三層⑧ 擬態
「お前気抜いてただろ」
「抜いてませんよ。さっきのはイルマスさんが単純に怖かったからですよ」
「嘘つけ。今普通に素でしゃべってんだろうが。心の声そのまま出してるよ」
俺がそう指摘するとアイリッシュは初めて気づいたようにハッとした顔をした。
気付くの遅えよ、イルマスが危険フェースに移行してるよもう。
(すいません。ちゃんと前みたいに喋ります。では)
「う、うじむ。す、すいません。フー!」
「喋れてないよ。噛んだ上に、鼻鳴らすの失敗してるじゃん」
「改めて自分の言っている言葉を思い出すと罪悪感が湧いてきて……」
「今更だよ」
コイツは重症だ。
きっと戦闘を俺達で担ってたせいで擬態をする必要が極端に減ったから、下手になったのだろう。
これじゃ、喋った瞬間に臆病だってバレそうだ。
「アイリッシュ、今のお前じゃ。喋った瞬間にすぐバレる。怒ったフリしてしゃべりかけないでくださいオーラを出せ」
「わ、分かりました」
もうすでに大丈夫そうじゃないが怒ったフリなんて楽にできるだろう。
「アイリッシュ怒るなよ。お前のポーション割ったのは悪かったよ」
「本当に悪いと思ってるんですか?」
「本当に」
よし、順調にいってるぞ。
このままいけば誤魔化せるだろう。
「あれれぇ、おかしいな。アイリッシュさんが敬語だ」
するとイルマスが無表情で痛いところを指摘してきた。
こ、コイツ……。




