イケメンメンタリスト(偽)パーティーメンバーに会う
【不屈】の勇者。
【矜持】の勇者。
【高潔】の勇者。
【無垢】の勇者。
この世に存在する四勇者は加護の特性によってそう呼ばれている。
【不屈】は、半死半生になるごとに強まる加護を。
【矜持】は、自分の勇猛さを誇るごとに強まる加護を。
【高潔】は、人々に施しを与えるごとに強まる加護を。
【無垢】は、穢れなき行いをするごとに強まる加護を。
各々がそう言った加護を持っていることを考えると当意即妙と言った感じだろうか。
歴代の勇者の序列は【矜持】を筆頭に、【高潔】、【無垢】、【不屈】と続くのが定石だったが、当代の【不屈】の勇者があまりにも傑物だったためその流れが崩れ、
現在は【不屈】、【矜持】、【高潔】、【無垢】となっている。
そして現在その勇者の中で序列二位とされている【矜持】の勇者アイリッシュは
「フン! モブ共が! 朝からブヒブヒと家畜のようなわめき声を上げおって!」
(ヒィィィィ! 殺されるるるるるぅぅぅぅぅ!)
朝から町中の人達を罵倒して、屠殺寸前の家畜のような悲鳴を内心上げていた。
どうしてこいつに神は加護を与たんだろうか……。
「お前、勇ましさの示し方が他人への罵倒って……、そんなんで大丈夫なのか」
「私に話しかけるな! 蛆虫が!」
(すいません! すいません! でもこれが一番効率がいいんです! 前国王様を罵倒したらめちゃくちゃ加護が強くなって……)
いや、それ国王様限定だよ、他は違うよ絶対!
てかなにちゃっかり国王に不遜働いてんだお前、ホントはビビりじゃねえだろ!
ダメだ……コイツ。
早く何とかしないと。
「いやいや、もっと人を傷つけない方向の人助け的ななにかでも示せるだろ」
「私が人助けぇ? 人なんぞ魔物の餌にしてくれるわ!」
(で、でも、そんな人助けをするような事態そんな頻繁に起きないし……)
「ま、まあ確かにそうだけど」
「おい、あいつらやべえぞ!」「人を魔物の餌にするとか言ってやがる!」「あ、あれはアイリッシュ様!」「勇者がそんなことを本心から口にするわけない、あの男に洗脳されてるんだ!」
ヒェ、しまった!
心の声に応えていたせいで、変な風に会話が成立してしまった。
「アイリッシュヤバい逃げるぞ!」
「人を魔物の餌にする外道があ! ここで叩き斬ってくれる!」
ええコイツ、裏切りやがった!
「今宵の何色に染まるか……」
(す、すいません。人を魔物に捧げる外道を退治することは人助けになるかなって思って。それにこれならだれも傷つかないし)
俺の社会的地位と名誉が傷ついてるよ……。
「待ってぇ!」聖剣ブンブンブン!
「ぎゃあああああ!」
「さすが、アイリッシュ様だ!」「洗脳を打破して下郎を返り打ちに!」
―|―|―
ギルド『深淵の門』 無限迷宮入り口
「フン! 軽い運動にしかならなかったな!」
(ああ、ちょっと力が増したような気が! ユースケスさん加護が回復したみたいです!)
このアマ……、復讐してやる!
お前が加護で生きる死ぬとかなくなったら、絶対復讐してやるからな!
「ハァ……、ハァ……ハァ。御託は良いよ……。お前班割り俺と一緒なんだろ。他の班のメンバー探してくれよ」
俺は荒くなった息を整えながら、心なしほっこりしているアイリッシュにそう要請する。
「あ、いましたわ、いましたわ! あそこ! ほら! アイリッシュとえっ……えっとユー……なんちゃ? ……? ……なんかもうすでに死にそうになってる人!」
「ほんとだ! アイリッシュと、ユ……? ユ……。そうだ! ユースカス!」
すると人の名前を呼ぼうとして失敗している奴と、人の名前を間違って覚えている奴がこちらに接近してきた。
誰がカスじゃ、俺はユースケスじゃ!
「俺はユースケスだよ。二人は同じ班の人だよね? てか何で名乗る前から俺の名前知ってるの?」
「いや、昨日ギルマスから注意されてめちゃくちゃ目立ってたし、なんか班割りの時に名前聞いたら頭に残ちゃって、それにどっかで見た気がして……」
「そうなんだよ。僕も君をどこかで見たような気がして、確か……あれはメンタリストブームが起きた時……」
おお、コイツ! マスコミに引っ張っりだこだった時の俺のことを覚えってるな!
いいぞ、そのままイケメンメンタリストのユースケス君と呼べ!
そうすればオワコンから俺の再ブーム到来だ!
「ああ、そうだ! 君はイケメンメタリスト(偽)のユースケス君!」
「偽!?」
なんだその不名誉な付属物は!!
「誰だよそんなこと言った奴!!」
「いや近所でもステマのし過ぎとか、言うほどでもないとか」
「もういい、それ以上聞きたくない」
ひでえ、世間の奴ら人の心ねえわ。
ここで残酷な真実を知るとは。
とりま、俺にそれを伝えたコイツには嫌がらせすることに決めた。
「偽……プププ!」
くそ、誰かが笑っとる……!?
だれじゃ!
振り返ると必死に笑いを堪えて、失敗しているアイリッシュの姿があった。
お前か!
嘘だろ、こんな生きてるのが恥みたいな奴に……!
「つ、ツボった……! プププ!」
殺すぞ!
「おお、早いな、皆! もう来てたのか!」
「ほう、もう来とるとは感心ぜよな」
俺がアイリッシュに殺意を滾らせていると、新たに二人班メンバーがこちらに来た。
やけに体躯のデカい青髪の男と、なんか偉く長い黒い上着を着た赤髪の女だ。
「俺はグラシオ! 役職は鍛冶師見習い、武装は大太刀だよろしくな!」
「ワシは役職はスケバン、武装は拳! りっちゃんぜよ!」
「僕はイルマス。役職はシーフの子分、武装はナイフです、こちらこそよろしくお願いします!」
「私しはファイルと申します。役職は魔法使いの弟子、武装はビブリオですわ。どうぞよろしくお願いしますわ」
それに俺に残酷な真実を教えてきた黒髪のモブのイルマスと紫髪の魔法使いファイルが答える。
俺も乗り遅れないようにしないと。
「俺の名前はユースケス。 役職はメンタリスト見習い、武装は弓。よろしく!」
「フン! 貴様らに名乗る名などない!」
(わ、私はアイリッシュ。 役職は矜持の勇者、武装は聖剣。よ、よろしくお願いします!)
こ、こいつ、心の声だけで自己紹介しおった!
「おう! 皆よろしくな!」
「因縁付けられたらワシに頼れよ!」
「トラップ解除と開錠は僕にまかしてね」
「魔法は私にお任せですわ」
皆、心が広いな。
「心透視は俺に任せろよー」
「フン!」
「仲良く和気藹々と初初しいですね」
(おう、また会ったなクソガキども)
「私はミカエル・スカンディナヴィア。役職は聖騎士、武装はタリズマン、祝福の盾、祝福の剣。ニュービーの皆さん、同じ班となったのでよろしくお願いします」
(足引っ張んじゃねえぞ、フォローめんどくさいからな)
ええ、この人受付嬢じゃなかったけか、確か……。
この人もついて来るのか。
てか相変わらず性格悪いな。
「スゲエ、本物だ! 不屈の勇者のパーティーの『不破のミカエル』!」
「まさか、受付のアナタがそうでしたとは!」
周りの奴らが不破のミカエルと気色ばみ始めた。
不破のミカエル?
これが……?
たしか噂だと天使のような美貌と慈悲深さを持った聖女だと聞いていたが。
性格がまったく逆だろ……。
「さて、皆さん時間がもったいないです。早速無限迷宮の一階で各々が何が出来るか確認しましょう。明日には攻略開始なんですから、ゆっくりしてる時間は在りませんよ」
「ミカエルさん、まだボク達、鑑定石の写しを見せあってないんですけど」
「いやいや、ステータスとか特性なんてだいたいぱっと見でわかるでしょう。時間の無駄です。早く行きましょう!」
(死ぬなよ、お前ら……)
きゅ、急に優しくなった……。
一体何があるんだよこの先に。