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第6話 電話とタバコと屋上と

挿絵(By みてみん)

 クラブセンターの階段を五階まで上り、無人の屋上に出る。

 八月上旬の十六時過ぎ、頭上には青空が光っており蒸し暑く、スーツを脱いで腕にかけつつ屋上の端に向かって歩いて行く。スーツを屋上の塀にかけるついでに眼下の様子を見てみると、スーツ姿の男女が青々とした桜の木の下で談笑している姿があった。

 今日、淋漓大学のクラブセンターでは定例総会があった。

 すなわち、各部活動の全部員がそれぞれの部屋に集まり、今年度前期の部活動の活動内容や会計状況などの報告を五、六時間にかけて行っていたのである。

「…………」

 ズボンのポケットからスマホを取り出し、透に電話を掛ける。

「うん、お盆には帰るけど、まだ免許取ってないからクルマで迎えに来てくれない?」

「特に荷物も無いんだし、電車で帰って来ればいい」

「でも、電車に足湯は無いよ」

「……透が来るのっていつだ。十三日とか?」

「いや、十二日に行くつもりだったけど……、忙しいの? 夏休み真っ最中なのに」

「部活で色々あるんだよ。……十二日か。頑張ればいけるかな」

「無理そうならいいよ。京都に戻る時だけ送ってくれたら」

「そうさせてもらおうかな」

 という業務連絡から派生して雑談になり、しばらく話していた時にふと気になって尋ねる。

「免許取るんだよな。行きたいところでもあるのか?」

「というよりは、免許取っておいた方が何かと便利だと思ったんだよね。授業に遅刻しそうな時に原付が使えたら間に合うかも知れないし、ふと『実家に帰りたいな』と思った時にクルマさえあればものの一時間ぐらいで帰れるわけだから。……あと、身分証明書としても要るよね。一人暮らしするようになってから顔写真付きの身分証明書が事あるごとに必要でさ」

「確かに無いと色々困るな。実家暮らしの俺でさえそうなんだから、一人暮らしはもっとか」

 と頷きつつ、「来年はどんなクルマで帰って来るつもりなんだ?」と尋ねてみると、電話越しに長めの唸り声が聞こえてからこう続けた。

「来年は自分で運転しては来ないかな。家でお酒飲むつもりだし」

「……戒律はもういいのか?」

「どちらにせよ二十歳までは飲まないつもりだけど、それ以降はいいかなって。少なくとも、たまの帰省ぐらいは飲もうと思ったかな。今しがた」

 その理由について深掘りしようとする前に、「じゃあまた来週ね」と言って電話は切られた。

 ……何はともあれ、これで瀬瀬さんの言う通りになったということだろうか。

 重ね重ね頭が上がらないな……と思いつつ、来た道を引き返そうとスーツを塀から拾い上げて振り向くと、階段からスーツ姿の女性が上ってくるところだった。

「……お、ここに居たんだ。枝分(えだわけ)くん」

 右手をヒラヒラと振りつつ左手では箱からタバコを取り出し、こちらが反応を返す前に右手を下ろしてスーツのポケットからライターを取り出すとタバコを口に咥えて火を点けていた。

「皆そろそろ部室から撤収するところだよ。電話は済んだ?」

「今終わったところですけど、えっと……」

「真鍋。真鍋(まなべ)夏海(なつみ)という名前だよ、私は。……もっとも、部活に顔を出すのは前回の定例総会以来なんだから知らなくても無理はない。し、だから別に覚えなくてもいいんだ」

 真鍋さんは大して気にも留めない様子でツカツカと近づき、「吸う?」と言ってタバコの箱を差し出した。喫煙に対して抵抗感はなく、先輩からのお誘いだったので素直に受け取りつつ咥えると先端にライターで火を点けられた。

「すみません、火まで点けて頂いて」

 メンソールの煙をほとんど肺に入れずに口から吐き出して言うと、「敬語使わなくていいよ。同じ三年生なんだから」と無表情で青空を見ていた。先輩ではないらしかった。

「文化祭の準備はどう? 私は今年も不参加だから何も分かっていないんだけどさ」

 さして興味も無さそうな抑揚のない口調で尋ね、生気の感じられない垂れ目で見上げてくる。

「……どうでしょう。とりあえず十二日までにある程度までは仕上げたいと思っていますけど」

「それはハードスケジュールだ。くれぐれも体調には気を付けてね。具合が悪くて当日を欠席に終える、なんてことがあってはいけないんだから」

「……でも、真鍋さんは文化祭を欠席されるんですよね」

 彼女は灰色の煙を……フーッ……と吐くと、例の無関心な垂れ目で、しかし今回は真剣味を帯びた黒目で見上げつつ「敬語は使わなくていいよ。というか、使わないでほしい」と命じた。「来客としては参加するかも知れないな。あと、片付けぐらいはさせてもらおう」とも言った。

 そこからしばらくタバコを吸いながら(僕はふかしながら)談笑し、真鍋さんは僕が一本吸い終わった時に携帯灰皿を差し出しつつ「私はもう一本吸ったら行くから」とのことだった。

 今から僕の所属する部活では、定例総会終わりの打ち上げがある。

 一次会は大学通りにある居酒屋で飲み会をし、二次会はカラオケに行くのが慣例になっているらしい……仲のいい部員も増えてきたので、楽しい時間になるだろうと思う。

「…………」

 階段を下りつつ、スマホでメモ帳アプリを起動する。

「やりたいことリスト」という題名のページを開くと、


・遠遠姉妹の関係性を修復する

・二村くんのスランプを解消する


 という項目に続けて、「・真鍋さんの悩み解決」と加筆して閉じた。

 余計なお世話であればいいのだけど、と思いつつ。

ここまで読んで頂きありがとうございました。評価、感想、レビュー等お待ちしております!

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