三層㊵ 呪い
曲刀に切りつけられた手にどんどんと肉片があつまり、手が形作られていく。
まるでその場所だけ時間が戻っているようだ。
「そう怪しいものを見る目で見るな。遡行の呪いを施しただけじゃ。本当はイルマスとお主の体を治してやりたがったが、これの本来の持ち主でないワシにできるのはこれが限界じゃき」
呪いを施しただけて……。
治療でそんなことをする奴は見た事が無い。
迷宮の外に出るまでイルマスの手が治せなかったことは事実なので、直してもらったこと自体はうれしいが。
呪いという謎の多いものだからな。
「呪いって大丈夫なのか?」
「この場合は大丈夫じゃ」
「基本は大丈夫じゃないてことか」
「……」
イルマスの方を見ると手が元通りになった以外に特に異常は見られない。
まあ大丈夫だろうか。
仇に情けを掛けられて、微妙な表情をしている気がするが、特にこれは呪いとは関係なさそうだし、気にしなくていいだろう。
「リッチャンさん出血が……」
アイリッシュの不穏な言葉が聞こえたのでリッチャンの方を見ると、体の手や胸から少なくない血が溢れていた。
「おい、大丈夫か」
「大丈夫ではないが。気合で何とかなる程度じゃ。気にせんでもいいき」
リッチャンは気丈にそう答えたが、明らかに気合ではどうにもならない量だ。
大丈夫ではない。
「あんたらここにいたのね。もう外に出てるかと思ってたわ」
俺の中で心配が広がり始めると、縄でぐるぐる巻きにした聖職者の女を担いだミカエルが現れた。




