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勇ましいビビり勇者大勝利

ボスの間中央。

 そこには毛むくじゃらの一つ目巨人が立っていた。


 おそらくギガンテスのワイルド種だろう。

 ワイルド種は土、風系統に属する加護を持つが、コイツはどんな加護を持っているんだろうか。


 そんなことを頭で考えていると一つおかしなことが起こっていることに気付いた。


「ヒィィィィ! こ、殺される! まだ死にたくない!」ガタガタガタ!


 前衛のアイリッシュが後衛の俺の横でガタガタ震えているのだ。


「お前前衛のなのに何で俺のサイドで震えてるんだよ。前に行け、前に」


 俺はアイリッシュの背中を押して前に押し出していく。

 するとなぜか押し出しているはずなのにずるずると後ろに下がっていく。

 おかしいな。

 もう一度押す、するとやはり後ろに下がってきた。


「ふざけんなお前、押し返してるだろ!!」


「ユースケスさん、何で私にこんないじわるするんですかあ!?」


「俺がお前にいじわる!? 逆だよ、お前が俺に意地悪してるんだよ!!」


「めちゃくちゃですぅ!!」


「お前がめちゃくちゃだ!!!」


 こいつなんて野郎だ。

 梃子でも動かねえ。


 このまま戦うしかないか、くそ。


 俺の耐久では当たれば即死だから、全部避けながら攻撃するしかない。


「guuuuaaaa!」


 そんな簡単な行動方針を立てているとギガンテスが突進してきた。

 慌てて回避すると奴は壁にぶち当たった。


 早速攻撃のチャンスだ。

 弱点だろう眼玉のある頭に向けて矢を放つ。

 眼にはあたらなかったが矢が奴の耳を射抜いて、鮮血を生じさせた。

 だが鮮血はすぐに止まり、穴の開いた耳の傷口部分が薄い膜に覆われているのが見えた。

 どうやら自動回復系の土の加護を帯びているらしい。

 地面に触れている間は自動回復-極小発動とかそんな感じだろう。

 それほどの効力ではないが、チクチクとダメージを蓄積させて倒すタイプの俺との相性は最悪だ。


 ダメージリソースはアイリッシュ頼みになるか……。

 そう思ってアイリッシュを見るとギガンテスに向けて突っ込んでいた。

 俺がダメージを与えた直後で俺にヘイトが向かっていたとは言え、普段からは考えられない行動だ。

 アイリッシュはギガンテスの背後に近づくと、剣を振り上げる。

 すると殺気を感じとったのか、ギガンテスは右に素早く避けたが奴の左腕が肩口から断ち切られた。


「gyaaaaaa!」


 おお、流石に腐っても勇者だな!

 威力が通常攻撃とは思えないほど凄まじい。

 ギガンテスが避けなければ真っ二つに出来ていたはずだ。

 あとはもう一撃横薙ぎに叩きこめば終了だ。

 意外に呆気ないな。


 俺がそう安堵していると止めを刺すかと思われたアイリッシュはバックステップを踏みこみ、ギガンテスの下から遠ざかっていき始めた。


 何やってんだこいつ……。


 そう思うとまたバックステップを決め、さらにもう一回バックステップを踏んだ。

 なんだこれは……。

 ヒット&アウェイアウェイアウェイとでもいうのか……!!


「アイリッシュお前下がりすぎだよ!」


「ええ!? でも師匠がダロウ戦闘じゃなくてカモシレナイ戦闘でいつもやれて……。絶命するときに爆発するかもしれないし」


 なにその悪趣味なボス……。

 流石にそんなの第一層で出ねえよ。


「確かにそうだけど、お前。ここは第一層だよ。さすがにないだろ、臨機応変にやってくれよ!」


「も、文句が多いですぅ!」


「文句じゃないよ、俺が言ってんのは常識だ!」


「あ、ユースケスさん、ギガンテスがそっちに」


「guuuuaaaa!」


 このギガンテス何で攻撃したアイリッシュじゃなくてこっちに来てんだよ。

 おかしいだろ。


 ――ギガンテスワイルド精神強度LV1

 ――条件を満たしました

 ――メンタリズムLV1発動


「guuuuaaaa!」


(ナゲルヤツコロス! ナゲルヤツコロス!)


 コイツ、よりにもよって行動指針が後衛最優先じゃねえか、マジか。


 とりあえず一度避けて、出来るだけ強く引き絞って威力を高めた矢をお見舞いする。

 くそ、やっぱりいかんせん威力不足だな。

 怯みもしない。


 アイリッシュを見ると奴はギガンテスを見極めるように見つめている。

 おそらく決定的な隙ができるまで奴は動かないだろう。

 くそ、これ以上攻撃を受けたらいつかは絶対当たるな。


 出来るだけ引き絞った矢をお見舞いしつつ、単調な突撃をまた繰り出したので右に回避する。

 すると奴は突撃途中にコケて、寝転んだ形になるとコケたことにイラついたのか癇癪を起したようにゴロゴロ転がりながら、手足をジタバタさせた。

 図体デカいせいでこれではもはや超広範囲攻撃だ。

 そんなの避けれるか!


 案の定、避けている途中で奴の足が思いっきり俺の胴体にぶつかった。


「グハァ!」


 し、死ぬ!


 体力が全損して、意識が遠ざかるのを感じると、瞬時に回復して意識が戻って来た。

 左胸にジャリジャリとしている辺り、ポーションのおかげか。

 性格が悪い奴でも先人の言うことは聞いておくもんだ。


 ――ユースケス・トルクレンチ レベルアップ

 ――レベル6

 ――体力130、気力160、精神27、敏捷13に上昇

 ――「チャージショット」習熟度100突破により、戦技「チャージショットLV1」獲得


 ひどい目にあったが存在レベル上がって戦技ももらえた。

 体力がまだ回復しきってないので回復したいが、回復しても即死であまり意味のないことはわかっているのでいかにもダメージがアップしてそうな戦技を使うことにする。


 ――チャージショットLV1発動

 ――貫通付与


 この付与効果ならヘッドショットで即死を狙えるだろう。

 まだ癇癪を起して暴れまわっている奴の頭を狙って矢を放つ。

 鮮血が飛ぶと奴は静かになった。


「終わったあ……」


 ポーチからポーションを取り出して頭からかぶる。

 ああ、傷が癒えていく……。


「おわりましたね。ユースケスさん」


 危機が去り心底安心したようなアイリッシュがこちらにやってくる。

 奴のその声を聴いてふつふつと湧いて来る何かを感じた。


「おわりましたねじゃねえよ! お前があそこで追撃をかけてればこんなことには!」プルプルプル


「あなたたち、見事倒したようね」


「おお、ほんとに倒しやがる! さすがアイリッシュだな!」


「ユースカスさんという重しを背負いながらボスを撃破するなんて勇者はだってじゃないですね」


「お前はほんとに傾奇モンぜよ!」


「すごいですわ、ギガンテスのワイルド種の新鮮な標本が!」


 俺が怒りに打ち震えていると班員たちが近づいてきた。

 くそ、キレれれねえ。

 コイツの勇猛さをアピールせんと。


「うおおお! アイリッシュ! 俺を庇って単身でギガンテスを倒すなんて感動の花園だああ! 内心ではお前のことをこれから様付けで呼ばせてもらうぜ!」プルプルプル


「フン! もっと褒めたたえろ!」


(な、なんだか照れますねえ……)


 こ、こいつぅ、ぶん殴りてええ!!


「ユースカスさん、何で震えてるんですか?」


「そりゃお前感動の震えに決まってんだろ!」プルプルプル


「フン! これで明日の攻略も万全だな!」


(ああ、加護が回復してきまたよ、ユースケスさん!)


 なぜだ、コイツの加護が回復するたびに俺が災難に襲われている気がしてならない。

 次は一体どうなるのだろうか。

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[良い点] 主人公がなんやかんやで優しいとこ 作品コンセプトが面白い [気になる点] 勇者が自分勝手だし感謝もしないしなんだコイツってなる [一言] この先改善されたりするんですかね?
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