魔界9 86
奴はリッチャンの忠告を無視して、呪具を魔界に持ち込んだ魔族トルーザだ。
あの記憶の印象としてロクな奴ではなかったので、この研究所もロクでもない場所の確率が高そうだ。
現物を発見出来ていないのでまだ何とも言えないが、個人的にはイビルゲートがここにある確率は非常に高いように感じる。
天上から見下ろしたところ、トルーザはこちらに気づいてるのか、気付いてないのか、刀剣を眺めて不敵な笑みを浮かべたままなんの反応も示さない。
ただ気付いてないという事も考えられるが、罠が仕掛けて、こちらをそれにひっかけようとしている可能性も考えられる。
「イルマス、罠の解除できるか?」
「簡単な構造のものなら出来るんですが、ここにある罠二つとも遺物が使ってあるので僕では無理ですね」
イルマスで解除できないとなると避けるか、一度かかるしかないようだ。
他のファイルとグラシオも解除できないこともないが、奴らは近づかないと解除できないのでこの近づく前の段階ではどうにもできない。
「どんな遺物なんだ?」
「天井の隅に4か所あるものと、ディアナの記憶にあった86層のボス報酬である凍結をひこ起こす箱です。前者は門外漢である僕にはどういったものであるのか全く分かりません」
「ああ、それなら――」
イルマスが分からないと言った天井の遺物について、グラシオが口を開いた。
「――多分センサータイプの遺物だぞ! 引っ掛かりやすいが、引っ掛かっても警報音を鳴らすだけなのとか、使用者に視覚映像を送るだけのものしかないから今のモロバレの状態ならそこまで気にするようなものじゃない!」
「じゃあ、目下のところあの箱をどうにかするだけでいいのか」
「だな!」
グラシオの了承も得たので早速箱の攻略に入ることにする。
「イルマス、大剣であの箱を真っ二つにしてくれ」
「了解しました」
イルマスにそう告げるとイルマスは箱に向けて、大剣を放り投げた。
「ふざけるな! そんなのずるいぞ!」
そうすると終始にやにやしていたトルーザが叫び声をあげ、同時に箱が砕かれた。
「なんだお前気付いてたのか」
「天井を破壊されて気付かない奴がいるか! それよりもなんでお前ら遺物に対してそこまで手慣れている。ただのコソ泥ではないな」
「お前の知り合いの知り合いだよ。急で悪いがイビルゲートのことについて答えてくれるか?」
「イビルゲート!? そんなのに答えたら俺はノルアクアの小娘に殺される! シャール! 聖獣様を呼びだしてくれ!」
そう言った奴の目線を手繰っていくと、扉の陰に隠れた白衣の幼女が居るのが見えた。
まずい。
「ロリコーンさまぁ!」
俺が危機感を覚えると戦闘力をカンストしたリッチャンにも認められているあの淫獣の名前を幼女は叫んだ。
「ロリコォォォン!」
寸分たがわずに猛々しいいななきと共に研究所の壁に穴が開く。
「ギャアアアア!」
トルーザが吹っ飛んで壁にめり込むと、幼女の前には額から剣の刃を生やした馬が現れているのが確認できた。




