魔界7 太っ腹
イルマスは大剣を受け流すと、距離を取ってナイフを投擲した。
ナイフの持ち手には糸がつけられており、不屈の勇者の頬を掠めて進むかと思ったナイフは糸が張り詰めたことで空中で停止し、左手に大きく曲がった。
ナイフは不屈の勇者の首に巻き付くような軌道を描くと、糸がその軌道をなぞる。
糸が奴の首をくくった事を確認するとイルマスは、奴に背後から近づき、糸の両端を持って引き締め始めた。
身体から赤黒いオーラが表出し、イルマスの腕の筋肉が隆起する。
「うううん!」
不屈の勇者もそのまま締め上げられるわけもなく、大暴れする。
炎に焦がされ、何度も地面にこすり付けられているというのに、イルマスは表情を一切変えずに締め上げ続ける。
奴が本心はどうかはわからないが、不屈の勇者を捨て身でもって殺そうとしているようにしか見えない。
「もう死にかけてる。十分だ。や! め! ろ!」
不屈の勇者はそう叫ぶと魔力を一気に放射して、イルマスを吹っ飛ばした。
イルマスは着地すると奴に向けて構えたが、不屈の勇者はだらりとした気の抜けた構えになった。
いきなり態度が変わったが一体奴はどうしたというのだろうか。
「イルマスちょっと待って。少しそいつと話しがしたい」
謎を解明するためにイルマスにそう頼むと、奴は構えを解き、不屈の勇者をこちらに体を向けた。
「ちょうどいい。俺も話しがしたかったところだ」
俺の提案は奴も受け入れたので、早速切り込むことにする。
「いきなり態度が変わったがどうしたんだ」
「いや俺は別にお前らを使ってレベルを挙げようとしただけだから。その用が済んだというだけの話しだ」
じゃあ何かこいつは。
急に襲って来たくせに俺たちに害をなす気はなかったというのか。
確かに別に倒すも何も「高め合う」とは言っていた。
状況か状況なので紛らわしすぎる。
普通あの状況で在れば不屈の勇者が魔族側についたと思うだろうに。
「俺はこれから破壊のノルアクアにリベンジマッチを挑むのでここからは退散させてもらう」
「ちょっと待って。お前が言っていることが本当なら、迷惑をかけた代金としてこっちに情報と装備の補填をしてくれ」
そう要求すると奴は嘆息してこちらに先を促す。
「いいが、情報については何が知りたいんだ」
「イビルゲートを作っているような研究施設についてだ」
「研究施設なら厄災の獣が聖獣と争っている場所――ここから北東方向にあった気がするが」
「以外に有益な情報を知ってるんだな、ありがとう。あとは装備品の補填だが」
「ああ、つかわんものだし全部持っていけ」
偉く太っ腹だ。
奴のおかげで装備品の量が2倍に増えた。
至れり、尽くせりだ。
奴のレベルアップの為に利用されたのはきに要らないが、これだけはよかったかもしれない。




