの話す言葉は同じで、おばあちゃんはこの国の言葉も異国の言葉も両方使えたので、リヒターとの通訳をしてもらうことができた。
リヒターが言うには、あのモンスターの襲撃があった日、この国に滞在していた異国の民が国外に逃げ延びる時、一緒に助けてもらって生きのびたそうだ。
元々モンスターへの考え方がこの国とは異なっていた異国の民は、その襲撃以降迫害が激しくなり、この国に戻れなくなったそうだ。幼いリヒターも一人で戻ることはできず、結局その人たちに育ててもらったと言う。彼らの国はムバオと言う名だそうだ。
その異国の民の中にニニおばあちゃんの家族も居たようで、生きていると信じていたが、その後の様子をリヒターから聞いて、おばあちゃんは涙していた。
「悪かったな。」
ヴィルヘルムが目線をそらしながら言う。
「ニニ?」
リヒターが聞き返す。
ニニと言うのは彼らの言葉で『何?』を意味するらしく、おばあちゃんがよく使うので、皆からニニおばあちゃんと呼ばれていた。と言うことは、リヒターはニニお兄ちゃんか。そう考えながらアベルは兄二人の会話を眺めていた。
「あの時、おもちゃを取りに行けって言っただろ? 俺がそんなこと言ってなかったら、お前も大変な目に合わずに済んだ。」
おばあちゃんがリヒターに伝える。
後悔しているのか、言いづらそうにしながらも、今度はリヒターの目を見てそう言うヴィルヘルム。
それを見てリヒターはニヤリと笑って何事か言った。
「『おもちゃを取りに行けっと言う命令は無視したよ。』とこの子は言っているよ。」
ヴィルヘルムは弟が生意気だということを思い出した。兄の言うことを聞かず、これ幸いと他所に遊びに行っていたそうだ。少しイラッとしたが、弟が機転が効くことも思い出し、そのおかげで生き延びたことに改めて感謝した。そして弟の肩を抱き寄せ、頭に拳骨をグリグリするだけで許してやった。
リヒターは痛がりながらも笑っていた。
「ところで。もう一つ聞かなければいけない大切なことがある。」
ヴィルヘルムが少し態度を改めて話を切り出す。
「何でお前は魔教団に入っているんだ? そして、何で魔教団はモンスターボックスを破壊しようとする俺達のことを阻止するんだ? 」
弟だとわかった今でこそ、ここまで打ち解けていたが、それまでは明らかに対立している組織にいた二人、いやアベルも含めて三人だった。
アベルもそこが気になっていた。魔教団の活動理由は何なのか。
それについておばあちゃんがリヒターに伝えて、リヒターがおばあちゃんに伝える。おばあちゃんも知らない話だったようで、驚きながらもその話を聞いていた。
「この子が言うには、むしろ何故この国はブラックボックス、ああ、私の故郷ではモンスターボックスをブラックボックスと呼んでいたね、その箱を壊そうとするのか、逆に聞きたいと言うよ。」
そう話し始めた。
おばあちゃんの話には昔話を懐かしむ言葉が度々入るので長くなっていたが、要約するとこうだった。
モンスターボックスは、何と蓋なのだという。アベル達の国ではモンスターボックスからモンスターが出てきていると思っていたので、これを破壊すればモンスターが出なくなると考えられていた。
しかし、ニニおばあちゃんの故郷ムバオでは、モンスターが出てくる穴が北の森に開き、それを塞ぐためのものがブラックボックスなのだと言う。そしてそれが劣化して亀裂が入ったことで、モンスターが漏れ出したのだそうだ。
「それが本当だとしたら、俺達がしていたことは逆効果ではないか。」
そう言うと、リヒターは大いに頷きながら『自分の母国は気が狂ってると思ったよ。それに俺は魔教団じゃなくて、聖教団だと思ってるよ。』と、返した。
リヒターが言うには、この話はムバオでは小さな子どもでも知っていることだという。村々の翁が子どもに語って聞かせるらしい。
「何で俺達には伝わっていないんだ? 」そう言うヴィルヘルムに、ニニおばあちゃんが笑って言う。
「この国にも伝わっているではないか。悪いものには蓋をしろと言う童話が。」
そう言われて思い出す。確かに絵本で読んだことがある。
つまり、童話や言い伝えを大切にしていた国と蔑ろにした国との違いがこの状況を生んだということか。
この話は兄弟三人の中で押し留めておいていい内容では無かった。今にも国軍はモンスターボックス改ブラックボックスを壊そうとしている。冒険者ギルドも近いところまですでに到達している。
時間は一刻を争うので、挨拶もそこそこにニニおばあちゃんの家を後にし、三人は騎士団へ向かった。そこで話をまとめて、領主の元に持っていく。そして領主は国軍の上層部に話を持っていった。
意外にも上層部は柔軟で、モンスターボックス破壊を止める必要があると言う話をしたら、検討の余地ありとすぐさま現地調査と文献調査に入ってくれた。
ヴィルヘルムやアベルとしては、リヒターの話が嘘だとは思えなかったが、正確かもわからないので、調査してくれることがありがたかった。
そして、調査の結果、モンスターボックスの破損具合とモンスター出現率は正比例していることがわかった。
しかし、直し方がわからなかった。
読んでいただき、ありがとうございます。
リヒター達が話しているムバオの言葉のモデルはスワヒリ語です。
可愛らしい言葉で好きです。齧った程度なので、誤用などあるかもしれませんが。
ムバオ=森