十層4 勧告
「俺たちが協力することを頼りにするような口ぶりだが、まず俺たちにそれをどうにか出来る能力があるかどうかとか、協力に応じるのかとか考えなかったのか?」
奴の物言いにまず大前提とすることが抜けているように感じたのでそう指摘すると、言われた本人は首を傾けた。
「最初からそうすればいいと分かっているというのに、どうしてあなた方を実際に見分してから判断する必要があるんですか?」
実際になぜ見分しなければいけないだと……?
そんなものは見なければわからないからに決まっているだろうに……。
逆にコイツは見ずともわかるとでもいうのだろうか。
そうなれば未来予知、または『神からの啓示』という可能性が考えられる。
迷宮の管理なんて裏方の仕事をしている割に、偉く豪勢な能力を持っているものだ。
「お前には未来が分かるってことか?」
「そうですが、それが何か」
運よく的中してほしくない予想が的中した。
もはや運がいいのか悪いのかわからない。
「――ああ。そういえば外の人間にはこの手の能力を持った者が少ないんでしたね」
どうやら地上で未来予知が別格のものであるということに気づいた――もとい思い出したらしい。
この反応からしてずいぶんの間地上の人間とは接したないだろうことは想像に難くない。
「少ないも何も未来が予知できるのなんて聖女くらいしか知らないです……」
「だな! そんなに聖女レベルの職業病を持っているのが居たなら聖女は必要ないからな!」
「魔界にもそんなものはおらんな」
「未来予知できるっていうのなら僕たちの助力がなくとも、どうにかする方法くらいはあるんじゃないですか?」
アイリッシュを皮切りに皆が予知について口にすると、イルマスがそう素朴な質問を投げかけた。
確かにそれもそうだ。
別に俺たちの協力がなかったとしても、この女には自分一人でどうにか出来るほどの能力があるのだ。
一人でやるのは確かに面倒も多いが、わざわざ外部の手を借りる方を取るだろうか。
本来姿を現さない表舞台に出てまで。
「いえ、ありませんね。あなた方の助けがなければこのことはどうすることも出来ないので」
「相手がすることが百パーセント分かってても対応できないてのはどういう事態なんだ」
「言えません」
俺がそう訊ねるときっぱりと俺の疑問を跳ねのけた。
ふざけているのか、コイツは。
言えないということは俺たちが断る可能性が生まれるということ――俺たちにとって不都合があるということだ。
不都合を隠すためにウソをついてないだけましだが……。
ウソをつかなければいいというわけではない。
「言えんということはこちらにも不利益があるということじゃき。じゃがそれを差し置いても、これだけの能力を持ったもんがワシらと動いてくれるということは大きなメリットじゃなかろうか」
俺が奴に対して不信感を募らせているとリッチャンがそう助言してきた。
デメリットがあるからと言って、コイツを捨てるのは惜しいか……。
確かに先んじて展開が分かっているコイツと懇意になれば、安全に攻略が出来るし、いつものような突発的な罠や裏切りで苦難に陥ることもない。
いつも死と隣合わせのこの攻略で仮とはいえ命の保証がされるだけでも大きなメリットだ。
保障されている間は警戒からくる心労は軽減されるし、致命傷からくる身体的ダメージに苦しむこともない。
これだけのことがあれば、効果の高いエンチャントを幾重にもかけられているのと変わりない。
デメリットがあろうが組むうまみは十分ある。
ただデメリットの大きさがどれほどのものなのか正確に把握できていなかったことだけが懸念事項だ。
デカすぎれば報復されることも込みこみで予知している可能性も高いので無いと思うが、それでも協力を断られると予知するくらいにはひどくはある。
最悪の次点を確実に通過することは覚悟しなければならない。
「確かに一理はあるな。しばらくは様子見で組ませてもらおう。あまりにもひどかった場合は報復させてもらうが」
「ホーフクですか。どういったものかわかりかねますが、期待しときましょう」
聞きなれない発音でそんなことを奴は呟くと俺にそう宣った。
コイツはよほどドエムか、心が鋼鉄で錬成されているのだろうか。




