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帰郷

よろしくお願いします。

小説でのバッドエンドを何とか避けることができた。これで小説上はハッピーエンドだ。


そして、アベルもここから先の話は知らなかった。そもそも小説には無かったこんな場所で三人が会っている時点でこの先の展開は全く予想がつかないが、小説だと色々と謎解きの展開が残っていたはずだ。


何故死んだはずのリヒターが生きていたのか。そして、何故魔教団に入っていたのか。


小説ではヴィルヘルムが発狂してしまい、そこら辺から読む気をなくしたので、結末や伏線回収などまでは知らなかったのだ。




リヒターの通訳をニニおばあちゃんに頼むため、三人はとりあえず帰郷することにした。


騎士団にとっても目の敵である魔教団、その中でも特に活躍していたリヒターをそのまま連れて行くわけには行かなかったので、一旦ヴィルヘルムが変装用の着替えを取りに拠点に戻った。


その間残されたリヒターとアベル二人は、言葉が通じるわけでもなく、やることもなく妙な空気が流れつつヴィルヘルムの帰りを待っていた。



ヴィルヘルムとリヒターはアベルと共に一旦騎士団に立ち寄る。団員にアベルが二人を紹介するがヴィルヘルムは顔馴染みなので説明は不要だった。


「ヴィルヘルム、元気でやっていたか? 」


禿頭ゴルゾ初め団員が次々と挨拶をした。リヒターのことは説明が面倒なので、冒険者仲間と説明した。


丁度規模の大きめなダンジョンの攻略作戦も終わったところだったので、騎士団は一旦領地に戻ることになった。騎士団の気遣いで、三人は一緒の馬車に乗って帰路につくこととなった。


馬車は最初のうちは沈黙が流れていたが、思い切ってアベルが口を開く。


「ヴィル義兄にいさ…、ヴィルヘルムさんは」

「別に『ヴィル義兄さん』でいい。」


窓の外を眺めていたヴィルヘルムが遮る。


アベルは頭の中ではヴィルヘルムのことを義兄さんと呼んでいたので、ついそう呼んでしまった。しかし、まだ自分のことを認めてもらっていないと思い言い直したら、意外なことに義兄さん呼びをすんなり許してくれた。


ヴィルヘルムとしては、初めて見たときこそ腹立たしい存在だったアベルだが、段々怒りも和らいできていた。そして、先程の騒動の時。衝撃で上手く口が回らなかっただけだろうが、アベルが()()()義兄さんと呼んだ。その呼び方は、幼いリヒターが上手くヴィルと言えずに呼んでいた呼び方だった。


それを聞いたとき、苛立ちはきれいに霧散した。


(…こいつも、俺の弟なんだな。)


素直にそう思えた。


「あのクソ親父のことだ。頑なに連れ子だとか言ってたけど、どう考えても血がつながってるだろ。母さんから不貞と言われるのが嫌だっただけだ。あのクソ親父。」


「クソオヤジ」


クソ親父と連呼するヴィルヘルムに乗じて、リヒターも笑いながらクソオヤジと懐かしそうに連呼する。


「お前は俺の弟だ。」

「オトウトダ」


アベルとは腹違いの兄弟である可能性が高い。しかし、たとえそうでなくとも、素直なアベルは義弟として可愛がれるだろう。生意気な弟リヒターは覚えている言葉を片言で話しては何やら楽しそうにしている。


言葉を思い出したらどうせ憎たらしいことしか言わないだろうと思いながらも、懐かしいくもあり楽しみでもあった。


初めは気まずかった馬車の中も、父親の悪口で盛り上がってあっという間に街についていた。






初めての兄弟三人揃っての帰郷。アベルにとっては数ヶ月ぶり。ヴィルヘルムにとっては一年以上、リヒターに至っては十数年ぶりだった。


三人はそれぞれ、騎士団や冒険者ギルドでの諸々の手続きを終わらせて、街の中央にある行政機関の角っこ、『ニニおばあちゃんの占い屋さん』で集合することにした。


ニニおばあちゃんは露店で占いをしていた。敷物を敷いて、箱を置いて、よくお茶を啜っていた。アベルが出立する少し前にも見かけたので、今でも同じ場所にいるだろう。



アベルが騎士団での、すぐに出さなければいけない報告書などの事務処理を終わらせてやってきたときには、すでにヴィルヘルムとリヒターはおばあちゃんの所に来ており、楽しそうに話をしていた。


帰りの馬車では気が付かなかったが、並んで立っていると、兄二人はよく似ていた。髪色も髪型も違っていたが、立ち方や仕草の癖が一緒だった。リヒターの方が細身で、顔立ちも鋭い目つきが特徴的だったが、並んでいるとなるほど兄弟だ、と思えた。


ヴィルヘルムはアベルも弟だと言ってくれたけれど、華奢な自分の体を見て、急にいたたまれなくなった。でも、ここまで来たのだから、うだうだしていてはいけないと、少し勇気を持って二人のもとに駆け寄った。


「こいつも弟。」


ヴィルヘルムがアベルの頭に手を乗っけて、敷物の上に座っているニニおばあちゃんに紹介した。リヒターのことも先程まで紹介していたのだろう。


「わかっているよ。お前たち三人は目がよく似ておるからの。」


リヒターにもニニおばあちゃんが異国の言葉で説明していた。


三人もとも意外な言葉にお互い目を見合わせる。瞳を見つめて、『あ、色が一緒だ!』とはしゃぐアベルを兄二人は笑って見ていた。

読んでいただき、ありがとうございます。

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