魔界6 M
不屈の勇者。
いつもそいつは死にかけていた。
最初はなめ腐ったチンピラに絡まれて半殺し。2度目はソロでゴブリンに挑み、集団リンチされ半殺し。3度目以降は自ら自分を追い込むことでの半殺し。
半殺しされるごとのレベルアップで加護の力で劇的に成長し、何度半殺しにされても屈しない強靭なメンタルと自分の失敗を認められる素直さをもち合わせていた。
そして何よりもあいつは稀代のマゾで、自身が最弱の勇者であることに忸怩たる思いを抱いていた。
だからこそあたしには矢の雨に貫かれる様を見っても、死ぬような確信が全く持てなかった。
―|―|―
「これで終わりだろう」
「ヴゥゥゥアアアアアアアア!」
俺が不屈の勇者に降り注ぐ矢と吹き出す夥しい量の血からそう判断すると、奴は獣のようなけたたましい叫び声をあげた。
「まだよ……!」
だが間を置かずにミカエルがこちらの確信に反して、そう声を上げた。
「馬鹿な、矢に身を削られ、あれだけの血を流しながらまだ生きてるって言うのか」
「あいつの職業病『不屈の炎体』の効果で、どれだけのオーバーキルをいれても瀕死の状態で耐えるのよ。矢が展開し終わるまでにあいつにダメ押しの一発を入れないとレベルアップをした状態で反撃をしてくるわよ」
「ちっ!」
あの分裂した矢はダメ押し判定なしか。
あいつに別の矢の一撃を入れる必要がある。だが周りの矢が障壁になってとてもではないが、矢での追撃は難しそうだ。
他の奴に頼むしかない。
ファイルは土魔法での足場形成、アイリッシュはクールダウン中、グラシオは特別矢と武器作成、ミカエルは足が遅く間に合わないし、エリアは戦闘能力ゼロ。
残りはダメージを与える期待が出来ない雑兵とイルマスだけだ。
イルマスは呪いの浸食が昨今酷いのであまり負担を強いることはしたくないが、もうそれを気にしていられる状態でもないし、俺の次点で素早さの高い奴が一番この中で適任だった。
「イルマス頼む」
「御意」
大剣を奴に向けて投げると、2つのナイフを持って疾駆する。
「死にかけでも平気で動くから、本気で取りにいきなさい」
「心配しなくとも、僕は敵には手加減は一切しません」
大剣が迫ると矢の雨に打たれていた奴に変化が起こった。
右手の大剣を動かして、イルマスの大剣が来る軌道上に掲げたのだ。
イルマスの大剣が奴の大剣にぶつかって砕けると矢の雨の中で奴が動いた。
「もうこの痛みにも慣れたな」
そう言うと矢の雨から飛びだして、イルマスと正面から向き合った。
2つのナイフと炎を帯びた大剣がぶつかる。




