魔界46 哲学
人は願った瞬間から呪いにかけられている。
この迷宮で獲得した俺なりの哲学だ
心の世界のこいつなど殺しても現実のアイリッシュに影響などあるかわからないというのに指が動かなかったのはそれが少なくとも絡んでいるんだろう。
きっとこいつを倒したいと思う一方で、たとえ幻でもこいつを失いたくないとどこかで思っていたのだ。
2、3年も行動を共にしてそれなりに情が映ったというところか。
今回は奇跡的に奴も同じ状態にあったために、首がまだ繋がっているが、でなければ今頃ディラハンになっていた。
これから首をすっぱ抜かれてもいやなので、弓の構えを解くと奴も構えを解いた。
「バフがかかってもないのによくやるな。そこまでやばいものがこの先にあるのか」
「私にとっては死んでも見られたくないものです。特にあなたには」
アイリッシュは表情を曇らせるとそう答えた。
「でもーー」
それから顔を隠すようにこちらより一歩前へ前進するとこちらを振り返った。
「ーー全力でぶつかって決心がつきました」
その顔はいつものどこか自信のなさそうな顔ではなく、つきものが取れたようなすっきりとしたような恥ずかしそうな不思議な表情だった。
不意打ちだったので少し見惚れた。
「私と一緒についてきてくれませんか」
二の句の提案で意識を戻し、
「言われなくとも行く。それが目的なんだから」
と我ながら無愛想な返事だと思いながら照れ隠しにそう返事を返した。




