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『プロローグ』

よろしくお願いします。

「…と言う訳で。今日からこの子がこの家の正式な跡継ぎだ。私の期待に応えられなかった出来損ないのお前は出ていきなさい。明日からは自分の力だけで生きていくんだな。」



唐突に父親からそう言われた青年ヴィルヘルムは、怒りに打ち震えた。様々な思いが去来し、噛み締めた唇からは血が滲み、握りしめた拳の内では爪が食い込んでいた。


ヴィルヘルムはなかなかに顔立ちの整った青年だった。

髪の色は暗めの金色。瞳も同じ色で、角度によって琥珀のように輝く。

しかし、いつもは若者らしく希望の光を湛えているその瞳も、今は怒りで鈍く光る。


言葉は出なかった。しかし、父親を睨みつける目は雄弁に彼の思いを語っていた。

父親は苛立たしいほどにヴィルヘルムと似ていた。


次いで、ヴィルヘルムは父親の隣に目を移す。そこには女性が、豊満な胸元を父親の腕に押し付けて絡みつくように立っていた。この空気の張り詰めた空間で、なぜか場違いな笑顔を浮かべている。


更に隣に目を移す。そこには父親と女性の半歩後ろに少年が立っていた。ヒョロヒョロと華奢で、不健康そうな青白い顔をしていた。

この少年が父親の隠し子。何故か父親は女性の連れ子だと言いはるので、便宜上はヴィルヘルムの義弟。そして、今日からこの家の正式な跡継ぎ。

ヴィルヘルムはこの少年から目を離さずに、ゆっくりと、絞り出すように言葉を紡ぐ。


「家を継げるのは、この、義弟…?」






そう言われた瞬間、ヴィルヘルムの義弟アベルは思い出した。


(あ、この光景、ラノベで読んだ。)


確かタイトルは『冷遇された勇者の成り上がり!義弟が正式な跡継ぎだと家を追い出されたけど、ハズレスキル“編集”で記憶を改ざんして頂点を目指す!』…だったはず。


読む分には面白かったけど、登場人物の立場に立つと、面白さなんてかけらもない。


ただただ、この状況がいたたまれない。

突然知らないお屋敷に連れてこられて、知らない人の前に立って、わけのわからない話が続いている。

僕以外みんな大人で背が高いから、威圧感が半端ない。


父親も母親も何考えてるのかさっぱりわからない。

怒っている義兄の気持ちの方がよくわかる。


でも、僕にはどうすることもできない。正直勘弁してほしい。こんな修羅場で、しかも僕は何もしてないのに、この話の中心人物になってしまっている。

完全に大人の事情に巻き込まれた感じ。

ああ…、前のおうちにかえりたい。






僕、アベルは生まれたときから前世の記憶があった。

でも、別に秘密になんかしていなかった。

物心がついた時から、ここではないどこかの思い出があることに気がついていた。でも、幼すぎて、そういうものかと思っていた。


おしゃべりが多くなった五歳くらいの頃。僕が不思議なことばかりを言うものだから、母さんが「前世の記憶なのかもね〜。」と言っていた。特に深い意味は無かったのだろう。実際その後、母さんは自分が言ったことはすっかり忘れて、不思議な記憶を話す僕のことを見て、「子供は想像力が豊かね〜。」と言っていた。


もちろん友達にも言いふらした。自慢げに「僕は前世の記憶があるんだぞ! 」と。


すると「私もお母さんのお腹の中の記憶があるわ! 」と女の子が言い、「僕は未来の記憶がある! 」と男の子が言いだす。

それから前世の記憶ごっこや未来の記憶ごっこ遊びに変わっていくのがいつもの流れだった。




前世の記憶がちょっと変わった特技程度になりつつあった中、今この修羅場を見て理解したのだ。

この世界が、前世のライトノベルの中の(もしくはそれに酷似した)世界だということを。


その小説は爆発的に売れたわけではないが、前世の僕はちょっと好きだった。ノリの軽い内容。テンポの良い展開。でも、最後までは読まなかった。

なぜなら終盤で唐突な鬱展開になったから。


…この話、つまりこの世界、バッドエンドじゃん。

読んでいただきありがとうございます。


ヴィルヘルムの容姿等を補足しました。(2023/3/10追記)

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