十層8 歪
幾何学模様の石板のようなものが、紫色の魔法陣の上でクルリ、クルリと回っている。
その近くにはおあつらえむきのように魔力を供給するための比較的大きなコンテナが存在している。
今目の前に広がるこの場所は典型的なダンジョンコアが存在する場所だと分かった。
違法な手段で攻略する人間たちがここを狙っているというが、あいにくとして周りにはそんな奴らの気配は存在しない。
「目的の場所に到着したのはいいが、肝心の奴らが見当たらないんだが……」
先を急いでいたミステルトの背中に対してそう進言すると奴は振り返らずに淡々と告げる。
「いえ、見当たらないだけですぐ近くまで迫っていますよ。具体的に言うと上に」
その言葉に従って上空に向けて視線を飛ばすと、ちょうど空間に歪が生じて、四つの者が現れた。
一人は金髪の軽薄そうな中年男。一人は半眼の眠そうな少女。一人はポニーテイルを躍らせる快活そうな少女。一匹は頭に剣を生やした凛々しい馬。
「前持って言っておいてくれよ」
最初からあの地点に出現すると分かっていれば、空中で相手側を打てたかもしれないが、今から打っても地面に落下する方が速い。
仕方なく着地直後を打つことに狙いをシフトする。
奴らの落下する予想地点を見ると早速中年男がきれいに足から落ちて来た。
「ふう、参ったぜ……。着地までダンディになっちまうとは我ながら自分が恐ろし……グェェェ!」
照準つけて悦に浸っている中年男の眉間に向けて撃つと、上から落ちて来た三者に男が潰され、矢はその上を抜けてしまった。
「悲鳴が汚い」「エナ―の為にごめんね☆」「ロリコォン……!(聖獣の下敷きになれることを誉に思うことだな!)」
下敷きにされ、二次元に近いフォルムになった男は仲間たちに小言をもらいながらむくりと立ち上がる。
「俺たちは通りすがりの魔族だが。あんたたち何者だい?」
「……」
そして全てをスルーして、何事もなかったようにそう訊ねて来た。
奴の精神は鋼で構成されているようだ。




