魔界36 欠け
ノルアクアの刀とイルマスの双剣がぶつかる。
双剣の方が一方的に折られると思ったが、意外なことに双剣には傷一つない。
「あれは呪いを吸い取って鋭さが増すようにしてある」
俺が破壊の呪いに当てられても何ら変化のないそれに対して疑念を抱くとグラシオが声を上げた。
どうやら双剣に付与された性質によって、不利どころか、優位な方にシフトしているらしい。
破壊防止した上で、切れ味も上がるなど武器の面での問題は無くなったどころか、改善されたと言ってもいいだろう。
あとはイルマスの腕次第だが、相手は魔界最強の魔王の愛弟子だ,そう簡単には運ばないだろう。
それに何より、傷口から出ている呪いの塊が不穏すぎる。
あれがどう奴らの戦闘に絡んでくるのか、まったく予想がつかない。
「タックスに預けたそれを持っているということは彼を破ったようだな」
「ええ、強かったですが倒しましたよ。本来の実力は出せていないことが僥倖でした。それにあなたは弱いですね」
二度めの斬り合いで刀が双剣の一方に打ち上げられ、もう一方がノルアクアの首に刃が迫った。
ノルアクアは刀から手を離すと、左肘を下敷にして後ろに倒れ、左肘が地面につくとそれを支点して下半身を持ち上げ、その勢いのままイルマスの双剣を蹴り上げた。
ノルアクアは蹴り上げた反動を生かして距離を取り、イルマスは無理に追撃をかけずに下り、体勢を立て直した。
その間にノルアクアの傷口にある呪いの塊は空中にあった刀に手を伸ばし回収した。
使い所による勝手な判断だが奴の呪いの塊は複雑な動きが苦手なのかもしれない。
「むっ…」
刀を手に戻したノルアクアは、刃にできた小さくない欠けを見て、戸惑いの声を上げた。




