五十層7 パーフェクト
「ひどいのお。泣き面に蜂じゃ」
リッチャンは「交渉決裂、人族の進軍と厄災の獣の挟み撃ちに」という見出しの記事を見つつそう呟く。
それからガラリとした家を見回すと、リッチャンは着物を立てかけるスタンド――衣桁に掛けられた桜色の着物に目をとめた。
「死に目に会えずすまん。親不孝な娘を許してくれ、母上」
そう呟くと数多の武具を持って、家を出た。
―|―|―
「おのれ、パーフェクトフォームである私ならば獣風情三体いようが三万いようが敵ではないというのに」
リッチャンが地を掛けていくと、白髪の男が苦々し気な顔をしてローブを着た女が放つ紫色の光弾を弾いているのが見えた。
コイツらは一体何者だろうか。
どう見ても厄災の獣と関係があるようには見えない。
「そこのもの、中々の者と見受けるが一人で厄災の獣を相手するのはつらかろうて。わしも助太刀しよう。つかぬことを聞くが、聖獣様はどこにおられる? 姿が見られんようだが」
どうやらリッチャンの発言と目の前にいる獣というには似つかわしくない女――厄災の獣から察するにあの淫獣はこの魔界を守る義務的なものを負っているようだ。
前の様子的にそれを果たせるだけのスペックがあるようには思えないのだが。
「いかにも私が、三体の厄災の獣を葬り去る使命を帯びたロリコーンである」
「いや聖獣様は馬のはずじゃ。人ではない」
「私は人でも馬でもなあああい!(怒) あの姿は私の魔界への愛のカタチだ。故に私はあの姿を究極の愛のカタチ――パーフェクトフォームと呼んでいる。私への知識の薄さ、貴様それでは魔界の人間か!(怒)恥を知れ、恥を!」
ロリコーンと名乗る白髪の青年はまくし立ててそう語る。
俺は悟った。間違いないコイツはあの淫獣だ。
この口から漏れ出すほどの幼女への情熱を持ち合わせてるのは奴しかいない。
奴が要するに言いたいのは幼女にチヤホヤされたいから鉄壁の意志で馬に擬態しているということだろう。
「す、すまんの。してどうしてその姿に」
「魔界が呪いで汚染されてる故に聖なるものの私が弱体化させられておるからだ。パーフェクトフォームを維持する余裕がなくなってしまったのだ。しかも獣どもは呪いで逆に強化されてるからな」
「呪具のせいか、こんなところにまで影響を……」
ロリコーンの行った事実を深刻そうな声音でリッチャンが呟く。
どうやら呪具を使うことは魔界で異様に尊敬の念を集めているロリコーンの弱体化につながるらしい。
奴の実力が知れないので何とも言えないが、奴と対立した時は使えそうではある。
「呪具を使っている者がいる現状呪いを払うのは無理じゃが、聖なる力を強めることは……。聖獣様、強める手段はないのか?」
「ある。私の近くに魔界が魔界である所以(幼女)を連れてくるのだ。幼女と私が一つになる時、聖なる力は増幅される」
奴の欲望を全快にしているだけのような気がするが、リッチャンはこくりと頷いた。
―|―|―
「ほらあ、お馬さんだよお! 背中にまたがってぇ!」
数時間後に早送りすると血走った眼で幼女に背中に乗るように催促する変態の姿があった。
「きゃああああああ!」
幼女たちは当たり前のように悲鳴をあげて逃げていく。
「待ってよおおおおお! いっしょに遊ぼうよお!」
それを追いかける変態が四つん這いで追いかけていく。
完全に犯罪の現場だ。
「先生あれは一体」「変態だな」
その姿を見たノルアクアが今現在のような光のない瞳で呟き、ノイマンが冷静な答えを返す。
リッチャンはどこか遠いところを見ている。
「ふう、力を十分ではないがチャージすることが出来た。目の前の魔女くらいなら倒せるだろう」
そう言うとロリコーンは早速魔女の元に駆けていた。
「二人ともすまんな。魔界全土の幼女を集めてこいなどと無理難題を押し付けて」
「いえいえ先生の頼みなら」「兵士の俺はどうせ災厄の獣と戦う事になってし、おそかれはやかれそうなったからな」
「助かったぞ、わしは聖獣様の助太刀に行ってくるき」
リッチャンは武器を周りにおろすと、魔女に全武器を使っての掃討を始めた。
「すごい!」「さすがだな」
魔女が断末魔をあげると諸手を挙げて二人は喜んだ。
リッチャンの視界は喜ぶ二人の顔から二人の左手に移った。
奴らは同じ指に同じ形の指輪をつけていた。
「ほう、ついにやったか、ノイマンよ」




