五十層6 経過
「あの素晴らしい武具の類を返還しろだと? ならぬ。この十年であの武具は魔界にとって必要不可欠なものになっているのだ」
リッチャンが掛けあったところ、上層部の代表の中年男からはそんな返事が返ってきた。
「うむ」
リッチャンの視界に十年前の貧相な魔界とは違い、物資が豊かになり、不自由のない暮らしぶりをしている魔人たちの姿が映る。
呪具という武力をチラつかせて、人族との貿易を有利に進めているとはいえ、確かに魔人たちは幸せそうに日々を過ごしていそうだ。
どうやらリッチャンの中で呪具の危険性よりも現在の人々の生活を大事にする方に天秤が傾いたようだ。
「ディアナ殿、武具の特性を余すことなく引き出せる貴君ならば素晴らしい呪具の使い手になることだろう。是非ともその気になれば申し出てくれたまえ」
「これ以上武力を増強しても意味がないじゃろうて。わしは本業に戻らせてもらうき」
「それは残念だ。魔界の更なる繁栄が約束されると思ったのだがな」
―|―|―
「もうちょっと気を楽にして良いからね」「力を込めすぎだ」
リッチャンは復職をするために、学校に行くと青髪サイドテールの女と黒髪短髪の男が子供たちに武器の使い方の指南をしていた。
「ご苦労さん。熱が入るの」
「いえいえ、そんな教師見習いとして――」
サイドテールの女は顔をリッチャンに向けると、言葉を詰まらせて黄色の瞳を揺らした。
よく見るとそいつはノルアクアだった。
幼少期と現在の中間のような見た目なので、認識の網をうまい具合に通過して気付かなかったが、顔を正面から見れば一発だ。
「先生? 先生ですよね。会いたかった!」
「おう、お主“ ”か! 少し見ん間に大きくなったの」
俺が気付くと同時に、リッチャンに奴は抱き着き、リッチャンは自分の胸に顔を埋めるノルアクアに喜びの声を上げていた。
「また俺の“ ”が……」
ノルアクアに後ろにいた黒髪の男が嘆息混じりの声を上げて、リッチャンを見る。
この反応から見るに奴はノイマンだろう。
あどけなさが完全に消え、少し少女よりだった容姿は精悍な青年に変わっており、正面から見ても同人物だと思えない。
「おう、ノイマンか! ちこう寄れ」
「先生、勘弁してよ。恥ずかしいって」
近づいていたノイマンはリッチャンに抱き留められ、少し頬を赤くし、恥ずかしそうにする。
どうやら変わったのは見た目だけらしい。
―|―|―
それからリッチャンとの十年ぶりの再会を喜ぶ二人と話し、ノルアクアが教師見習いになったこととノイマンが兵士になったことを知ると久しぶりにリッチャンは稽古をした。
リッチャンが二人の実力を見極めて、皆伝の言を述べると学校の方から一人の教師が血相を変えて走ってきた。
「大変だ。厄災の獣たちが目覚めた」




