三層㊷ 回復
「じゃあ、一番軽症なアンタから回復させようかしら。ミカエルあたしの縄を解いてちょうだい」
「……」
ミカエルは無言で縄を解き始めて、終わり掛けになるとエリアに「逃げようとしたら足折るから」とかなり物騒なことを耳打ちした。
こいつらの関係性はよくわからないが、ミカエルのコイツを絶対に逃がさんという気迫だけは伝わってくる。
「汝、けが人を見つけたら救済すべし。これでも敬虔なタリス教徒なんだから、逃げないわよ」
「あんた先まで治療しないとか駄々こねてたじゃない」
「ぐっ」
グウの音をでねえと言った顔つきで、ふくらはぎと頬の患部にエリアが手を翳すと見る見るうちに治っていく。
回復する速度が異様に早い。
どこか危なかっしい感じがしたが、腕は確からしい。
「それはミカエルが、話も聞かないし、あたしの意志を蔑ろにするから」
「話なんか聞くまでも無いし。聞いても聞き分けのないことを言うだけだからよ」
「当たり前のことを言ってるだけじゃない……。ミカエルも皆おかしいのよ」
少し悲しそうな顔をするとエリアはイルマスの下に歩いていく。
「立て込んでたみたいだな」
「そっちほどじゃないわよ。一つ言っておかなきゃいけないことがあるんだけど」
「なんだ?」
「あたしは次の層で攻略から抜けるわ」
「あそこにいるエリアが関係しているのか?」
「さすが心が見えているだけあって、察しがいいわね。ここに来たのはあいつを連れ戻すのが目的だったから」
ミカエルが抜けるのか……。
このパーティ―にタンクはミカエル以外にいないから、抜けられるのは困るが、ミカエルは説得に応じるタイプではないだろう。
「やっぱりこの人呪い持ちね」
こちらがミカエルの事で頭を痛めていると、イルマスの治療に当たっているエリアがそう呟いた。




