魔界29 バラバラ
飛んでいた魔法の土杭と矢は赤いオーラを帯びた刀で一閃される。
不意打ちに攻撃されたのに対応する反射神経もそうだが、それを同時に対処できると断じた冷静さに肝が冷える。
「魔法が存在ごとバラバラにされたのは長く生きてきましたが、初めて見ましたね」
ファイルは奴の刀によって割られ、青い粒子になって消えている土杭を見ながらそんなことを呟く。
存在ごとバラバラ。
奴が『破壊のノルアクア』と言われている点やイルマスの武器が破壊されていることを勘案すると,奴の呪いの効果は触れたものを破壊するものだろう。
単純なものだが、それゆえに厄介な可能性が高い。
もし対象に選択できるものが限られていない場合、時間、空間などの概念も含まれるかもしれない。
そうだとすれば,最悪だ。
例えば空間ならば、目の前の俺とノルアクアの空間を対象にした場合,その空間を消滅させて一気にこちらとの距離をゼロにできる。
そうなれば奴からどれだけ逃げようと、逃れることは不可能だ。
さらに消された空間の中に人が居た場合を考えれば,その空間ごとまとめて消せる可能性も考えられる。
他にも時間なども考えれば奴ができることに限りはない。
この不安を払拭するためにも早く奴の力量が知りたいが、そうなればできるだけ奴の近くで交戦しなければならない。
回避に自信のある俺が行っても構わないが、いかんせん呪いの不安要因がでかすぎる。
最悪触れた瞬間に昏倒では犬死にだ。
「勇のあるのかと思ったがそうでもないらしい。戦場にいるのは怖かろう……。この少年の次に真っ先に殺してできるだけ早く苦痛から解放してやろう」
頭に考えを巡らせ、何か他にないかと懸命に頭を回すが現実はそれを待つわけもなく、ノルアクアがイルマスに近づいていく。
『早打ちLV MAX』を発動して奴の妨害に入る。
即座に十発の矢を打つが奴は矢が届く直前で何もない虚空を切り裂いた。
すると十発の矢があった空間がキューブ状に切り取られ、袈裟に赤い断面が浮かび上がった。
空間は断面から斜めにずれて、分断されると消えた。
奴はこちらの予想通り概念ごと破壊できた。
これでは遠距離も妨害も意味がない。
近距離以外に奴らの間に割って入る方法はない。
背に腹は変えられない。
インベントリから聖水を取り出して、頭からかぶり、呪いの霧に向けて足を踏み入れる。




