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五十層3 外套

「略役はあと十年後だったはずじゃが、えらく速い招集じゃのお」


 略役。

 記憶の感じからするとどうやら魔界ではやせた土地故に常時資源不足に悩まされているようで、民には無限迷宮に潜って資源を集める義務が課せられているようだ。

 リッチャンはここまで五年くらいは教師業に従事し、ノルアクアとノイマンに乞われて、放課後に稽古をつけていたがどうやらここで一旦お別れらしい。


 再生中の視点は何やら道具がある場所を目まぐるしく動いているところから見るにリッチャンは荷造りの途中のようだ。


「これも要るか、これも要るの」


 インベントリの中に羊羹やらこけしやらを詰めていく。

 するとガラリと戸を開ける音が聞こえた。


「「お邪魔します!」」


 遅れて少年少女の高い声が聞こえてくる。

 声の調子からしてノルアクア達だろう。

 いつも世話になってる師匠を見送りにって所だろう。

 こんな出来た子供が人の命をプリンに例えるようになるとは世の中感慨深いもんだ。


「ディアナ、生徒さんがお見えよ。ゴホゴホ」


 リッチャンの母親がせき込みながら、二人を連れて来た。

 子供時代からあまり体の加減が良くなかったが、最近はことさらに体調が悪そうに見える。


「母上、無理をせずに布団に包まっていればいいのに」


「何これくらい死にかけのババアにも楽々できますよ。それに言われずとももう包まります」


 そうリッチャンの母親がごちり終わると奴の背後から、待ってましたと言わんばかりに二人の子供が飛びだした。


「ディアナ先生!」「先生!」


 黒髪の少年は途中で気恥しそうにストップをかけたが、青いツインテールの少女はそのままの勢いでリッチャンの腹に飛び込んでくる。


「会いに来ました!」


 密着したノルアクアは頬を赤く上気させ、上目遣いに見上げる。

 中々の破壊力だ。

 俺の理性に致命的なダメージが入ったが、なんとか踏ん張る。

 もし俺がロリコンだったら、理性崩壊した挙句にラクリマに頭を突っ込んで絶命していたところだ。


 よもや記憶閲覧にも死の危険があるとは。

 ロリには注意しなければ。


「おお! お主ら、よう来たの!」


 リッチャンは2人の往来を素直に喜ぶと、その様子を見たリッチャンの母親が微笑を浮かべて「では」と言って去っていた。

 随分と出来た母親だ。


「いつまでもくっつくなよ! “    ”」


 リッチャンの母親が去るとノイマンが慌てた様子でノルアクアを引きはがす。

 名残惜しそうにノルアクアが離れていくと、「今日はやることがあるだろ」とノルマンが促した。


「それはそうだけど」「このまま行くと忘れちゃうよ、やろう」


 別れる前に存分に師匠と接したそうなノルアクアと師匠にノルアクアを奪われないかと危惧するノイマンは平行線を辿るかと思われたが、ノルアクアの憂いのある顔を見るとぐぬぬとした表情をしてノイマンが折れた。


「俺の負けだ、“    ”は持っていけ先生」


「何の勝負じゃ、それよりもまず“    ”はお主のものじゃないぞ」


「ぐぬぬぬ!」


 厳しい現実を突きつけられ、ノイマンが表情だけでなく、声までもぐぬぬをさせると、ノルアクアは再びリッチャンに抱き着いた。




 ―|―|―




「ディアナ先生、実は今日先生に渡したいものがあるんだ!」


 ノルアクアたちはついに別れる段になるとリッチャンにそう切り出した。


「はて、何じゃ?」


 全く見当がつかないといった声音でディアナが聞くと、二人は後ろを振り向き、インベントリから何かを取り出した。

 2人はそれぞれ左右に広がっていって、それの全容を明らかにする。

 それは黒い外套だった。


「私たちで作ったんだ! 無限迷宮の中は寒い(・・)て聞いたから何か羽織れるものをと思って」


「別に先生のためじゃないだからな! “    ”が作るっていうから」


 ノルアクアは嬉しそうに、ノイマンは頬を赤らめて恥ずかしそうにリッチャンに向けて差し出す。


「ありがとう! 二人ともようがんばったな! でかしたぞ!」


 リッチャンは感極まったのか、視界を潤ませると、外套ごと二人を抱きしめた。


「えへへへ」「苦しいよ」


 ノルアクアは見たものを蕩けさせるような満面の笑みを、ノイマンは耳の先まで顔を赤くしてこそばゆそうな表情を浮かべた。

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