十層12 大弓
ガントレットと刃が摩擦を起こして、火花が散り、赤い瞳と黄色い瞳が向かい合った。
両者の間に緊張や気負いはない。
まるで稽古をするような落ち着きがそこには存在した。
両者の言葉のやり取りからして師弟関係にあることは分かっていたが、イルマスの生殺与奪をめぐって刃を交えたというのに、どうしてそこまで自然体であれるというのだろうか。
俺には全く不思議ではならない。
考えても仕方のないことだと決着をつけるととりあえず、イルマスをあの場から離すことにする。
あんな場所に負傷された状態でいたら、命が無量大数あったとしても足りないのだから。
「ファイル、あいつを回収してくれ。あそこにいたら余波だけで吹っ飛びかねん」
俺が予想よりも大げさにファイルに伝えると、数舜も置かずに地面が波打ちイルマスをこちらまで連れて来た。
こと地面に接している状態であれば土魔法が使える魔術師はやはり心強い。
二人の人間が決死の覚悟で突っ込まなければならないことが免除され、一瞬の内にこちらに連れてくることが出来る。
やはり魔術師は一人でもいると助かるものだ。
スムーズにイルマスを回収できたことだし、流れに乗ってここからお暇したいところだが、あいにく下手に動くと何をしでかすかわからない連中なのでこれ以上は動くことが出来ない。
もしかしたら敵前逃亡とは何事かと、謎の理屈をごねて真っ先に抹殺されることもなきにしもあらずだ。
第一、今現在このパーティーの最大戦力であるリッチャンとここで分断されれば、他にも居るかもしれない異様に戦闘力の高い魔族の仲間たちにやられる公算がデカい。
ここは待機の一択しかない。
「ばあ様がやる気か。呪具なしのボスだけじゃ心元無いな。俺も行くか」
そう決断すると、向こうで同じ様に状況を見守っていた魔族の一人、タックスが拳と剣で応酬を始めた二人の間に向かっていく。
するとリッチャンの髪の一房が解けて、封でグルグル巻きにされた大きな棘が三つある大弓が出現した。
瞬く間に封が解けるかと思うと弦が弾かれ、赤黒いオーラで構成された矢が放たれた。
「おいウソだろ。本気かよ……」
タックスはそれを見ると顔を青ざめさせ、犬歯を剥き出しにした。




