魔界56 不断
切り込まれたキズを中心にノルアクアの胸に刻印が広がっていく。
奴は呆然とした顔で自分の胸に広がる刻印を見下ろすと、右腕に広がっていた凍結が解け、持っていた呪具を地面に下ろした。
自らの武装放棄。
ここまでの大きな変化は生じたことがなかった。
この争いを決するものであるかはわからないが大きな変化が起きているのは明らかだ。
精神世界の時と同じように刻印から赤黒い霧が現れ、やがてノイマンの姿をとっていく。
まだ形成途中の腕でノイマンは呪具を手に取ると、奴と顔を突き合わせた。
「今まですまなかった。俺の世迷言のせいでお前の人生を狂わせてしまった。せめて責任だけは取らせてくれ」
「本当にノイマンなんだね」
ノルアクアは奴の頬に触れようとして、ノイマンの頬が靄になって僅かに解けると手を伸ばすのをやめた。
「ああ、その通り。俺はノイマン。呪いだけになっても心残りがあってこんなところまで来たお前の亭主だ」
「あなたが終わらせてくれるの?」
「終わらせるよ。お前だけじゃなくて俺もだけどね。これ手に取って」
ノイマンは確かめるように問いを投げかけたノルアクアにそう答えると切れ味の上がる自らの双剣を奴に渡した。
「互いに破滅の呪いを発動させって全部終わらせよう。ウエポンマスターの俺らならできるはずだ」
ノイマンが呪具から呪いを引き出すと構え、ノルアクアを真っ直ぐ見つめた。
「うん、わかった」
ノルアクアはつきものが落ちたように、邪気のない様子でそう答えると双剣に呪いを生じさせて構えた。
同時に刃が振り下ろされた。
呪いが絶たれた。
ー|ー|ー
俺の体は奴らが斬り合い互いに消滅するのを確認すると動くようになった。
どうやら奴ら二人は斬り合った際に周りにある呪いの一切合切を破壊したらしい。
全員呪いから回復し、イルマスも死にかけの状態から健康体になっていた。
破滅に侵食されなかった世界。
破壊の呪いを受けた当事者として大切にしなければとせるに思う。
「ユースケスさん手伝ってくれますか?」
俺は今王都でギルドを開きながら、アイリッシュがやること手伝っている。
未だにこいつとの関係が破滅を迎えないということは俺もこいつに付き合うことを望み,自ら足を動かしているのかもしれない。




